上 下
7 / 40

7 ランディーという男

しおりを挟む

 「そうそう。私ランディーとお見合いしたのよ」

 ラウラが言うとカリスは嘘でしょ、と仰け反のけぞる。

 事の顛末を語ると、ホントどうしようもないね、と呆れる。

「ランディーは誰にでも分け隔てなく嫌がらせをする人だったわよね」

「まあ、ある意味平等だったわね」

 
 ランディーとは幼馴染みで同級生のカリスも当然「被害者の会」のメンバーの一人である。


 「あれは忘れられないわよねー。ウ◯コ事件」


「ヤメテよ。思い出したくもないわ」


 ある朝登校すると教室が騒がしい。

 何事かと思いながら席に着こうとすると、ラウラの机の上に、それこそ絵に描いたような見事なウ◯コが鎮座していた。

 悲鳴を上げたラウラは取り乱して泣き出してしまった。

 
「皆で大騒ぎしてたらロゼッタ先生が駆けつけてきてウ◯コ見るなり固まっちゃってさ、
『ヘミングさん。我慢できなかったんですか?』
 って言った時は悪いけど吹いたワ」

カリスは思い出して笑っている。

「そしたらラウラが泣きながら『私じゃないです~』って」
 
 カリスはヒーヒー笑っている。


「百歩譲って私だとしても机の上になんかするわけないじゃないねぇ。
 
ロゼッタ先生ってどこかズレてたわよね」


「ヒステリックなオバチャンって思ってたけど、今の私達くらいの年だったんじゃない?」


「今日イチ怖い話なんだけど」


結局先生が ちり紙を何枚も分厚く重ねてウ○コを包むように取って、窓の外に放り投げたのだが、『高かったんだから捨てるなよー』と慌てて拾いに行ったランディーによって、それが夜店で買った玩具であったことが判明した。

 その後ランディーはこっぴどく叱られたが、
『より本物らしく見えるように配置に工夫した』
 と誇らしげに語り、全く反省していなかった。

 「悪戯するためだけにお小遣い全部全財産つぎ込んでウ◯コ買うってスゴイよね」

 


「でもさ、ラウラも仕返ししたじゃない」
 
「そんなことあった?」

「チューインガム事件よ」

 「ああ、アレね」

 それはまだ小学校の低学年のこと。

 日曜学校の後で子供ばかり集まって遊んでいた時のこと。
 
 ランディーは親戚からお土産に貰ったというチューインガムを噛んでいた。
 当時はまだチューインガムは珍しくてラウラもカリスも口に入れたことがなかった。
 ランディーはポケットにたくさん入れているのに誰にもやらずに自分だけ噛んでいる。
  なんとも言えない良い匂いが漂ってきて、皆に一つずつくらいくれたっていいのに、と思っていた。

「それって美味しいの?」

「うん。甘くてイチゴの味がして美味しいんだよ」

「ふーん」

 ランディーは一度に3つ4つと口に入れてモゴモゴやっている。
 
そしてプーっと風船を膨らませたかとおもうと口からガムを取り出して手で捏ねくり回して再び口に戻す。

「きったなーい!」

 羨ましさと悔しさも手伝って、馬鹿にしてみたがランディーは知らん顔してガムを引っ張って伸ばしてみたりそれをまた口に戻したりしていた。

「ねえ、それでハチマキはできないでしょう?」

 ラウラが言うとランディーは

「できるさ!」

と言って口から出したガムをビヨーンと伸ばして自分の頭に巻いた。

「カッコいい!」

ラウラが褒めると、そうか?と喜ぶランディー。

「うん。ピンクのハチマキがすっごくカッコいい!」

 調子に乗ったランディーは午後をハチマキで過ごした。



 その夜マークス家にランディーの悲鳴混じりの泣き声が響いた。

 ガッチガチに固まったチューインガムはどうやっても取り除くことができなかった。

 痛い、痛いと泣きわめく息子を前にマークス夫人は決断するしかなかった。



 週明けの学校に現れたランディーはご自慢のサラッサラ坊っちゃんヘアを見事な丸刈りにされていた。

「でも、あれは私のせいじゃないでしょ」

 ヘラヘラと思い出話に花が咲く。




「だけどさ、私達の間では毛虫のように嫌われていたランディーが中等部くらいからモテだしたのは謎だったわよね」

「そう、そう。後輩から何回もランディー先輩を紹介してくださ~いって言われたわ。
 私はあくまでも不幸な人間を増やさないための親切心として『アイツだけはヤメとけって』言ってたんだけど、『オレが他の女と付き合うのが嫌だからって邪魔すんなよ』って言われてからは事務的な対応に切り替えたわ」

「でもアイツ、モテてた割には具体的に誰それと付き合ってる、みたいな話が聞こえてこないんだよね」

「性格悪いからすぐにフラれるんでしょ」

「私はこういう商売してるから色んな噂が入ってくるけどランディーの浮いた噂は無いな」

 そんな話をしているとお客さんが増えきた。

 忙しくなってきたのでラウラも手伝う。


 閉店作業をしている時、ふいにラウラが、

「私、一人暮らししようかと思ってて」

「そうなの?うちのアパート部屋空いてるよ」

 カリスはバー経営の他にアパートを一棟持っている。

 ラウラはカリスの家に泊めてもらって翌日アパートの部屋を見に行くことになった。


 

 
 



 
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

(完)婚約解消からの愛は永遠に

青空一夏
恋愛
エリザベスは、火事で頬に火傷をおった。その為に、王太子から婚約解消をされる。 両親からも疎まれ妹からも蔑まれたエリザベスだが・・・・・・ 5話プラスおまけで完結予定。

(完)イケメン侯爵嫡男様は、妹と間違えて私に告白したらしいー婚約解消ですか?嬉しいです!

青空一夏
恋愛
私は学園でも女生徒に憧れられているアール・シュトン候爵嫡男様に告白されました。 図書館でいきなり『愛している』と言われた私ですが、妹と勘違いされたようです? 全5話。ゆるふわ。

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

絵姿

金峯蓮華
恋愛
お飾りの妻になるなんて思わなかった。貴族の娘なのだから政略結婚は仕方ないと思っていた。でも、きっと、お互いに歩み寄り、母のように幸せになれると信じていた。 それなのに……。 独自の異世界の緩いお話です。

やめてくれないか?ですって?それは私のセリフです。

あおくん
恋愛
公爵令嬢のエリザベートはとても優秀な女性だった。 そして彼女の婚約者も真面目な性格の王子だった。だけど王子の初めての恋に2人の関係は崩れ去る。 貴族意識高めの主人公による、詰問ストーリーです。 設定に関しては、ゆるゆる設定でふわっと進みます。

【完結】ハーレム構成員とその婚約者

里音
恋愛
わたくしには見目麗しい人気者の婚約者がいます。 彼は婚約者のわたくしに素っ気ない態度です。 そんな彼が途中編入の令嬢を生徒会としてお世話することになりました。 異例の事でその彼女のお世話をしている生徒会は彼女の美貌もあいまって見るからに彼女のハーレム構成員のようだと噂されています。 わたくしの婚約者様も彼女に惹かれているのかもしれません。最近お二人で行動する事も多いのですから。 婚約者が彼女のハーレム構成員だと言われたり、彼は彼女に夢中だと噂されたり、2人っきりなのを遠くから見て嫉妬はするし傷つきはします。でもわたくしは彼が大好きなのです。彼をこんな醜い感情で煩わせたくありません。 なのでわたくしはいつものように笑顔で「お会いできて嬉しいです。」と伝えています。 周りには憐れな、ハーレム構成員の婚約者だと思われていようとも。 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 話の一コマを切り取るような形にしたかったのですが、終わりがモヤモヤと…力不足です。 コメントは賛否両論受け付けますがメンタル弱いのでお返事はできないかもしれません。

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

【完結】お荷物王女は婚約解消を願う

miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。 それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。 アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。 今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。 だが、彼女はある日聞いてしまう。 「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。 ───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。 それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。 そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。 ※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。 ※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。

処理中です...