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アベル必死
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エリーはニールセンにアベルの文句を連射した。
ニールセンは悪口にこんなにバリエーションがあるのかと驚愕しつつ、一言も口を挟む余地を与えられずただただ無言で嵐の過ぎ去るのを待っていた。
すると家政婦のグエンさんが慌てた様子でやって来て、
「ブライスさんがお越しです。
ひどく慌てたご様子ですが」
と言った。
「会いたくないって言って!」
そうエリーが言ったと同時にアベルが肩で息をしながらリビングの入口に立っていた。
「エエエエリー、ししし心配しました」
「落ち着け」
ニールセンがアベルの肩を叩く。
「い、いつまでたっても戻って来ないから探しに行ったんだ。
そしたら、き、君がいなくなってたから、だ、誰かに連れ去られたのかと思って、け、警察に通報しようと」
「やめてよね!」
「そ、そしたら職員の人が、若い女性なら、に、逃げるように出ていかれましたよって、ふ、不審者でもいたのかい?怖い目にあったんじゃないかと心配で走って来たんだ!」
『アンタから逃げて来たんだよ!』
なんだかもうイヤになってしまってエリーの目から涙がポロポロ溢れてしまった。
「わわわわわ、かかかか可哀想に!ここここ怖い目にあったんだね!」
アベルはエリーに駆け寄った。
そして遠慮がちにそっとエリーに触れようとした瞬間、
「いやぁーーーーー!」
というエリーの絶叫が響いた。
「ちょっと、オマエちょっとこっちに来い」
アベルはニールセンに連行されていった。
なにやら別室で指南という名の説教を受けているようである。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
グエンさんが温かいココアを持って来てくれた。
「それにしても、たまげたハンサムですね。ブライスさんは」
グエンさんの感心した顔を見るとエリーは吐き捨てるようにフン!と鼻を鳴らしてから、
「ゴミ箱に華美な装飾は要らないわ」
と言い放った。
「いくらなんでも口が悪すぎます。
息を切らして必死の形相で駆け込んでいらしたんですよ?
お嬢様のことを本当に心配していらしたんでしょうに、・・・ゴミ箱って」
「あーもうっ!どいつもこいつもアイツの味方ばっかりして」
「お嬢様、何がそんなに不満なんですか?冷静に考えてみてくださいな。
あんなハンサムさんなんですよ?毎日お顔を拝見してるだけでも幸せってもんじゃないですか。
それに大層なお金持ちでいらっしゃるそうじゃないですか。
こんな好条件は他には無いですよ」
「じゃ、グエンが結婚すれば?」
「また、そんな」
「金持ち金持ちって言うけど、私だって別に度を越した贅沢がしたいわけじゃないのよ?
朝食のオートミールにダイヤモンドをトッピングして食べるわけでもあるまいし、今の経済状況で私は十分満足なの!
顔顔顔顔言うけどさ、顔の良い変人より平凡な容姿の気の利いた男の方がずっとマシだっての!!」
グエンさんは、そうですかねぇ、とまだ残念そうに呟いている。
するとニールセンが戻って来て、いつになく真剣な顔で、
「俺の部屋に来い」と言った。
「行きたくない」
「兄としての命令だ!」
いつもはヘラヘラとエリーにやられているニールセンだが、このモードの時は逆らえない。
渋々従って兄の後ろからついていくとアベルがエリーを見るなり
「ごごごごごごごごご」
『ごめんなさい、なのかな?』
「ごめん!」
と強張った顔を見せた。
「・・・・・・」
「落ち着けよ」
ニールセンが嗜める。
「きききききき」
『きのう?』
「君に」
『あ、違った』
「君に良いところを見せたくて、・・・つ、つい暴走してしまった」
「・・・・」
「き、君がトラブルに巻き込まれたんじゃないかと心配で、生きた心地がしなかった。
ぶ、無事で良かった」
『トラブル?思いっきり巻き込まれましたけど?』
「オマエも黙ってないでなんとか言えよ。
いくら嫌でも黙って帰るのはダメだろう?」
「・・・・ご心配おかけしました」
「い、いいんだ。
君が歴史好きだと聞いたので、俺も割合とその手の話には興味があるから盛り上がるかと思って・・・・。
君の前だと緊張して上手く話せなくなるから、比較的得意な分野ならスムーズな会話が楽しめると思ったんだ」
「・・・あれがスムーズな楽しい会話。
私が一方的にやり込められただけだと思うけど。
まるで授業中に立たされてる気分だったわよ」
「「・・・・・」」
「『そこは感情論ではなく資料的根拠に基づいて意見を述べるべきだと思うなぁ』とか、『イヤイヤ我が国は法治国家なのだから国民感情が法の前に優先されることは無いよ。っていうかあってはならない!』とかさぁ、なんでワザワザ呼び出されて説教されなきゃいけないのよ・・・」
エリーはアベルの口調を真似て会話の様子を再現した。
ニールセンは頭を抱えている。
「お前さあ・・・女の子ってのは甘やかしてなんぼだろう?」
呆れ果てたように言ったニールセンの言葉にアベルのスイッチが入った。
「そんなの女性に失礼だろう?!」
ニールセンは悪口にこんなにバリエーションがあるのかと驚愕しつつ、一言も口を挟む余地を与えられずただただ無言で嵐の過ぎ去るのを待っていた。
すると家政婦のグエンさんが慌てた様子でやって来て、
「ブライスさんがお越しです。
ひどく慌てたご様子ですが」
と言った。
「会いたくないって言って!」
そうエリーが言ったと同時にアベルが肩で息をしながらリビングの入口に立っていた。
「エエエエリー、ししし心配しました」
「落ち着け」
ニールセンがアベルの肩を叩く。
「い、いつまでたっても戻って来ないから探しに行ったんだ。
そしたら、き、君がいなくなってたから、だ、誰かに連れ去られたのかと思って、け、警察に通報しようと」
「やめてよね!」
「そ、そしたら職員の人が、若い女性なら、に、逃げるように出ていかれましたよって、ふ、不審者でもいたのかい?怖い目にあったんじゃないかと心配で走って来たんだ!」
『アンタから逃げて来たんだよ!』
なんだかもうイヤになってしまってエリーの目から涙がポロポロ溢れてしまった。
「わわわわわ、かかかか可哀想に!ここここ怖い目にあったんだね!」
アベルはエリーに駆け寄った。
そして遠慮がちにそっとエリーに触れようとした瞬間、
「いやぁーーーーー!」
というエリーの絶叫が響いた。
「ちょっと、オマエちょっとこっちに来い」
アベルはニールセンに連行されていった。
なにやら別室で指南という名の説教を受けているようである。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
グエンさんが温かいココアを持って来てくれた。
「それにしても、たまげたハンサムですね。ブライスさんは」
グエンさんの感心した顔を見るとエリーは吐き捨てるようにフン!と鼻を鳴らしてから、
「ゴミ箱に華美な装飾は要らないわ」
と言い放った。
「いくらなんでも口が悪すぎます。
息を切らして必死の形相で駆け込んでいらしたんですよ?
お嬢様のことを本当に心配していらしたんでしょうに、・・・ゴミ箱って」
「あーもうっ!どいつもこいつもアイツの味方ばっかりして」
「お嬢様、何がそんなに不満なんですか?冷静に考えてみてくださいな。
あんなハンサムさんなんですよ?毎日お顔を拝見してるだけでも幸せってもんじゃないですか。
それに大層なお金持ちでいらっしゃるそうじゃないですか。
こんな好条件は他には無いですよ」
「じゃ、グエンが結婚すれば?」
「また、そんな」
「金持ち金持ちって言うけど、私だって別に度を越した贅沢がしたいわけじゃないのよ?
朝食のオートミールにダイヤモンドをトッピングして食べるわけでもあるまいし、今の経済状況で私は十分満足なの!
顔顔顔顔言うけどさ、顔の良い変人より平凡な容姿の気の利いた男の方がずっとマシだっての!!」
グエンさんは、そうですかねぇ、とまだ残念そうに呟いている。
するとニールセンが戻って来て、いつになく真剣な顔で、
「俺の部屋に来い」と言った。
「行きたくない」
「兄としての命令だ!」
いつもはヘラヘラとエリーにやられているニールセンだが、このモードの時は逆らえない。
渋々従って兄の後ろからついていくとアベルがエリーを見るなり
「ごごごごごごごごご」
『ごめんなさい、なのかな?』
「ごめん!」
と強張った顔を見せた。
「・・・・・・」
「落ち着けよ」
ニールセンが嗜める。
「きききききき」
『きのう?』
「君に」
『あ、違った』
「君に良いところを見せたくて、・・・つ、つい暴走してしまった」
「・・・・」
「き、君がトラブルに巻き込まれたんじゃないかと心配で、生きた心地がしなかった。
ぶ、無事で良かった」
『トラブル?思いっきり巻き込まれましたけど?』
「オマエも黙ってないでなんとか言えよ。
いくら嫌でも黙って帰るのはダメだろう?」
「・・・・ご心配おかけしました」
「い、いいんだ。
君が歴史好きだと聞いたので、俺も割合とその手の話には興味があるから盛り上がるかと思って・・・・。
君の前だと緊張して上手く話せなくなるから、比較的得意な分野ならスムーズな会話が楽しめると思ったんだ」
「・・・あれがスムーズな楽しい会話。
私が一方的にやり込められただけだと思うけど。
まるで授業中に立たされてる気分だったわよ」
「「・・・・・」」
「『そこは感情論ではなく資料的根拠に基づいて意見を述べるべきだと思うなぁ』とか、『イヤイヤ我が国は法治国家なのだから国民感情が法の前に優先されることは無いよ。っていうかあってはならない!』とかさぁ、なんでワザワザ呼び出されて説教されなきゃいけないのよ・・・」
エリーはアベルの口調を真似て会話の様子を再現した。
ニールセンは頭を抱えている。
「お前さあ・・・女の子ってのは甘やかしてなんぼだろう?」
呆れ果てたように言ったニールセンの言葉にアベルのスイッチが入った。
「そんなの女性に失礼だろう?!」
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