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しおりを挟むパーティの一件以来、なぜかコリーナ達に表立って嫌がらせをされることはなくなったが、リーヴィアの置かれている状況には特に変化はないまま、卒業が3ヶ月後に迫っていた。
週末、リュネール家の面々がラルスのヴァルノー家に呼び出された。
両家の親睦を深める為に食事会をする、とかいう名目なのだが気が進まないことこの上ない。
そこでヨハンナのババアがとんでもないことを言い出した。
「卒業まで時間が無いんだからウエディングドレスの最終チェックをしなくっちゃね」
「は?」
「ウエディングドレスはね、ちゃんと私がデザイナーと話し合って仮縫いまでできてるから。
サイズは大体合ってるはずだけど一応合せとかないとね?」
「は?」
「結婚式はセント・キアーラ大聖堂で卒業式の翌日に予約してあるから」
「は?」
「ちょ、・・・ちょっと待って下さい。
あの、いくらなんでも早すぎませんか?
ラルスさんだって大学とか行くでしょう?」
リーヴィアは同意を求めるようにラルスを見る。
「ラルスは大学行ってたって結婚はできるでしょう?」
「えっ?ラルスは?って私は?
私も大学に行くつもりで準備してるんですけど・・・」
「ラルスは男の子だもの。大学くらい行くわよ。
でもリーヴィアちゃんには必要無いから」
「え?私だって大学行きたいです。その為に勉強だって頑張ってきたんです」
リーヴィアは涙目だ。
「リーヴィアちゃんはダメよ。行く必要無いわ。
大学なんか行ってたら年くっちゃうでしょ?
若いうちになるべく沢山赤ちゃん産まなくちゃ!
お孫ちゃんができるの楽しみだわ~」
「だけどヨハンナおばさま、ラルスさんだって、大学に行けば素敵な女性が沢山いて私と急いで結婚なんかしたらきっと後悔すると思うんです!」
「そんなこと無いわよ~。
あるはずがないわ。
そうよねラルス」
ヨハンナは断言する。
「ねぇ、お父様。お父様は私が大学に行くこと賛成してくれてたわよね?」
縋る思いで言ったリーヴィアからダヴィッドは視線を外した。
「ねぇ、お母様!」
キアラも黙っている。
「・・・リーヴィアの言うことも一理あるよ。
お互い期間を置いて見極めた上で、やっぱりこの人が良いと思えてからで良いんじゃない?」
「それはダメよ」
ラルスの助け船を一言で却下するヨハンナ。
その間ラルスの父フェリクスは賛成とも反対とも言わずニヤニヤしている。
ラルスは強引な母の言い方にムカつくと同時に、それ以上になぜ自分の娘のことなのに親身になってやらないのかリーヴィアの両親に対して腹が立った。
ラルスはリーヴィアの絶望して魂が抜けたような顔を見ると、自分がどうにかしなくちゃいけないと思った。
「一度キチンとご両親にご挨拶に行きたいんだけど」
ラルスがコリーナに言った。
「え?なんで?」
「・・・なんで、って・・・。もうすぐ卒業だし、将来のこと考えたらハッキリしときたいし」
「ハッキリって?何を?」
「結婚とか」
「はあ?結婚?誰が?誰と?」
「俺とコリーナだけど」
コリーナがケラケラ笑い出した。
「私が?アナタと?あり得ないんだけど」
「・・・え?」
ラルスはポカーンとした。
ラルスはコリーナの両親に気に入られて正式にダ・シルバからヴァルノーに結婚の申し込みをして貰うつもりだった。
流石の母親もダ・シルバからの申し込みにNOとは言えまい。
コリーナには若干性格に難があるが、それも含めて可愛いと思っていた。
ストレートに感情をぶつけてくるコリーナと一緒にいるのは気楽だった。
コリーナはこんなにダイレクトに愛情を示してくれるんだから、俺もそれに応えながら幸せに生きていけるはず。
性格がクズなのはお互い様なんだし。
そう思っていたのに。
「・・・え?・・・だって君・・俺のこと愛してるって・・」
「ヴァルノー如きと結婚してウチに何かメリットある?」
「・・・・・」
まあ、そうだけど。
「・・・え?・・・じゃあ、なんで君は俺と一緒にいたの?」
「とりあえず学園で1番見てくれが良いから。
アンタ連れて歩くと羨ましがられるし、気分良いし」
「・・・あ、・・・そう・・なんだ」
ラルスはなんとも言えない気分になった。
傷ついたような、それでいてどこかホッとしたような。
「ラルスだってそうでしょ?」
コリーナはフッと笑った。
「ラルスだって本当は私のことなんかちっとも好きじゃないよね」
「そんなことは!」
「いいって、いいって」
コリーナはリーヴィアの口癖を口調まで真似て悪い顔で笑った。
「利用したのはお互い様ってことで。
ね?」
コリーナは凄く可愛い顔で笑った。
「あの子のこと、本当は気になってて仕方ないんでしょ?」
「・・・・」
「大丈夫。
私だって、家の都合で提携先の息子か政治家の息子かなんかと結婚させられるの。
愛せる相手か愛してくれる相手かも分からない人と。
そうなる前に1回くらい恋愛ゴッコしてみたかったのよ。
皆が羨ましがるイケメンと」
黙ってしまったラルスを冬の弱々しい光が照らす。
「ねぇ。私達ってこれからも友達でいられる?」
そう言ったコリーナの声がなんだか震えてるみたいだった。
「・・・うん。・・・お互い様だしな。
俺はコリーナのこと、ちゃんと好きだったと思うし、・・・幸せでいて欲しいとも思ってるよ」
コリーナがほんの一瞬、見たこともない気弱な表情を見せて、またすぐいつもの顔に戻った。
「素直になって、あの子に向き合えば?」
「・・・絶対に、それだけは絶対にダメなんだ」
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