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しおりを挟む「皆様のお陰で無事、自由になりました。
心から感謝します」
カトリーヌの言葉に皆口々に、良かった、おめでとう、と嬉しそうだ。
「何はともあれ無事に婚約解消できて良かった。
皆の協力に感謝する」
ユージンが言うと、
「でもさ、借金で追い詰めるだけで解決できたんじゃないの?
あんな芝居しなくても」
首を傾げるヴィッラーニ先生に、
「あの家が王家と繋がりが深いのは夫人の血縁によるところが大きいんだ。
だから夫人がカトリーヌをいくら嫌っていても金蔓として容認しているうちは婚約解消はなかなか難しかったんだよ」
「どうしても婚約解消して欲しい、と訴えるように仕向けた、と?」
「結局ボク毎日お菓子食ってるだけで何の役にも立ってないけど」
ヒースがしょんぼりしている。
「そんなことはない。
そもそも君がグレアムを偵察しなければ大臣の娘のことも侯爵の投資詐欺のことも分からなかったんだから」
「そうよ。いつものことで家に平気で穴を埋めさせてお礼も言わないで終わってたわよ。
今回はお兄様が埋められないくらい穴を広げたからどうしようもなくなったのよ」
「・・・ボクも役に立った?」
ウンウンと皆で頷く。
「それに、面白かっただろ?
あの親子が怖がる姿を見られただけでも一興だったよ」
「私も面白かった」
アディヤが笑う。
「あの人にたくさんイジメられたから、
仕返ししてスーッとした」
「アディヤ様の演技スゴかったですよ」
皆に褒められて得意気なアディヤ。
「毎日つまらなかったけど、若い人達と悪いことするの楽しかった。
またやりたいね」
勘弁してくださいよ~、とヒースが言って皆が笑って、美味しいものを食べて飲んで時間が過ぎていった。
「グレアムとカトリーヌ・ソアルーサー嬢との婚約を解消した」
夕食の席で侯爵が静かに告げた。
グレアムが
「どうして今更?」
と語気を強めて問うと、
「私がそう決めたからだ。
大体お前はずっとあの令嬢を嫌っていただろう?急に不機嫌になってどうした?」
「別になんでもありません」
グレアムは不満なような、それでいてどこか安堵したような複雑な表情で、それ以上父親を追及することはなかった。
その夜侯爵は妻に
「望み通りソアルーサーとは縁を切った」
と言った。
「そうですか」
「港湾使用権も製鉄所も返した」
妻は何も言わない。
侯爵は少し自棄になった感じで
「もう、今までみたいな贅沢はできなくなるよ。
それでもいいの?」
と妻に意地悪っぽい口調で言った。
すると妻が、
「あなたと一緒にいられるなら新しいドレスも宝石も要らないわ」
と言って微笑んだのだ。
それは、とっくの昔に忘れていた、出会った頃の少女の時の顔だった。
侯爵は思わず妻を抱きしめた。
権力を振りかざして手に入れてきたものと引き換えに大切なものを失くしてきたのだと今更ながら気がついた。
「すまなかった」
侯爵が妻を抱く腕に力を込める。
すると、あのいつもキーキーとヒステリックに泣き喚く妻が、本当に柔らかい優しい顔になって
「愛しているわ」
と囁いた。
侯爵は妻をいつまでもいつまでも抱きしめた。
いつの間にか涙が流れていた。
グレアムは自分の感情がどこにあるのか自分でも分からずにイライラしていた。
自分の意見も聞かずにカトリーヌとの婚約解消を決めてきた父に対する憤りもあったが、一方で、あのカトリーヌの話に対する恐怖もあって破談は自分にとっての幸運なのかも知れないという気持ちもあった。
『まあ、結婚しなくてもカトリーヌを手に入れる方法はいくらでもあるさ』
グレアムは負け惜しみのように呟いた。
「そういえばグレアム様」
グレアムの専属秘書スクリーバが紅茶をセットしながら言った。
「以前グレアム様が仰っていたご令嬢」
「ん?」
「ほら陸軍大臣のティメンテス公爵閣下のお嬢さん」
「・・・彼女が何か?」
「自殺したらしいですよ」
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