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38 結婚式

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 ニコは舞台と映画の仕事が入っていて身動きができない状態だったので、役場に婚姻の届け出をするだけで新婚生活が始まることになった。

 ニコ19才、ラウラ29才になっていた。

 「春に結婚式やろうね!」

 ニコは張り切っていた。

 ニコは一等地の高級アパートメントに住んでいた。

「普通のアパートに住んでたんだけど、仕事から帰ったら知らない女の子が3人でお茶飲んで寛いでたの。

 怖かったよ」

 ラウラは吹き出したが、本人はそれどころではなかったらしい。

 ファンの間で住所がバレて家の近くに女の子がたむろっていることはよくあったのだが、侵入されたのは初めてだったそうだ。


 「勝手にクローゼット開けてボクのパンツ盗んでたんだよ」

 ファンの女の子達を警察に突き出すわけにもいかず、厳重に注意してお帰りいただいたそうである。

「カップ、もう使いたくないから、それにサインして渡してあげたら喜んでるの。
 頭おかしいよね?!

 パンツ?パンツは返してもらったよ。
 気持ち悪いじゃない、他人のパンツ盗って何するんだよ。え?頭に被って遊ぶんじゃないかって?怖いこと言わないでよ。
 穿くわけないじゃん、捨てたよ」

 そういうわけでウィリアムズさんが探してくれたセキュリティ万全な物件に引っ越したそうなのだ。

「ラウラと住むことを考えて広めにしたんだけど、ラウラが別の所がいいなら引っ越すよ」

 めんどくさいからここでいいよ、とラウラが言うと、

「そのうち立派なお家を建てようね!」

 と笑っていた。


 ニコはラウラの勤務中に一人でラウラの母を訪ねたようだ。

 大っきな花束を持って、

「ボク、お母さんができて嬉しい。
 
 これからママって呼んでいい?」

 と言って心臓を撃ち抜いた。

 
 

 雑誌『ニューエイジ』の表紙を飾ったニコは、物憂げな表情で頬杖をついていたが、彼の腕に嵌められていた腕時計はフォール村で彼の父がくれた18回目のクリスマスプレゼントだった。
 いつか彼の目にこの写真が留まればいいな、とラウラは思った。

 
 春、ニコとラウラの結婚式が行われた。

 披露パーティーは演劇や映画の関係者も招いて盛大に行われる予定だが、挙式は親族やごく親しい人達だけを招いて、あの植物園の熱帯温室で挙行された。

 館長がこの日に合わせて咲かせてくれた極彩色の蘭に埋め尽くされた夢のような空間にアンティークレースをふんだんに使った豪華なドレスを着たラウラが登場すると、その輝く美しさに一同は息を飲んだ。

 
 海辺の町から呼び寄せたゼノ神父が式を執り行ってくれた。

「ボクの洗礼名ってローレンスっていうんだけどさ、月桂樹の冠を掲げる者、みたいな意味なんだって。
 ラウラって月桂樹でしょ?
 すごいよね、ボクたちきっと生まれた時から繋がってるんだね」

 式は厳かに進行し、二人は誓いの言葉を交わした。

感動する出席者に小さなグラスに入れられた飲み物?が、銀のトレーに載せられ恭しく配られた。
 皆、なんだろうと首を傾げながら勧められるまま手にとっている。


「皆さんにお配りしましたのは、このウツボカズラの消化液で作ったカクテルでございます」

 館長の声に一同、え?どうしようこれ?みたいな顔になって動揺している。

 館長の背後には毒々しいウツボカズラがたくさんの花をつけている。

「この液には、なんと、9種類もの消化酵素が含有されているんですよ~」

 得意気な館長に一同が、だからなんなんだよ、という顔をしている。

「この液を飲んだ者は自由な心を手に入れて、幸せになれるという言い伝えがあるのです(真っ赤なウソ)」

 「さあ、皆さんグラスを掲げてください。乾~杯!」

 仕方がないので一同おそるおそるグラスを口に持っていく。
 
実際はウツボカズラの液はホンの少ししか入っていない。

 思い込みとは恐ろしいものだ。 

 そう悪くないぞ、とグラスを飲み干した面々は、

「なんか心が軽くなった気がする」  

 とか言い出す始末。

 そんな一同を見ながらカクテルの作者カリスと館長が肘で小突き合いながら笑っていた。

 まったく悪戯好きにも困ったものである。

 館長はスコール降らせなかっただけ良心的でしょ?と威張っていた。


 そうこうして無事結婚式を終えた一行は披露宴が行われるホテルへと移動した。

 
 

 
 
  

 






 
    
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