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しおりを挟む結局4人が駅まで戻ると「先に帰る」と伝言板にラルスのメッセージが残されていた。
『あの人達、何しに来たんだろう?』
ポカーンとしながらリーヴィアは、
「お土産見よう!」
と皆を誘った。
地層バウムクーヘンの試食を食べて、地層から出たという木の葉の化石を買ったりした。
それから帰りの列車ではリーヴィアとヴェリタスが隣同士、ジャンとアガタが向かいに並んで座った。
「しりとりしようよ」
共通の話題が無いのでリーヴィアが提案する。
「・・・なんか気を使わせてゴメンね」
アガタが気弱に笑う。
「・・・ホントは来る時も楽しくなかったんだよね。
コリーナはずっとラルスとベタベタしてて私はお邪魔って感じだったし」
「目に浮かぶようだわ」
ヴェリタスが笑う。
「ヴァルノー君はなんだってあんな高慢チキな女の子が好きなのかなあ?」
ジャンが純粋に疑問だと言わんばかりに言ったので、ヴェリタスは飲みかけのオレンジジュースを吹きそうになってむせた。
「まあ、美人だし大金持ちのお嬢様だし、私なんかと一緒にいるより遥かに人生イージーモードでしょ」
あっけらかんとリーヴィアが言うと、
「そうかな~。リーヴィアの方がずっと可愛いと思うんだけどな」
と言ったジャンがハッと口を噤んで赤くなった。
「あの、リュネールさんはラルスがコリーナばかり相手にしてること気にしていないの?」
とアガタが聞いた。
「うんにゃ。全然」
「・・・ラルスが婚約を解消したがっているのにリュネールさんが執拗に食い下がってるっていうのは・・・?」
「それ、嘘だから」
リーヴィアの代わりにヴェリタスが答える。
「詳しい話はできないけど固執してるのはヴァルノー家の方。その噂だってラルスかコリーナさんが都合よくでっち上げたんじゃないの?」
ヴェリタスはプレッツェルをバリバリ噛みながら言った。
「ちょっと考えればわかるじゃん。リュネールよりヴァルノーの方がずっと家格も経済規模も上なんだからさ。
リュネールがゴネて嫌がるヴァルノーに粘着してる、なんてあり得ないでしょ?」
「・・・・」
アガタは訳がわからない、という顔をした。
「あ、そだ。
コッタさんからダ・シルバさんに、私は全然気にしないからダ・シルバさんの家の力でどうぞラルスを戴いちゃってください、って言ってくれないかなあ?
ダ・シルバさんのお家からの直々の申し込みだったらヴァルノー家も受け入れざるを得ないだろうから」
リーヴィアがヴェリタスから貰ったプレッツェルを丸ごと口に突っ込んで、口元を変形させながらそんなことを言うのをアガタは居た堪れない気分で聞いていた。
一体今まで自分達はなんの為にこの人に嫌がらせをしていたのだろう?
「・・・リュネールさんがこんなに喋る人だなんて知らなかった」
「いっつもゴキブリみたいに隅でコソコソやってるからね」
リーヴィアがハハハと笑う。
「・・・私が口出しできるような話じゃないけど、もし機会があればコリーナに言ってみるね」
「よろしく~」
しりとりゲームが始まると3人がやたらと『月光騎士団』に関連したワードを連発するので、
「・・・もしかして『月光騎士団』?」
とアガタが言って、
「あーハイハイ私達はオタクですよ」
というヴェリタスの言葉を遮って、
「私もファンなんだ」
とアガタが恥ずかしそうに言った。
「なんでそこで恥ずかしそうにするのかなあ?」
リーヴィアが不服そうに言うと、
「だって、オタクだと思われるから・・・」
と言ってしまってからアガタは口を押さえた。
「いいよ、いいよ」
リーヴィアが言うと、
「真の信仰は迫害の下でこそ試されるのだ!」
ヴェリタスが言って、常に持ち歩いている単行本を出した。
ヴェリタスは床にナプキンを敷いてその上に本を載せた。
「さあ!汝踏むがよい!」
「ちょっと、やめなよ~」
とジャン。
「ほれほれ」
「それそれ」
囃し立てるリーヴィア&ヴェリタス。
「お、お許しください!」
アガタも乗ってきた。
「流石に団長が表紙の本は踏めないわ」
「え?アンタ団長推し?」
いつの間にかアンタ呼びになったヴェリタスがアガタに聞く。
「みんな好きだけど特に団長かな」
「私はヤーノシュ」
「可愛いよねヤーノシュ」
「ジャンってヤーノシュっぽくない?」
「うん。実は今朝集合場所で会った時そう思った。
学校で見る時よりずっとカッコいいよね」
「ジャンって優しいし柔らかい感じするけど、ハイキングの時荷物持ってくれたり崖登る時手を貸してくれたりしてさ、しっかり男の子って感じしなかった?」
「分かる~。腕に浮かんだ筋肉が素敵よね」
本人を前にして3人の娘達の話がヒートアップしていく。
もはやジャンの話をしているのやらヤーノシュの話をしているのやら判然としない状況であったが、一人顔を赤くして所在無さ気に俯いていたジャンが状況を打開しようと、また余計な一言を発した。
「リーヴィアとヴェリタスは『月光騎士団』のキャラが登場するオリジナルストーリーを作ってるんだって」
一瞬シーンとする車内。
「えっ?それは是非読みたいな!」
「無理」
「ゴメンね。それだけは無理」
「・・・・・」
さっきまで和やかだった空気が途端に冷える。
「・・・そうだよね。・・・ゴメンね、友達でもないのに。むしろ嫌がらせしてたのに。
図々しいこと言って」
「ち、違うの!!」
リーヴィアが慌てる。
「恥ずかしくて見せられないだけなの!!」
「僕にも見せてくれないんだ」
ジャンが慌てて助け舟を出す。
「そうなの。ジャンとも約束してるんだけど、もっと納得のいく物が書けたら見せるって」
「だから、その時はアガタにも読んでもらって感想聞かせて欲しいな」
団長とヤノーシュがあんなことやこんなことをしている小説など見せられるハズが無いではないかっっ!!
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