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しおりを挟む中間発表の日が来た。
「次はコリーナ・ダ・シルバさんの班ですね。前に出てこれ迄の経過を報告してください」
「はい。進捗状況を記載した資料は全てリーヴィア・リュネールさんが管理していますので、彼女が代表して報告します」
コリーナは意地の悪い笑みを浮かべている。
「じゃあ、リュネールさん、前へ」
戸惑いの表情を見せながらノロノロと立ち上がるリーヴィアをコリーナはニヤついた顔で嘲笑う。
『さあさあ、どうする?』
するとジャンも立ち上がって何やら丸めた模造紙のようなものを机の中から引っ張り出した。
リーヴィアはジャンと一緒に前に出る。
「私たちはイーストリバーの治水工事の変遷とそれに伴う町の拡張の歴史について調べているところです」
ジャンが拡大した地図に時代別に色分けした昔の川を記入したものを広げて見せる。
ポカンとしたコリーナの顔が一瞬にして憎悪に染められていく。
「この街の歴史は水害との戦いの歴史でもありました」
2人がおじいさんの話などを織り交ぜて調べてきた事を発表すると、いつもはリーヴィアを馬鹿にしているクラスメートまでが興味深そうに話に聞き入っていた。
「素晴らしい調査ですね。このあとは他に何か調べたりする予定ですか?ダ・シルバさん」
先生に問われた班長のコリーナが言葉に詰まっている。
「できれば模型を作って実際に水を流して実験できたら面白そうなんですが」
ジャンが助け舟を出す。
コリーナが悔しそうな顔を必死で抑えこんで、
「皆の時間的な都合がつけばそうするつもりです」
と言った。
「これで僕達の案が採用されるね」
昼休みにジャンとリーヴィアが弾んだ声で話しているとコリーナがやって来て、
「あんまり調子に乗るんじゃないわよ!」
と憎々し気に捨て台詞を吐いていった。
最近ではリーヴィアとヴェリタスに混じってジャンも一緒にお喋りすることが増えた。
「今までまじまじと見ることなかったから分からなかったけど、こうして見るとジャンってヤーノシュっぽくない?」
ヴェリタスがコソコソとリーヴィアに言って、リーヴィアが人差し指を口に当ててシ~ッ!とか言って肩を震わせる。
「・・・あのさ、ヤーノシュって、『月光騎士団』のヤーノシュ?」
遠慮がちにジャンが聞いてくる。
「えっ?『月光騎士団』知ってるの?」
「・・・うん」
「えー!えー!私たち『月光騎士団』の大ファンで、小説だけじゃなくて舞台も見に行ってるの」
「僕も小説のファンなんだ」
「お芝居は?」
「見に行きたいけど、ホラ、なんていうか・・・近寄りにくいっていうか・・・独特じゃない?」
「オタク女の巣窟って言いたいんでしょ?」
「・・・イヤぁ・・・だから、なんていうか、行きたいけど、なかなか機会が・・・」
「今度一緒に行こうよ」
そんな風に三人が何やら楽しそうにニコニコしながら話しているのを離れた所からコリーナの一味は睨みつける。
「フン!カスばっか集まって調子に乗りやがって!」
「もしかしてリーヴィアが前に言ってた『私の好きな小説』って月光騎士団のこと?」
ジャンがリーヴィアに聞く。
「うん。なんかヤーノシュっぽいなって思って」
「嬉しいな。僕、ファッションとかヤーノシュに寄せてるとこあるから」
「えー。いいなあ。私も私服のジャン見たい~」
今度三人で出掛けよう、とか、三人で『月光騎士団』の芝居を見に行ったらジャンがヤーノシュ推しの子たちに囲まれるんじゃないか、などと盛り上がっていると、
「私たち『月光騎士団』のキャラで小説も書いてるし」
とヴェリタスが口を滑らせた。
「え?それは是非読みたいな」
「絶対ダメ!!」
叫ぶように拒絶したリーヴィアに少しショックを受けたように驚くジャン。
「あっ、・・・ゴメン。・・・でも、あの、その、恥ずかしいから絶対に見せられないの」
絶対に見せるわけにはいかない。
何故ならその小説は『月光騎士団』の団長とヤーノシュのBLだからだ。
「あ・・・あの・・・確かに自分の書いた文章を他人に見られるのは恥ずかしいよね。・・・図々しいこと言ってゴメンね」
なんとも気まずい雰囲気になってしまった。
「・・・うまく書けたら・・・そのうち、うまく書けたら見せるから・・」
リーヴィアは当たり障りのない爽やかな話を書いてジャンに見せよう、と頭の中をグルグルさせながら答えた。
「・・・うん。楽しみにしとくね」
そんな会話をラルスは少し離れた席から熱心に盗み聞きしていた。
ラルスも『月光騎士団』の熱狂的な隠れファンだったのである。
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