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入籍
しおりを挟む「ええっと、本日はお忙しい中お集まりいただきまして」
アベルが各地の名産品や特別な御馳走やお酒やなんかを取り寄せて報告会を開いた。
ブライス、ハイヤー両家の家族やお手伝いさん達も招いて開かれた宴は、今まで心配をかけたことを詫びると共に今後とも両家が仲良く付き合っていけるように、とのアベルの思いから開かれたものだった。
「皆様には多大なるご心配をおかけしましたが、私とエリーは」
「ちょっと、そのオマール海老、こっちに頂戴。そう、そのソースかけて」
「えっと、このグラスは私のかな?」
「実に1年近くという長い時間を要して私とエリーは」
「このキャビア旨いぞ!ほら、グエンも食ってみろ!」
「ニールセン坊ちゃま、私は魚の卵は苦手です」
「そんな事言わずに、ほら、あ~ん」
「そうですか?あ~ん。・・・美味しいです~」
「このチーズは臭いな~」
「私がエリーに一目惚れしたのは、ある麗らかな春の昼下がり」
「あら、マリーさん、お酒はダメ?
このシャンパン最高よ?」
「じゃあ、少しだけ」
「ところが、私とエリーはずっと昔に運命の出逢いを果たしていたのです!!・・・って、さっきから誰も聞いてないじゃないかーーーーー!!!」
「ま、まあ、とりあえず乾杯しようゼ」
ニールセンが宥めるようにアベルの肩に手を置いた。
一同がグラスを持つ。
「私とエリーの運命の愛に!」
カンパ~イ!!
それから一同は楽しく飲んで歌って、踊ったりもして、これからもヨロシクと手を振り合ってそれぞれの家に帰って行った。
翌日アベルとエリーは届け出を済ませて正式に夫婦となった。
「もう一度結婚式をしようよ」
アベルは何回も言ったがエリーは面倒くさいから嫌だと断っていた。
「だって、あの結婚式はちっとも幸せじゃなかっただろう?」
「別に今が幸せならそれでいいよ」
アベルの顔が赤くなった。
役所からの帰り道、連れて行きたい所があるんだ、とアベルがエリーの手を引いて歩いた。
『えっと、この道は・・』
着いた所はライダースが集う喫茶店~戦艦ヌーベル号~だった。
あの日アベルの跡をつけて以来だ。
店内に入るといきなりクラッカーがパンパン鳴って、
「結婚おめでとう!」
の歓声が飛んだ。
そこには十数名のライダースが乗組員の制帽を被って並んでいた。
「さあさあ」
と促されたエリーは隊員の一人によってベールを被せられた。
そこに神父役の艦長が登場し、
「アベル・ブライス、汝はこの者をその健やかなる時も病める時も、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くす ことを誓いますか?」
と聞いた。
アベルはハイ!誓います!と元気よく返事をした。
エリーも後に続いた。
アベルは艦長から受け取った隊員バッジをエリーの胸元につけた。
「隊長に敬礼!」
皆が敬礼する中でアベルはエリーにキスをした。
ヒューヒューと歓声が湧いた。
そのあとはテーブルに用意された心尽くしの御馳走を囲んで、みんなでワイワイ楽しい時間を過ごした。
「姫!今日から姫もワイらの仲間ですから」
隊員達がエリーを姫と呼んでよってたかって持ち上げるので、なんだかエリーもいい気分になってしまった。
「隊長の結婚を祝し~!」
と隊列を組んで始まった独特のダンスは動きがキレッキレで見事だった。
エリーが、スゴイスゴイ!と感嘆するとアベルも加わって踊りまくっていた。
「いや~、理解のある嫁さんで良かったですね~」
隊員の一人が羨ましそうに言うと、アベルはニヤリと笑って勿体ぶって言った。
「それだけじゃないんだ」
「エリーは1作目に出演しているんだよ」
その後は大騒ぎで、エリーは握手を求められたりサインをねだられたりして、ちょっとしたスター扱いにすっかり気分を良くした。
家に帰るとエリーは
「前に馬鹿にするようなこと言っちゃって悪かったわ。
あの人達とても良い人達ね。
アナタが仲良くしている意味がわかった気がする」
「そうだろう?ボクは自分を取り繕うのは止めて、ドンドン地の自分を出していこうと決めたんだ」
「ドンドン?」
「うん。君の前で本当の自分でいられるように、職場でも少しずつそうしていくつもりだ」
「・・・ファッションも?」
「そうだよ?自分らしさを追求していくつもりさ」
『マズい!非常にマズい!
どうするエリー?どうにかしろ私!』
「い、・・・嫌だな」
「え?」
「素のアベルを知ってるのは私だけでいいもん」
「え?」
「外の人達には格好良いアベルしか見せたくないの。私だけが本当のアベルを知っていたいの。
・・・我儘かなあ?」
エリーはアベルの腕にしがみついて渾身の上目遣いで訴える。
「エ、エリー・・・そんな風に思ってくれるんだね?」
「う、・・・うん。・・だから、おばあちゃんのセーターもデッカイ格子柄のネルのシャツも二人っきりで家にいる時だけにしてほしいの・・・」
「わかったよ」
なんとか危機を回避したエリーはやれやれと胸を撫で下ろした。
今夜はとうとう2回目の初夜。
さてさて、どうなることか。
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