やるの?やらないの?

猫枕

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デートの報告

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「いや!絶対無理!無理だから!」

 エリーは帰宅(もちろん実家)するなりハンドバッグをソファに投げ捨ててニールセンに当たった。

「なんだよ。今日はアベルとデートだったんじゃないのか?」

 ニヤニヤするニールセンにエリーは特大の溜息を吐いてどっかりとソファに座った。

「何か飲み物持ってきて」

 へいへいと返事をしていなくなったニールセンがレモネードを持って戻って来た。

 それを受け取ってゴクゴク飲んだエリーが、

「どこに行ったと思う?」

 と挑戦的にニールセンを見上げた。

「さあ、女の子が好きそうな場所をあいつなりにリサーチしたんじゃないの?」

 事前にアベルからエリーが何を好むかと聞かれたニールセンは、エリーは歴史に興味がある、と答えていたのだ。

 先ごろ中世をイメージしたアミューズメントパークが開園し、若い娘たちに大人気でニールセンも色んな女の子を連れてもう何回も行っている。

 中世の町並みを再現したパークの中で一日お姫様扱いをしてやると女の子達はすっかりいい気分になる。

 白いお城の見える観覧車の中から花火が上がるのを見せるとイチコロで、女の子たちは目を潤ませてニールセンのキスの要求に応えてくれるのだ。

『ん~~。でもまだ花火の時間には早いよな?
 品行方正のアベル君は明るい内にエリーを家に帰したのかな?』

 そんなことをツラツラ考えているとエリーが吼えた。

「戦勝祈念館!!戦勝祈念館よ!!」

「・・・戦勝祈念館?・・・デートで?」

「そうよ。小学校の社会科見学以来の戦勝祈念館よっ!」

「いや、まあ、先人の犠牲にたいして感謝と鎮魂の意を表するのは国民として当然の義務だとは思うけどな」

「デートで?」

「い、・・・いやあ・・・」

「悲惨な戦争遺品の展示物の数々・・・。
 未だ血の臭いが残るような切り裂かれた赤黒い軍服。
 涙無しには読むことができない家族に宛てた手紙。
 捕虜として連行された先で行われた非人道的な虐待と拷問の数々。
そしてその体験を綴った手記!」

「い、・・・いやぁ、・・・まあ、なんてゆうか、有意義?な体験?だったんじゃね?
 
 ほら、我々も今の平和に甘んじる事無く、時には過去を振り返って反省することも重要じゃん?」

「・・・確かにね。そこまでならまだ我慢できたわよ」

「続きがあるの?」

「もう陰鬱な気分でやっと外にでたら、『お茶でもどう?』って言うから、サンデーでも食べて気を取り直そうって思ったのよ」

 ニールセンは無言で相槌を打った。

「そしたらさ、普通は流行りのカフェかなんか行くでしょ?
 ところが行った先は一般人も入れる職員食堂よ。なんかメニューもしけてんのしか無いし、内装も椅子もテーブルも安っぽくってダサいし、全体的になんか薄汚れてるし、そこであの人『ここだと今どき一杯180ペクーニアでコーヒーが飲めるんだ』なんて得意顔なのよ?どう思う?」

「金持ちほど経済観念がしっかりしてんだろ?」

「もうその時点で帰りたいわけよ。
 それなのに、いざコーヒーが来て、あの人何て言ったと思う?」

「さあ?」

「我が国は先の大戦の結果民主化して今の資本主義経済に至ったわけだけど、一方で隣国は途中までは我が国と同じ様に民主化の道をたどったわけだが絶対的な指導者の下で社会主義政策を推し進めるに至ったわけだ。
 君はこの両者の違いが将来的に我が国、ひいては世界に及ぼすであろう影響についてどう思うかい?
 って、確かそんな風なことを言ったのよ!!」

「・・・・ダメジャン」

「今までほとんど喋らなかったのに、話しだしたらペラペラペラペラこっちのことなんかお構い無しにずーっと喋ってんだから!アッタマおかしいんじゃないの?」

「・・・オマエに良いとこ見せようと張り切っちゃったんじゃないかな?」

「またそうやってアイツの肩を持つ!兄さんはどっちの味方なのよ?」
 
『うわー、とうとうアイツ呼ばわりしだしたよ』

「それで仕方ないから私も、『社会主義は一種の社会実験だと思います。結果が出るには数十年はかかるんじゃないでしょうかね』
 なんて、テキトーにお茶を濁すようなこと言ったら、
『それは一般によく言われる逃げみたいなもので、君の意見ではないよね?』
 とか言うわけ。
 正直そんなこと考えて生きてるわけじゃないし、漠然と『自由主義経済の国に生まれて良かったな~』なんて思ってるだけだからさ、将来に及ぼす影響、とかわかんないよ。

 『いやぁ、ちょっと考えた事無いです』
 
 って言ったらさ、

『君は我々が置かれている現状を正しく認識する努力をするべきだ。学ばない大衆が社会を破滅に導く』

 とか、どうしてデートで説教されなきゃいけないのぉ?

 お手洗いに行くって言ってそのまま逃げて来たわよ」

「・・・マッタクアイツハ・・・」

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