可哀想な私が好き

猫枕

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 女子6人組は元の仲良しに戻った。

 ただ、レギーナはこの件についてアードルフに謝罪と処分を求めるべきだと譲らず、どうせ無駄だと気乗りのしないローレンシアを含めた6名がドヤドヤと校長室に押しかける事態となった。

 
 「処分と言われましてもねえ」

 校長は薄くなった頭を掻きながら『元気なお嬢ちゃん達だねえ』
 と言いたそうな半笑いで、

「過去はどうだか知りませんが、この高校に入学してから彼はローレンシアさんを虐めていないでしょう?
 やってもいないことで処分はできませんよ」

「だけどアードルフ・ベルクホーフはローレンシアの名誉を著しく傷つけるような虚偽の発言をして、故意に事実とは異なる噂を流布したのですから、これは立派なイジメに相当すると思います!」

「それについてはローレンシアさんだって憐れを誘うような虚偽の言動でクラスメートたちの善意につけこんだ訳だから『おあいこ』でしょう?」

 一同が一瞬押し黙った。

「しかしながら嘘の性質を考えた場合、ローレンシアには情状酌量の余地があると思いますが、アードルフ・ベルクホーフのは悪質です。
 ローレンシア、アードルフ・ベルクホーフ共にクラスメートに対する釈明と謝罪の機会を与えるべきではないでしょうか?」

 それまで黙っていたドーラが顔を険しくして校長に詰め寄った。

「・・・いや、しかし、それではアードルフ君は過去の過ちについてもローレンシアさんをイジメていたという告白をしなければならなくなりますよねぇ。
 そうすると今回無関係とも言えるリーヌス・ファーレンハイト君にまでとばっちりが・・・」

 校長は市の教育長直々の力が及んでいるアードルフ・ベルクホーフの立ち場を弱くするような決定は到底容認できなかった。
 自分の未来がかかっているからだ。

「罪を認め反省をしてこその次の一歩ですよね?
 教育ってそういうもんですよね?」

「そうはいってもね。君達女の子はそのうちお嫁に行けばいいけどさ、男の子達は将来がかかってるんだよ。
 こんなことで若者の未来を潰すなんて非道じゃないかい?」

「はあ?!」

 レギーナは校長相手に本当に「はあ?!」と顔を赤くして食ってかかろうとした。
 それをローレンシアは必死で止めて、

「わかりました」

 と冷静に言った。

「わかりましたから、お約束願います。
 今年は仕方がないですが、残りの2年は私だけでなく、ここにいる6人全員が絶対にあの2人と同じクラスにならないようにしてください」

 なんだ、そんな事ならお安い御用と言わんばかりに校長はホッとした顔になって、必ず約束は守ると言ってくれた。

 校長室を後にしたレギーナは怒りが収まらないようで、

「なんで簡単に引き下がったのよ!」

 とローレンシアを非難した。

「・・・ああいう手合いを本気で敵に回したら無事じゃ済まないのよ」

「だけどおかしいって。間違ってるのはあっちじゃない!」

「どっちが正しいとか、真実は何かとか、そんなの関係ないの。
 力持ってる方が強いの」

 レギーナはまだ納得がいかない様子でぶすくれている。

「父はお金の力で他人をねじ伏せてきた。
 私はそっち側の人間だったのよ」

 皆黙りこくって静かに廊下を歩いた。



 
 6人はまた一緒に弁当を食べるようになったが、以前と違って男子はいない。

 ローレンシアを気遣ってアードルフ達と少しでも顔を合わせずに済むように教室の外で食べているのだ。

 昼休みになると弁当の入ったバッグを持っていそいそと教室を出ていく彼女達を寂しい気持ちで見送る男子もいた。

「アイツ等さあ、薄々事の真相に気づいているのになあなあで済まそうとしてるよね?」

 レギーナがクラスの男子の悪口を言う。

「相変わらずアードルフとリーヌスと仲良くしちゃってさ。ムカツク」

 アガーテが言うと、

「街の名士と名前で呼び合う仲になれて鼻が高いんでしょう?」

 とアラベラが皮肉っぽく応じる。

「就職でも世話してもらうつもりなんでしょうかね。浅ましいですね」

 ドーラが低い声で同意する。

「あの薄らハゲ(校長)、『女の子はお嫁さんに行けばいいから』つったよね?許せん!」

 レギーナがまた怒る。

「まあまあ、そんなにカッカしないでさ、このヴルスト旨いから食べなよ」

 ローレンシアが離れの料理人手作りの絶品ソーセージを勧める。

「なにこれ美味しい!さすが金持ちの料理!
 じゃあお返しにキャベツの酢漬けあげるわ」

 私にも頂戴!と皆のフォークが伸びてくる。
 ローレンシアは料理人に頼んでどのおかずも6個ずついれてもらっている。

 和気あいあいと楽しいランチタイムを過ごす6人だったが、クラスではなんとなく男女の間に壁ができて微妙な空気が漂っていた。


 そんなある日放課後6人でいつもの公園に向かっていると、偶然デニスに会った。
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