そして私は惰眠を貪る

猫枕

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 河岸段丘がよく見えるスポットまで来ると、

「ほら、あそこに50万年前の地層が剥き出しになっている」

「この国ではここでしか見られないのよね」

 などとリーヴィア達が盛り上がっているのに対してコリーナは、

「デコボコ道のせいでお尻が痛い」

 だの

「暑い」

 だの

「疲れた」

 だの

「喉が渇いた」

 だのと早速ぶぅぶぅ言い始めた。

 リーヴィアたちが9段になった丘を実際に歩いてみる、と言い出すとコリーナは冗談でしょ?と騒ぎ始めた。

 ここまで来といて行かないなんて、それこそ冗談でしょ?と言ってやりたいところだが、

「じゃあ、ダ・シルバさんはここで待ってる?」

 と聞くと、

「こんな所に置き去りにして私をクマの餌食にするつもりなんでしょ!」

 とうるさい。

「この辺にクマは生息していないよ。
 毒ヘビはいるけど」

 と、またジャンが余計な事を言ったので、コリーナは渋々ついてくることになった。

 ついては来たのだが、案の定ヒール付きのサンダルが災いして300メートルも歩かないうちに足を挫いた。


「駅まで戻れば救護室で手当してもらえるんじゃない?
 駅の近くにはカフェもあるみたいだから休めるし。
 ラルス連れてってあげなよ」

 リーヴィアはしれっと言った。

 もしケガしたのがヴェリタスかジャンだったら即座に予定を中止して引き上げるところだが、勝手に付いてきておいて引っ掻き回されたんではそこまでしてやる義理は無い。

 えっ?と言う顔をしているラルスにコリーナも嬉しそうに、

「ね?それが良いわ。そうしましょう」

 と言っている。

 するとアガタが、

「ちょっと待って・・・私は?
 私は駅までどうやって行けばいいの?」

「「「・・・・・・・」」」

「アンタは私達と一緒に行動するしかないんじゃない?」

 ヴェリタスが言うとアガタが凄く不安そうな顔をした。

「大丈夫だよ。
 私達はアンタ達じゃないから誰かをイジメたりなんかしないから」

 リーヴィアが言うと、

「そうそう。置き去りとか絶対しないから」

 とヴェリタスがニヤつく。

「よしなよ。そんなこと言うの。
 大丈夫だよコッタさん。僕達君を崖から突き落としたりなんかしないから安心して」

 ジャン、お前も悪よのぅ。

 他に選択肢のなくなったラルスはコリーナをおぶって自転車を置いた場所まで戻ることになった。

「ダ・シルバさんの容態次第では私達のこと待つ必要無いから、先に列車で町まで戻って?」

「駅の伝言板に『先に帰る』って書いててくれればいいから」

 リーヴィアとヴェリタスはいかにも親切そうによそ行きの声でコリーナを労った。

「捻挫を甘く見ると、後で大変なことになるから」

「早く町に戻ってお医者様の診察を受けてね」

「気をつけてね」


 名残惜しそうなラルスとラルスの背中でウキウキのコリーナを優しい言葉で見送って、4人は歩きだした。

「なんだかヴァルノー君が気の毒だね。
 あんなに楽しみにしてたのに」

 ジャンが神妙な顔つきで言ったが、ラルスが河岸段丘になんか本当は全然興味が無いことを知っているリーヴィアは、

「あ、でもさっき全景は見たから満足してるんじゃないの?」

 といかにも他人事のように言った。

 
「そんじゃ、行きますか」

 4人は歩き出した。

 アガタは居心地悪そうにしていたが、ジャンやリーヴィアから河岸段丘がどうやって形成されたかの説明を聞いているうちに次第に打ち解けてきた。

 「ほらほらあそこ、堆積した地層がハッキリ縞模様になってる」

「なんかバウムクーヘンみたいだよね?」

「さっき駅の土産物売り場に『河岸段丘バウムクーヘン』って書いてあったよ」

「食べた~い」

 観光用にいくつもビュースポットが設置されていて、リーヴィア達のような物好きがちらほら来ていたが、大人気観光地、というわけにはいかないようだった。
 地元有志のお手製っぽいベンチがペンキの剥げかけた姿で佇んで哀愁を漂わせていたが、そんな『ホントは凄いのに顧みられてない感』がリーヴィア達にはストライクだったりした。

 4人はそこで弁当を広げてオカズを交換したりして食べた。
 
 アガタは3人が以前から友達であったかのように接してくれるので、なんだか鼻の奥がツンとした。

「あ、あのさ、・・・今日は連れて来てくれてありがとう」

 アガタは俯き加減に小さな声で言った。

「こんな素晴らしい風景があるなんて知らなかった」

 アガタがそう言うと皆が「それは良かった」と頷いて見せた。


「・・・私、・・・リュネールさんに意地悪してるのに・・・」

「あー。まあ、気にしてないから」

「・・・でも、明日になったら、・・・学校に行ったら・・・やっぱりまた私は、あっち側にいるしかなくて・・・」

 アガタの目からポトリと涙が落ちた。

「いいって、いいって、私は慣れてるから」

 リーヴィアが笑った。

「コッタさんはいつもダ・シルバさんの後ろにいるけど、一度も私に直接暴言を吐いたことないもんね。

 すれ違いざまに突き飛ばされたこともないし」

 アガタはポロポロと涙をこぼした。

「ま、色々あるさ。それぞれ立場もあるしね。
 私にも友達がいるから大丈夫だよ」

 そう言ってヴェリタスとジャンを見ると2人が笑って頷いた。

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