死ぬほど退屈な日常で

猫枕

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トモキ

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  早川トモキは役場に勤めるヒサシの同級生だ。

 もっとも小中学校は同じだったが高校は違う。

 特別仲が良かった訳でもないが、地元から出ることもなく家を継ぐことを強要されている状況に勝手に仲間意識を感じているのか、なにかと絡んでくる。

 
「よっ!ヒサシ。オメエえらい目にあったみたいだな~」

 ニヤニヤ笑いながら近づいてきて肘で小突いてくる。


「まあ、退屈な皆さんに話題を提供できまして光栄ですよ」

「まあまあ、そう腐るなって」

 トモキは鞄からゴソゴソとA4サイズの紙を取り出してヒサシに押し付けてきた。

 ダサいデザインのフライヤーだった。


「今度さ、役場主催で町コンやるんだよ。

 お前も参加しろ」

「オレはいいよ」

「ま、そう言わずにさ。
人数少ないと盛り上がらないだろ?」

「俺、まだ離婚成立してないんだ」

「そんなに堅苦しく考えるなって。
適当に賑やかしに来てくれればいいんだよ」

 『どうせお前はカップリングになんかならないんだから要らん心配するな』

 トモキの顔はそう語っていた。

 

 町コン当日、刈払い機で雑草を刈り取っているとトモキがわざわざ迎えに来た。

 大声でヒサシを呼びながら近付いてきたトモキに刈り払い機の轟音で気付かないヒサシ。

 やっと気付いたヒサシがスイッチを切る。


「ヒサシー!今日は町コンだってば。

 早く用意しろ」

 まだ朝の8時前だ。

「俺は行かないって言っただろ」

 ヒサシは首に掛けたタオルで顔の汗を拭いながら言った。

「まあ、そう言うなって。
 
 オレの顔を立ててくれたっていいだろうが」

「・・・じゃあ行くよ」

 道具を片付けて、行こうか、というヒサシに、

「オイオイまさかその格好で行くつもりじゃないだろうな?」 

「作業着とパジャマと礼服しか持ってねーから」

「・・・しゃーねーな。

早く行って手伝ってもらうつもりだったのに。」 

 そう言ってトモキは自分の車にヒサシを乗せて一旦自宅に戻った。

 そしてシャワーを浴びたヒサシは、トモキ曰く「今どき」な服を着せられたが、しっくりこなかった。




 生まれつき日焼けしない体質なのか、農作業をやっているとは思えない色白で端正な顔立ちのヒサシは黙っていれば女にモテる。

 母親も、

「白衣でも着せとけば医者様に見えるって近所の人達も言うんだよ」

 等と馬鹿馬鹿しいことをよく口にしたが、その、もしかしたらなれていたかもしれない医者様への道も握り潰しておいて、

「嫁が来ない」

 などと勝手なことばかり言うのにはウンザリしていた。


 町コンが始まると何人かの女がヒサシに近づいて来たが、職業を答えると愛想笑いを浮かべて立ち去っていった。

 ヒサシは紙コップに注がれた旨くもないコーヒーを飲んで、紙皿に盛られたレンコンサブレなる菓子を一つ食った。

 そういえば今日は朝食も食べていない。

 義理は果たしたし、帰って草刈りの続きでもするか。

 この服 洗濯してトモキに返しに行くのか、面倒くさいな、などと考えていると、トモキがやって来てヒサシの腕を掴んで引っ張っていかれた。

 20代後半、というかギリギリ20代、みたいな3人の女の子達が値踏みするようにトモキとヒサシを見た。

「へぇ、32?年下かと思った~」

 ヒサシに興味を持ったらしい女の子は3人の中では一番可愛い子だった。

「でもオレ農家で長男だから」

 さっさと話を終わらせようとヒサシが言うと、

「へぇ、私 最近農業とか興味あるのよね~」

 なんて言ってくる。

 更に看護師だという彼女は資格持ちで一定の収入が確保できることなどをさりげなくアピールしてくる。

 昨今テレビで人気タレントがやっている「おしゃれな農業 」を本物の農業だと勘違いしているのか、30も間近になってきて焦っているのか知らないが、ヒサシは次第に返事をするのも億劫になってくる。

 そんなやり取りが面白くなかったのか、突然トモキが、

「コイツ、実は離婚調停中なの~」

 とヒサシの肩を抱いてケケケっと笑った。


 それからトモキはヒサシが16才の妻に置き去りにされた話を面白おかしく披露し、満足気なトモキの横顔を眺めながら

『こんな状況でもムッとする気力も残ってないんだなぁ』

 とヒサシは自己分析するのだった。



 





 








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