上 下
12 / 16

12

しおりを挟む

 「それで、シンディーはこれからどうしたい?」

「うーん、そうですね。できれば婚姻無効にしていただければ一番いいかな、とは思ってます。
 それでヒューズ家からも除籍してもらって晴れて平民になりたいな、っと」

「確かに事実上婚姻関係は無かったわけだしな。
 離婚となると経歴に傷がつくからな」

シンディーとスティーブ主導で話を進めていると、キャッシュ侯爵がおずおずと口を挟んできた。

「あの・・・その場合・・・
息子の扱いはどうなるのであろう?」

「ああ、・・・アレフ?様・・・でしたっけ?」

「・・・アランだ」

「ああ、書類上は私が産んだことになってるんですよね。
 でも、婚姻関係が無かったってことになると一体誰が産んだんだって話になりますもんね」

 シンディー以外の全員から表情が消え去っていた。

 
そんなことに気づきもしないシンディーは


「このサンドイッチ、どなたも召し上がらないんですかぁ~?

食べちゃいますよぉ~」


「・・・こ、この・・・天真爛漫なカンジ、・・・そっくりだわ」


「や、・・・やめろ、ハンナ」

必死で妻を宥めようとするヒューズ伯爵。


「そうよ、・・・そうやってアッケラカンと素っ頓狂なことを言って、男達を虜にしていったのよ」

 今度は前侯爵夫人がブツブツ言い始める。

 不穏な空気が漂いはじめていることにも気づかずにご機嫌でサンドイッチを頬張るシンディー。


「シンディーはサンドラじゃないって言ってるだろう!!」


 突然スティーブが大きな声を出したのでシンディーはびっくりしたが、状況は全く理解していなかった。



「え?サンドイッチ食べたかったですか?
・・・・私一人で食べちゃって、スミマセン・・・」


「・・・そういうところよ」 

という前侯爵夫人の呟きはシンディーの耳には届かなかった。




  「話を元に戻そうか」

 とスティーブ。

「じゃあ・・・普通に私と離婚してその後アグネス様と再婚っていうのが一番自然なんですかね?
 ・・・あ・・・でも、それだとアラン?様はアグネス様の実子なのに先妻の子って扱いになりますよね。・・・それって納得できます?」



 「・・・・」

 
アグネスは何も言えないでいる。
 俯いた瞳に再び涙が滲んできた。


「それに普通に離婚となるとシンディーは子供まで産んだことにされて完全な傷物になるな」

 スティーブが不満をあらわにする。

「そもそも虚偽の申請をしているんだから罪に問われる可能性も否定できない」

「え?罪?」

 ハンナと前侯爵夫人は顔色を蒼くする。

「悪くすれば禁固刑くらいにはなるんじゃないか?」

 
 そう脅したスティーブだが、この件が罪に問われることの無いことは分かっていた。
 チェレステ公爵が甥であるキャッシュ侯爵の結婚式に出席しているし、彼の後ろには年の離れた弟を溺愛している国王もいる。
  公爵がシンディーに対して一欠片の思いも持っていないとは思いたくもないが、この結婚に異議を唱えることは即ち、当時18年前に自ら放棄しヒューズに擦り付けた罪を認めることになる。
 彼には黙認以外の選択肢は無かったのだろう。
 

 


 
   

 
 
 
 


「牢屋はイヤよ!」

 ハンナと前侯爵夫人は泣きそうになっている。
 
アグネスは既に泣いている。



「ちょっと待ってください」

シンディーが皆を制する。 
 
 
「私達が一番に考えなければならないのはアラン様のことです。

 どうするのがアラン様にとって一番よいことなのかを考えるべきです。

 大人の事情に子供を巻き込んではいけません。

 周囲の大人同士のしがらみを子供のアラン様に負わせるようなことは許されませんわ!」

シーーーーーンと静まり返った部屋の中で、いかにも「私良いこと言ったわ!」
とドヤ顔のシンディーを除く全員が項垂れている中、

「み、・・・耳が痛い・・・・」

というヒューズ伯爵の呻き声が響いた。







しおりを挟む
感想 198

あなたにおすすめの小説

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから

咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。 そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。 しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

形だけの妻ですので

hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。 相手は伯爵令嬢のアリアナ。 栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。 形だけの妻である私は黙認を強制されるが……

貴方もヒロインのところに行くのね? [完]

風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは アカデミーに入学すると生活が一変し てしまった 友人となったサブリナはマデリーンと 仲良くなった男性を次々と奪っていき そしてマデリーンに愛を告白した バーレンまでもがサブリナと一緒に居た マデリーンは過去に決別して 隣国へと旅立ち新しい生活を送る。 そして帰国したマデリーンは 目を引く美しい蝶になっていた

自分勝手な側妃を見習えとおっしゃったのですから、わたくしの望む未来を手にすると決めました。

Mayoi
恋愛
国王キングズリーの寵愛を受ける側妃メラニー。 二人から見下される正妃クローディア。 正妃として国王に苦言を呈すれば嫉妬だと言われ、逆に側妃を見習うように言わる始末。 国王であるキングズリーがそう言ったのだからクローディアも決心する。 クローディアは自らの望む未来を手にすべく、密かに手を回す。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

【完】はしたないですけど言わせてください……ざまぁみろ!

咲貴
恋愛
招かれてもいないお茶会に現れた妹。 あぁ、貴女が着ているドレスは……。

処理中です...