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13 恐るべき子供たち

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 ラウラとニコの奇妙な共同生活が始まって10日ほどが経った。

ニコはpanicで稼いだ小遣いで食事を用意しているらしくラウラからお金を受け取ろうとしない。

「このパンはお婆ちゃんが荷物重そうだったから持ってあげたらくれたの。
 このトマトは八百屋さんがオマケしてくれた」

 とか相変わらずニコは世渡り上手なようだ。

「就職しようと思うんだけど、ラウラ身元保証人になってくれる?」

 俳優になる夢はどうしたの?と聞くと、
諦めた訳じゃないけどとりあえず食っていかないと、と笑う。
 
 ラウラはその笑顔を複雑な気持ちで眺めていた。






 「館長。館長のお知り合いに演劇関係者はいらっしゃませんか?」

「何人かいるよ。王立劇場の美術監督は元同級生だし、テアトル・ミュゼの総合演出も友達だよ」

「・・・・なんかスゴ過ぎて」

「どうした?」

「いやー、田舎から出てきた俳優志望の子がいるんです。
 特別なレッスンとかなにもしてないと思うんだけど、スゴく魅力的な子なんですよ。

 見込みが全く無いのかどうかだけでも見てもらえないかな~なんて。 
 甘いですかね?」

「う~ん。一人変わったヤツがいるんだけど、会ってくれるか聞いてみようか?
 劇団 袋小路 っていうアングラ劇団なんだけど、既存の形式を破った実験的な舞台をやっててね、評論家の間では評価が高いんだよ」

 是非お願いしますと館長に頭を下げたラウラは、

『親切な館長のことを心で呪詛してごめんなさい』

 と手を合わせた。







 劇団 袋小路のケリー・サンドロビッチは個性的なファッションに身を包んだ目に力のある男性だった。

「芝居がしたいの?なんで?」

ケリーの質問にニコは

「いつも自分でいるのはやりきれないんだ」

 と答えた。

 ケリーは稽古場の見学にニコを誘って、翌日喜んで出掛けたニコは早速見習いになることを決めてきた。


「大道具とか掃除とか雑用が主で、見習いだから賃金も安いんだ。またラウラやカリスに迷惑かけちゃうね」


「そんなこと気にしなくていいから、
 しっかりお芝居の勉強してね」


「はやく主役ができるようになって、お金稼いで、ラウラに何でも買ってあげたい」

 

『そういえば兄が子供の頃、よく母に

 「おっきな だいなもんろ かってあげるからねっ!」

 と言うたびに母が涙ぐんで喜んでいたっけね 』


 今、ラウラは母の気持ちが良くわかるのだった。






ニコが劇団に通い始めて3週間ほどたった。

 ラウラと館長の関係も良好である。

 ラウラの中で館長は若作りの痛いハゲから頼りになる優しい上司に返り咲いた。



 ニコは劇団でできた美少年仲間2人を引き連れて週末のpanicに現れるようになった。

 ニコ、ルネ、ヨハンの3人はいずれも中性的な美少年で大人になりきっていない危うい美しさは男性女性両方のお客さん達の心を掴んだ。

 3人は客の気分を盛り上げて店の売上を増やし、客に奢ってもらったり小遣いをもらったりしていた。

 3人と飲むことを目当てに来る客も増えて、彼らが来る週末はすぐに満席になった。

 カリスは売上が増えてホクホクしていたし、3人は客に貰ったチップで劇団での少ない収入を補っていた。



 恐るべき子供たち・・・

 

3人は寸劇を披露して客を喜ばせたり、ちょっとしたゲームで盛り上げたりもしていた。


 その日はスツールに何人乗れるか、というゲームで盛り上がっていた。


 いい感じに出来上がった男女が上機嫌で靴を脱いでスツールに上がっていく。3人4人と増えていくとお互いしっかり抱き合わなければ落ちてしまう。
 そこに10人を超える者たちがヘラヘラ笑いながらギュウギュウ乗っている。


 ラウラもニコも乗っている。

 
それをカウンター席から馬鹿にしたように眺めるランディー。



 チキショー!

 オレも参加してぇー!!



 




 
 


 












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