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23 ランディーの説教
しおりを挟むラウラは退勤時間を待ち伏せていたランディーに捕獲された。
「ちょっとなにすんのよ」
捕まれた腕を振りほどこうと肘で突こうとするラウラをぐっと引き寄せたランディー。
「いいからこっち来い」
「行かないわよ。早く帰りたいんだから」
「あの坊主が待ってるからか?」
「・・・・」
ランディーはラウラを引きずるようにカフェの個室に連れて来た。
「なんなのよ」
不貞腐れたラウラにランディーは珍しく真面目な口調で、
「間違っている」
「なにが?」
「お前もニコもダメになるぞ。
物語みたいにいつまでも幸せに暮らしましたとさ、なんてことには絶対にならないからな」
「10才も年上のおばさんは捨てられるぞ、って心配してくれてるの?
そんなのとっくに折り込み済みよ、余計なお世話だわ」
「・・・お前が捨てるってこともあるんだぞ」
「?!・・・。
私がニコを見捨てるわけないじゃない」
「愛情だか同情だか分からないけど、お前はそうやってニコを甘やかして依存させて一生面倒見続けるの?責任取れるの?」
「・・・・」
「あいつにはあいつの才能とか生きる道とかあるだろう?
オレにはニコの苦悩も抱えている問題もわかんねぇけど、可哀想だからってそういうものと対峙させないでただただ甘やかしてんのは守るのとは違うぜ」
「ランディーにはわからない」
「お前達がやってるのは馴れ合いの幸せごっこだよ。
破綻するのが目に見えてる。
お前はニコの成長を妨げてる。
傷を癒すかなんか知らんけど手元に置いて自分の孤独を紛らわしてるだけだろう?」
猛烈に反発を感じたラウラは抗議の溜め息を吐く。
「役所じゃないけど王立図書館もお堅い国の機関だからな。
下級とはいえ貴族の娘が結婚もしてない若い男を連れ込んで一緒に暮らしてる、なんて噂になれば職を失うかもしれないんだぞ。
そしたらニコと二人で知らない土地にでも行って低賃金で働くか?
お前にそこまでの覚悟があるのか?」
ランディーの言うことが正論なのは分かっていたが、ラウラから出た言葉は、
「アンタに関係無い」
だった。
「甘ったるい飴玉を持て余して吐き出すってわけにはいかないんだぜ」
席を立ちながら そう言ったランディーの悲しそうな顔を見た時、ラウラの心は少し傷んだ。
家に帰るとニコの精神状態は最悪だった。
「遅いよ!どこに行ってたの?
誰かと会ってたの?
ボクなんかより友達と一緒にいた方が楽しいよね?」
怒鳴るニコにラウラが謝ると、
「ごめんラウラ。
お願いだから嫌いにならないで。
ボク、ラウラが帰って来なかったらどうしようって、淋しくなって、怖くなって」
大丈夫だから、と抱きしめると泣き出してしまった。
背中を擦って宥めているうちにニコは眠ってしまった。
食べ損ねてしまった夕食を自分だけいただくのも気が引けて、ラウラは棚からビスケットを取り出そうとして足元のゴミ箱の中にニコの不調の原因を見つけた。
グシャグシャに丸められた新聞を伸ばしてみると、ニコの母親、レミー・ポートの記事が載っていた。
映画監督のトニー・ロジャースとの結婚を報じた記事には、『子供が生まれてくることを今から心待ちにしている』というコメントと共に 少しふっくらしたお腹に手を遣りながら微笑むレミーの写真が添えられていた。
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