そして私は惰眠を貪る

猫枕

文字の大きさ
上 下
15 / 62

15

しおりを挟む
 
 結局4人が駅まで戻ると「先に帰る」と伝言板にラルスのメッセージが残されていた。

『あの人達、何しに来たんだろう?』

 ポカーンとしながらリーヴィアは、

「お土産見よう!」
 
 と皆を誘った。
 地層バウムクーヘンの試食を食べて、地層から出たという木の葉の化石を買ったりした。

 それから帰りの列車ではリーヴィアとヴェリタスが隣同士、ジャンとアガタが向かいに並んで座った。

「しりとりしようよ」

 共通の話題が無いのでリーヴィアが提案する。

「・・・なんか気を使わせてゴメンね」

 アガタが気弱に笑う。

「・・・ホントは来る時も楽しくなかったんだよね。
 コリーナはずっとラルスとベタベタしてて私はお邪魔って感じだったし」

「目に浮かぶようだわ」

 ヴェリタスが笑う。

「ヴァルノー君はなんだってあんな高慢チキな女の子が好きなのかなあ?」

 ジャンが純粋に疑問だと言わんばかりに言ったので、ヴェリタスは飲みかけのオレンジジュースを吹きそうになってむせた。

「まあ、美人だし大金持ちのお嬢様だし、私なんかと一緒にいるより遥かに人生イージーモードでしょ」

 あっけらかんとリーヴィアが言うと、

「そうかな~。リーヴィアの方がずっと可愛いと思うんだけどな」

 と言ったジャンがハッと口を噤んで赤くなった。


「あの、リュネールさんはラルスがコリーナばかり相手にしてること気にしていないの?」

 とアガタが聞いた。

「うんにゃ。全然」

「・・・ラルスが婚約を解消したがっているのにリュネールさんが執拗に食い下がってるっていうのは・・・?」

「それ、嘘だから」

 リーヴィアの代わりにヴェリタスが答える。

「詳しい話はできないけど固執してるのはヴァルノー家の方。その噂だってラルスかコリーナさんが都合よくでっち上げたんじゃないの?」

 ヴェリタスはプレッツェルをバリバリ噛みながら言った。

「ちょっと考えればわかるじゃん。リュネールよりヴァルノーの方がずっと家格も経済規模も上なんだからさ。
 リュネールがゴネて嫌がるヴァルノーに粘着してる、なんてあり得ないでしょ?」

「・・・・」

 アガタは訳がわからない、という顔をした。


「あ、そだ。
 コッタさんからダ・シルバさんに、私は全然気にしないからダ・シルバさんの家の力でどうぞラルスを戴いちゃってください、って言ってくれないかなあ?
 ダ・シルバさんのお家からの直々の申し込みだったらヴァルノー家も受け入れざるを得ないだろうから」

 リーヴィアがヴェリタスから貰ったプレッツェルを丸ごと口に突っ込んで、口元を変形させながらそんなことを言うのをアガタは居た堪れない気分で聞いていた。

 一体今まで自分達はなんの為にこの人に嫌がらせをしていたのだろう?

「・・・リュネールさんがこんなに喋る人だなんて知らなかった」

「いっつもゴキブリみたいに隅でコソコソやってるからね」

 リーヴィアがハハハと笑う。

「・・・私が口出しできるような話じゃないけど、もし機会があればコリーナに言ってみるね」

「よろしく~」


 しりとりゲームが始まると3人がやたらと『月光騎士団』に関連したワードを連発するので、

「・・・もしかして『月光騎士団』?」

 とアガタが言って、

「あーハイハイ私達はオタクですよ」

 というヴェリタスの言葉を遮って、

「私もファンなんだ」

 とアガタが恥ずかしそうに言った。

「なんでそこで恥ずかしそうにするのかなあ?」

 リーヴィアが不服そうに言うと、

「だって、オタクだと思われるから・・・」

 と言ってしまってからアガタは口を押さえた。

「いいよ、いいよ」

 リーヴィアが言うと、

「真の信仰は迫害の下でこそ試されるのだ!」

 ヴェリタスが言って、常に持ち歩いている単行本を出した。
 ヴェリタスは床にナプキンを敷いてその上に本を載せた。  

「さあ!汝踏むがよい!」

「ちょっと、やめなよ~」   

 とジャン。

「ほれほれ」

「それそれ」

 囃し立てるリーヴィア&ヴェリタス。

「お、お許しください!」

 アガタも乗ってきた。

 
「流石に団長が表紙の本は踏めないわ」
 
「え?アンタ団長推し?」

 いつの間にかアンタ呼びになったヴェリタスがアガタに聞く。

「みんな好きだけど特に団長かな」

「私はヤーノシュ」

「可愛いよねヤーノシュ」

「ジャンってヤーノシュっぽくない?」

「うん。実は今朝集合場所で会った時そう思った。
 学校で見る時よりずっとカッコいいよね」

「ジャンって優しいし柔らかい感じするけど、ハイキングの時荷物持ってくれたり崖登る時手を貸してくれたりしてさ、しっかり男の子って感じしなかった?」

「分かる~。腕に浮かんだ筋肉が素敵よね」

 本人を前にして3人の娘達の話がヒートアップしていく。
 もはやジャンの話をしているのやらヤーノシュの話をしているのやら判然としない状況であったが、一人顔を赤くして所在無さ気に俯いていたジャンが状況を打開しようと、また余計な一言を発した。


「リーヴィアとヴェリタスは『月光騎士団』のキャラが登場するオリジナルストーリーを作ってるんだって」

 一瞬シーンとする車内。

「えっ?それは是非読みたいな!」

「無理」

「ゴメンね。それだけは無理」

「・・・・・」

 さっきまで和やかだった空気が途端に冷える。

「・・・そうだよね。・・・ゴメンね、友達でもないのに。むしろ嫌がらせしてたのに。
 図々しいこと言って」


「ち、違うの!!」

 リーヴィアが慌てる。

「恥ずかしくて見せられないだけなの!!」

「僕にも見せてくれないんだ」

 ジャンが慌てて助け舟を出す。

「そうなの。ジャンとも約束してるんだけど、もっと納得のいく物が書けたら見せるって」

「だから、その時はアガタにも読んでもらって感想聞かせて欲しいな」


 団長とヤノーシュがあんなことやこんなことをしている小説など見せられるハズが無いではないかっっ!!


 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

〖完結〗旦那様が私を殺そうとしました。

藍川みいな
恋愛
私は今、この世でたった一人の愛する旦那様に殺されそうになっている。いや……もう私は殺されるだろう。 どうして、こんなことになってしまったんだろう……。 私はただ、旦那様を愛していただけなのに……。 そして私は旦那様の手で、首を絞められ意識を手放した…… はずだった。 目を覚ますと、何故か15歳の姿に戻っていた。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全11話で完結になります。

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている

五色ひわ
恋愛
 ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。  初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く

ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。 逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。 「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」 誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。 「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」 だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。 妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。 ご都合主義満載です!

嘘つきな私が貴方に贈らなかった言葉

海林檎
恋愛
※1月4日12時完結 全てが嘘でした。 貴方に嫌われる為に悪役をうって出ました。 婚約破棄できるように。 人ってやろうと思えば残酷になれるのですね。 貴方と仲のいいあの子にわざと肩をぶつけたり、教科書を隠したり、面と向かって文句を言ったり。 貴方とあの子の仲を取り持ったり···· 私に出来る事は貴方に新しい伴侶を作る事だけでした。

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

処理中です...