10 / 62
10
しおりを挟むそれが都合の良い勝手な感情だということは自分でも理解していた。
だけどラルスはリーヴィアの屈託のない笑顔を見た時に、何故か胸がずっしりと重くなるような感覚になった。
ラルスはリーヴィアとジャンが仲良く入っていったカフェに遅れて入ると観葉植物の鉢植えで遮られた隣の席に陣取った。
ラルスが無視をするようになってから、それに比例するように女子達から嫌がらせを受けるようになったリーヴィア。
次第に笑顔が消えていってひっそりと目立たないようにしているリーヴィア。
そのリーヴィアがジャンと明るい声で楽しそうに話している。
昔、幼い頃水路でカエルやイモリを捕まえて遊んでいた頃のように。
「あんな風に昔の川筋が道になって残ってるなんて感動したわ」
「そんな風に言ってくれると嬉しいな。
地形に興味を持ってくれる人は少ないからね」
「そんな事ないと思うわ。私、地図を見るのも大好きなのよ。
自称『突端マニア』なんだから」
「なにそれ?」
「地図上で岬とか台地の先端とか見るのが大好きなの。実物はなかなか見られないけど」
「川の中州とか好き?」
「好き~」
いつも沈んだ顔をしているリーヴィアがラルスには見せることのない笑顔でジャンと話している。
「あのさ、ドゥルスト川の河岸段丘見たことある?」
「一度見てみたいのよ。あそこ列車の駅からも遠いからなかなか行く機会なくて」
「今度一緒に行かない?」
「いいけど、どうやって?」
「駅で貸自転車借りて行けばいいよ」
「・・・私、自転車乗れないわ」
「僕が後ろに乗せてあげるよ」
「ホント?」
ラルスはリーヴィアがジャンの自転車の後ろに乗ってそよ風の吹く田舎道を進んでいくところを想像して、苦い気持ちになった。
自分は散々リーヴィアを蔑ろにしてコリーナといちゃついてきたというのに。
「このあとどうする?」
「図書館に戻る?改修工事の変遷とそれに伴って水害がどんな風に鎮静化していったか、とか調べたらいいんじゃないかな?」
「うん。時間があれば放課後毎日残って模型とか作れるんだけどね」
「5人全員で協力できれば出来るんだろうけど、2人じゃ無理だよね」
ここでラルスはリーヴィアとジャンが研究発表の為に2人で協力して何か調査していることを知った。
コリーナとの約束を反故にして2人だけで相談して楽しそうに川かなんかのことを調べてるってわけだ。
もっともコリーナは最初から来るつもりもなかったわけだからリーヴィアが約束を反故にした、というのはちょっと違うかも知れない。
だけど不安気に待ちぼうけを食らうリーヴィアを慰めるつもりだったラルスは、来ないリーヴィアを頭頂部を焦がしながら2時間近く待ち続けたことに勝手に被害者意識を持っていた。
「・・・だけどあの3人はどういうつもりなのかな?何もしなけりゃ卒業できないのに」
「・・・コリーナさんは有力者の娘だから単位くらいどうとでもなるのかもね」
「学校も権力者の前には平伏すのか?
ま、そんなもんかも知れないよな。
じゃ、ダ・シルバさんと彼女のお気に入りだけは何もしなくても卒業できて、僕達だけ落第ってこと?」
「・・・そこまで考えてるかは分からないけど、私のことが気に入らないのは間違いないと思うわ。
ディドロさんのことは巻き込んじゃって申し訳無いけど」
「ディドロさん、なんてヤメてよ。
ジャンって呼んでくれる?」
「じゃ、私はリーヴィアで」
リーヴィアは嬉しそうに頬を赤らめながら、
「なんだか私達友達みたい」
とジャンに言った。
「もう友達だろう?」
「私、友達少ないからジャンが友達になってくれて嬉しいな」
「・・・リーヴィアはどうしてそこまでダ・シルバさん達に目の敵にされてるの?」
「・・・私がラルス・ヴァルノーさんの婚約者だからじゃない?形だけだけど」
ラルスは他人行儀にヴァルノーさんと呼ばれてムッとした。
「・・・リーヴィアはヴァルノーさんのことが好きなの?」
「全然」
ここでラルスはそこはかとなく傷ついた。
リーヴィアのことなんか何とも思っていなかったけど、学園一のイケメンの自分のことを「全然好きじゃない」と即答されたことが彼のプライドを傷つけたのかも知れない。
つくづく勝手な男だ。
「・・じゃ、婚約解消したらいいんじゃない?
向こうもホラ、他の女の子に夢中みたいだしさ、そのせいで君も嫌がらせに遭ってるんでしょ?」
「できるもんならしてるわよ!」
リーヴィアは少し大きな声を出してから、ゴメンと言って気を落ち着かせるようにレモネードを一口飲んだ。
「自分の両親にも何度も言ったし、ヴァルノーさんのお母様にも直談判したけど、ゼリーほどの感触もなかったわ」
ここでラルスは驚いた。
リーヴィアが直接婚約の解消を申し出ていることを知らなかったからだ。
ラルスの中では母親が何故だかこの結婚に執着していることは知っていたが、心のどこかでリーヴィアも自分に執着しているのではないかと思っていたからだ。
ラルスはリーヴィアの為にこの結婚は回避しなければいけないと思ってはいたが、その一方で日常的に繰り返される嫌がらせに黙って耐えるリーヴィアはそうしてまで自分との結婚を望んでいるのだ、と思っていたのだ。
だからリーヴィアが、「できるもんならしてるわよ!」と言った吐き捨てるような口調にラルスは少し傷ついた。
106
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

〖完結〗旦那様が私を殺そうとしました。
藍川みいな
恋愛
私は今、この世でたった一人の愛する旦那様に殺されそうになっている。いや……もう私は殺されるだろう。
どうして、こんなことになってしまったんだろう……。
私はただ、旦那様を愛していただけなのに……。
そして私は旦那様の手で、首を絞められ意識を手放した……
はずだった。
目を覚ますと、何故か15歳の姿に戻っていた。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全11話で完結になります。

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている
五色ひわ
恋愛
ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。
初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く
ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。
逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。
「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」
誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。
「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」
だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。
妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。
ご都合主義満載です!

嘘つきな私が貴方に贈らなかった言葉
海林檎
恋愛
※1月4日12時完結
全てが嘘でした。
貴方に嫌われる為に悪役をうって出ました。
婚約破棄できるように。
人ってやろうと思えば残酷になれるのですね。
貴方と仲のいいあの子にわざと肩をぶつけたり、教科書を隠したり、面と向かって文句を言ったり。
貴方とあの子の仲を取り持ったり····
私に出来る事は貴方に新しい伴侶を作る事だけでした。

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる