マジメにやってよ!王子様

猫枕

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 私の名前はローズ。ターナー伯爵家の長女だ。
 
今日はエリック第一王子殿下主宰のお茶会に出席するために初めてお城に来た。

 王家のお茶会といっても王都に住む王子と同年代のある程度以上の貴族の子ども達のほとんどが招待されているのだから堅苦しいものではなく、子供が大勢ワイワイ遊んでいるだけのような集まりだった。

 エリック王子のご学友や将来のお妃候補を探すのが目的で開かれた会のようで、私はそういったことに何の興味もなく正直面倒だったのだが、
 
「特別に美味しいお菓子が食べられる」

 という母の言葉に騙されてのこのこやって来たわけだ。

 12才はまだまだ子どもだと思うのだが、エリック殿下を狙っているのか、きらびやかなご令嬢たちは既に立派なレディの面持ちで、グループを形成しつつ互いに牽制し合っていた。
 
 そんな彼女たちを尻目に一目散にお食事コーナーへと急ぐ。

 と、私は息を呑んで立ち尽くした。

 目の前にこの世のものとは思えない美少年が現れたのだ。

 艶やかな漆黒の髪、透けるような白肌、シャープな輪郭に形良く筋の通った高すぎない鼻、口角の上がった形の良い唇、切れ長の目には輝くサファイアブルーの瞳、そして黒々とした長い睫毛。

 この世にこんなに美しい人がいるのだろうか?

 それはまるで夏の日の夕暮れ、迫りくる宵闇の薄暗がりの中に佇む一輪の白百合。

 まるでそれ自体が発光しているかのような 「ザ・王子様」が儚げな微笑を湛えて立っていたのだ。

 ええっ?王子ってこんなにイケメンだったの?

 そうなりゃ話は違ってくる。
お妃様は無理でも少しでもお近づきにはなりたいじゃないの。

 アピール、アピール。

 私は顔面に最上の微笑をこしらえて渾身のカーテシーを決める。

「本日はこのような素晴らしいお茶会にお招きいただき ありがとうございます。
 自己紹介をお許しください。
 わたくしはターナー伯爵家の長女ロー」

すると背後から鼻にかかった声が遮る。

「ちが~う、ちが~う」

ハッとして振り返る私。

 「こっち、こっち、王子こっち~」

 見ると どこかの少数民族を真似たと思われる出で立ちいでたちの少年が自作と思われる不恰好な槍を持って立っている。
 頭には鳥の羽根をいっぱいつけた冠?を被り顔にはペインティング、紙粘土で作った下手くそなドクロを繋いだ首飾りに腰簑。
 裸足に草履サンダルのようなものを履いている。

 「我が名はケッケローレパッペ・・・モンキュッキュ・・・ヤーレンソーラン・・なるぞ!」

・・・エリックだよな?アンタはエリック第一王子殿下だよな?

 私は心でツッコミながら、

「失礼いたしました殿下。申し訳ありませんが、もう一度お名前をお聞かせ願えませんか?」


 「・・・ケッケ・・ロモン・・ペッ・・」

 二度は言えないのか。・・ってか、少数民族イジるとかコンプラ的にヤバいんじゃないの?
 大丈夫なのか この国の王子。

「・・・素敵なお召し物ですね」

 一応何か褒めとかないとマズイかも。

 すると王子は得意気にニンマリしている。
 
 その顔に何故かイラッときてしまった私は

「でも、せっかく趣向を凝らしてお作りになられたのに、カッターシャツはいただけないのではなくて?
 そこは思いきって上半身裸になられた方がリアリティーが出るのでは?」

と意地悪を言うと、

王子はモジモジ クネクネしながら
 
 「やはり・・・乳首は死守したいであろう・・・」

 どうやらエリック王子には彼なりの 恥ずかしいの基準があるようだ。

 裸足に腰簑はいいんだ・・・心でツッコミを入れていた私だったが、

いけない!こんなヤツ王子に構ってる場合じゃない!

 私は さっきの美少年を目で探す。

 すると美少年は既にきらびやかなご令嬢たちの壁に囲まれていて、とても割り入る勇気は無い。

 諦めた私は当初の目的のお菓子コーナーへと向かった。

 宝石のように美しいケーキやクッキーをここぞとばかりに皿に盛っていると、

 「ローズじゃない?久しぶり」

 数少ない仲良しのグレイスが話掛けてきた。

 互いに挨拶を交わし用意されてあるテーブルに移動し、一緒にお茶を頂くことにする。


 「ねぇ、グレイス、あの美少年 誰か知ってる?」

 私はご令嬢の壁を見ながらグレイスに尋ねる。

「ああ、あれはアレク様。ラングラー子爵家の次男でいらっしゃるわ」

「ラングラー子爵家ってお金持ちで有名よね」

 「重要な港を管轄しているからね。
戦艦の造船所も持ってるし。いずれお父様は伯爵になられるみたいよ」

「へぇ、でもあんなイケメンの存在ちっとも知らなかったわ」

 「お母様の療養について領地に行ってらして、王都にはほとんどいらっしゃらなかったからね」

「さすがグレイス、何でも良く知ってるわね」

 子爵家かぁ、しかも次男。家格も丁度釣り合うし、私は長女で婿取りだし、これってもしかして運命?

 気を良くした私はニマニマしながら お行儀悪くも ぬるくなった紅茶を一気に飲もうと口に含んだ。

その瞬間、トントンと肩を叩かれて振り向いた私は純白のテーブルクロスに盛大に紅茶を吹いてしまった。






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