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35 和解
しおりを挟む「助けてくれてありがとう」
「気にすんなって」
「火傷、酷いんじゃないの?」
「大したことないよ」
ランディーはハアーッと息を吐いて、
「やっぱ記憶あるんだ~」
「何言ってるの?」
「いや、事故の後遺症で記憶を失くして、ランディーさん好きです!とか、やっぱないか~」
「・・・・ないだろ」
「じゃ、あれは?吊り橋効果的なやつ」
「・・・ごめん。助けてもらったことは感謝してるんだけど、助けてもらった過程を全く覚えてないの」
「くそぉ」
「それに吊り橋効果って一時的なもので、大抵は勘違いらしいわよ」
ランディーはやっぱそうか~と肩を落としている。
「懐かしいわね、ここでよく遊んだわよね」
ラウラはマークス邸の庭を見回す。
「だんだんお前来なくなったもんな」
ランディーは朽ちかけた小さなツリーハウスを見上げる。
「お前を喜ばせようと思って頑張って作ったんだけど、結局一回も使わなかったな」
ラウラは困ったような顔で笑った。
「お前ホントにニコと結婚すんのか?」
「どうなるかは分からないけど、お互いにそういうつもりではいると思う」
「なんだよ、ハッキリしねーな。
年のこと気にしてんのか?」
「・・・それもあるけど。
ニコのお荷物になりそうで怖いっていうか」
「・・・まあな、アイツ今じゃ大スターだしな。
付き合ってる人間も俺たちとは違う人種だろうしね」
「・・・ニコは待っててって言ってくれたけど本心では後悔してるんじゃないかな、なんて」
「まあ、一回ちゃんと話してみなよ。
そんで捨てられたらオレが廃品回収してやっから」
「・・・ありがとう。でも、それはない」
だよな、とランディーは頭を掻く。
「あ、あのさ。色々あったけど、もう一回友達になれるかな?」
「喜んで」
二人は夏の終わりの夕暮れの庭で固い握手を交わした。
秋、ニコは芸術的活動が認められて女王様から勲章を授与された。
ニコは貰った勲章を持ってヘミング邸に来た。
そして勲章をラウラの父に捧げて、
「これがボクのラウラさんに対する気持ちです。
どうかお嬢さんと結婚させてください」
と言った。
「いや、まあ、私はいいんだけど、君、ラウラにはプロポーズしたのかね?」
「いえ、まだです!!」
ニコは元気に答えた。
「ご両親の許可を戴いてからと思いまして」
ラウラの父は嫌な気はしなかった。
確かに年齢のこととか職業のこととか心配なことは色々あるが、もうすぐ29になろうかという娘を貰ってくれようという彼はいわば救世主のようなものではないか。
「結婚することになれば、ラウラのこと、宜しく頼むよ」
「はい。必ず二人で幸せになります!」
父はニコが、幸せにする、と言わなかったことに共感を覚えた。
翌日昼前にニコはラウラを迎えに来た。
着いた先はカタバミ荘だった。
驚くラウラに、
「カリスさんに頼んで貸してもらったんだ」
殺風景な部屋にダイニングテーブルと椅子。
ニコが飾ったらしい花が真ん中に活けてある。
「さあ、座って」
ニコが椅子を引いてくれる。
準備してくれていたらしい料理がキッチンから運ばれて並べられていく。
「すごい。これ全部ニコが作ったの?」
ニコが微笑んで、
「ここから始まったからね。
ここで、プロポーズしたかったんだ」
そう言ってニコはラウラの傍らに跪いた。
「ホントは指輪とか用意しなきゃなんだけど、指輪はラウラが好きなデザインにしたいから後で一緒に買いに行こうよ」
とたまに見せる合理性を発揮するニコ。
ニコは超絶イケメンの顔でラウラを見上げてしっかりと目を見て、
「心を尽くし、精神を尽くし、力を尽くしてラウラを愛します」
と言った。
たちまちラウラの目に涙が溢れてきた。
「ニコ、嬉しい。
すごく嬉しい。
だけど、まだ迷ってる」
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