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しおりを挟む「またヒースの負けだな」
「すぐに顔に出ちゃうからな」
「正直者って言ってくれよ。大体ボク、こんな嘘つきに囲まれてこれから生きていけるか不安だよ」
「まあまあ腐るなって」
船上のカードゲームで負け続けのヒースはすっかりご機嫌ナナメである。
「もう、やってらんないから休むよ。
カトリーヌ行こう。
今からボクたちラブラブするんだから邪魔しないでよ」
確かにユージン、ヴィッラーニ、ヒースの父ラルフに囲まれて、単細胞ヒースに勝ち目はない。
ヴィッラーニ先生がニヤニヤしながら
「プレゼントは役に立った?」
とカトリーヌに聞いてきたので、
「何ですかアレ?」
「魅惑の夜を過ごせたでしょう?」
言いながら噴きそうになっているのが余計頭にくる。
「お陰様でムードもクソもない新婚初夜を過ごしましたよ」
ヒースがやろうとしたあれは一種の関節技だった。
「女の子がクソとか言っちゃダメ」
「フン!なにが『愁いのある文学青年』ですか。
ただの『むっつりスケベ』でしょ!」
「心外だな~。あれはアカデミックな本なのに~」
カトリーヌは膨れっ面のヒースを宥めながらプレイルームを後にする。
この後皆でビリヤードをするらしい。
ニレルまでは普通旅客船では片道二週間かかるのだが高速クルーザー テティス号では半分の時間で着けるのだ。
とはいえ一週間を船上で過ごさなければならないので皆思い思いに暇つぶしをすることになる。
女性陣は専ら寄り集まってお喋りに興じる。
アディヤとナディアはすっかり意気投合してお互いをアディー、ナディーと呼び合う仲になっていた。
キャサリンとヴィッラーニ先生は学術書を広げて、なにやら難しい話を笑顔で楽しそうに話していることもあれば、各々が男同士、女同士の遊びに加わったりして自由に過ごしていた。
キース&ニールは船員たちとすっかり仲良くなって、甲板でボーリングをしたりロープワークを教えてもらったり、操舵室にも出入りしてすっかり船乗りになり切っていた。
人懐っこい性格は兄弟共通のようだ。
水平線に沈む夕陽を眺めながら聴く演奏家の奏でる物悲しいギターの音色も格別だったが、黄昏の中でいつも一緒にダンナの悪口を言っているナディアがラルフと仲睦まじく肩を寄せ合っているのを見たアディヤは、なんとも言えない虚しい気持ちになったりした。
昼食は甲板でバーベキューかビュッフェスタイルにすることが多くて、スタッフやクルーも交代で皆で食事をする。
その時は『焼き肉大臣ヒース』が大活躍をする。
肉の焼き加減に一家言あるヒースの焼く肉は確かに美味しいのだが、
「ほら今が食べ頃」
「すぐ食べろ」
とうるさいのが玉に傷だった。
天候にも恵まれ航海は順調に進んでいった。
もうすぐ目的地に着くという時になって、今更ながらアディヤのニレル語講座が開かれた。
日常会話は問題ないキャサリン&ヴィッラーニを除く面々が、とりあえず、
『こんにちは』
『ありがとう』
『いくらですか』
『トイレはどこですか?』
などの簡単な文を覚えた。
そうやって一行はいよいよニレルに到着した。
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