嘘つき女とクズ男

猫枕

文字の大きさ
上 下
20 / 39

20

しおりを挟む

 「今日は完璧な台本を作る為に信頼のおける友人を呼んだ」

 ユージンはカトリーヌと仲間達を前にいささか芝居がかった言い方をした。

「入ってくれジョバンニ」

 ドアが開いて男性が入ってきた。

「よっ!」
 
 男は片手を挙げて挨拶した。


「「「ヴィッラーニ先生!!」」」

 


「先生は兄と友達なんですか?」

「うん、まあ。アカデミー時代のね」

 ユージンは留学先でジョバンニ・ヴィッラーニと寮の部屋が隣同士だったことから仲良くなったそうだ。

「学生時代のヴィッラーニ先生ってどんな人だったんですか?」

 キャサリンが期待を込めた目をユージンに向ける。

「うーん。うれいのある文学青年って感じで女学生に人気があったよ」

そうなんだ~とキャサリンが暗い声を出す。

「その愁いとやらは何処に置いてきたんすかね?」

 ヒースが言って、ヴィッラーニ先生から頭をはかかれている。

 「お兄様は?浮いた話はなかったんですの?」
 
 「私は内気で暗いヤツだったからね。
 片や『愁いのある』片や『陰気』
 どこに違いがあるんだか教えて欲しかったね」


「ボクはお兄さん好い線いいせんいってると思うけどね」

と言って再び頭を叩かれているヒース。

「すいません。教育が悪くって」

 と先生がユージンに頭を下げている。



「まあまあ無駄話はこれくらいにして本題に入ろうか」

 ユージンが笑うと、

「本気でやるの?」

とヴィッラーニ先生。

 『普通の頭の人ならそう思うよね』

 カトリーヌは気の毒なものを見る目をヴィッラーニ先生に向けた。

 先生は気が進まないような様子を見せてはいたが、鞄から取り出したノートブックにはびっしりと計画案が書かれていた。


 「私は、君たちのお母上、アディヤ夫人にも協力して貰うことを考えているんだ」

「お母様も?」

「アディヤ様はニレル国のご出身だよね?
 ニレルは我々の宗教の基になった神を信仰している古い歴史を持った国だ。

 我々の中にはニレルを旧いふるい契約を信奉する民族として見下す者が多い一方で、ニレルの持つ神秘的な伝承や神の力に畏怖を感じる者も少なくない。

  それを利用しようと思うんだ」


「どういうことですか?」

「『エリヤの眼』を使う」

「なんすかそれ?」

「時間を巻き戻す力のある石、ですね」

 さすがは読書家のキャサリン。

「そんなもんホントにあるのか?!」

「無い」

  沈黙。

「無いけど、心のどこかで信じてる、
そういうものが、誰の心にもあるだろう?」

 「神様とか天国とか?」

「そうそう」

「呪いとか罰とか?」

「そうそう」

「永遠の愛とか?」

「そうそう」

「他人の善意とか?」

「そうそう」

「自分自身の存在とか?」

「もうヤメテ~!」

 カトリーヌが鬱になるわっ!とストップをかけた。


「そんなわけでね、生まれ変わりだの死に戻りだのを本気で信じる人も案外いるのさ。

 王家も凌駕するほどの資産家の男がニレルから連れ帰った美女が『エリヤの眼』を使って愛する娘を生き返らせるために時間を巻き戻したとしたら?

 物語にできそうな話だと思わない?」

 皆が「ほぅ~」と言ったような気がした。

「カトリーヌが一人で死に戻った、と言うのと、そこにアディヤ様が出て来て、私が『エリヤの眼』で巻き戻した、と言うのではどっちが信憑性が高まる?」



 
 
 訳も分からず連れて来られたアディヤは最初は訝しげな顔をしていたが、大まかな計画を聞くとノリノリで顔を輝かせた。

「まあ、母さんは込み入った話になったら理解できないから、すっとぼければ誤魔化せるだろ」

「ヤバいってなったらニレル語で捲し立てれば相手を煙に巻けるわね」

 ユージンとカトリーヌがそう言うと、

「コイツら絶対私を馬鹿にしてるよね?」

 アディヤが口を尖らせて隣のヒースを見上げる。

「うわっ!反則ですよ。
 そんなカトリーヌと同じ顔で言われたらボク、おかしくなっちゃうよ!」

 顔を赤くするヒースにユージンが、

「ストライクゾーン広いな~」

と言うと、瞬時にアディヤが投げた飴がユージンの額にクリーンヒットした。


 





 

 
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

恋という名の呪いのように

豆狸
恋愛
アンジェラは婚約者のオズワルドに放置されていた。 彼は留学してきた隣国の王女カテーナの初恋相手なのだという。 カテーナには縁談がある。だから、いつかオズワルドは自分のもとへ帰って来てくれるのだと信じて、待っていたアンジェラだったが──

婚約者が私にだけ冷たい理由を、実は私は知っている

恋愛
一見クールな公爵令息ユリアンは、婚約者のシャルロッテにも大変クールで素っ気ない。しかし最初からそうだったわけではなく、貴族学院に入学してある親しい友人ができて以来、シャルロッテへの態度が豹変した。

ずっとお慕いしております。

竹本 芳生
恋愛
婚約破棄される令嬢のお話。 アンハッピーエンド。 勢いと気分で書きました。

君はずっと、その目を閉ざしていればいい

瀬月 ゆな
恋愛
 石畳の間に咲く小さな花を見た彼女が、その愛らしい顔を悲しそうに歪めて「儚くて綺麗ね」とそっと呟く。  一体何が儚くて綺麗なのか。  彼女が感じた想いを少しでも知りたくて、僕は目の前でその花を笑顔で踏みにじった。 「――ああ。本当に、儚いね」 兄の婚約者に横恋慕する第二王子の歪んだ恋の話。主人公の恋が成就することはありません。 また、作中に気分の悪くなるような描写が少しあります。ご注意下さい。 小説家になろう様でも公開しています。

【完結】殿下は私を溺愛してくれますが、あなたの“真実の愛”の相手は私ではありません

Rohdea
恋愛
──私は“彼女”の身代わり。 彼が今も愛しているのは亡くなった元婚約者の王女様だけだから──…… 公爵令嬢のユディットは、王太子バーナードの婚約者。 しかし、それは殿下の婚約者だった隣国の王女が亡くなってしまい、 国内の令嬢の中から一番身分が高い……それだけの理由で新たに選ばれただけ。 バーナード殿下はユディットの事をいつも優しく、大切にしてくれる。 だけど、その度にユディットの心は苦しくなっていく。 こんな自分が彼の婚約者でいていいのか。 自分のような理由で互いの気持ちを無視して決められた婚約者は、 バーナードが再び心惹かれる“真実の愛”の相手を見つける邪魔になっているだけなのでは? そんな心揺れる日々の中、 二人の前に、亡くなった王女とそっくりの女性が現れる。 実は、王女は襲撃の日、こっそり逃がされていて実は生きている…… なんて噂もあって────

貴方でなくても良いのです。

豆狸
恋愛
彼が初めて淹れてくれたお茶を口に含むと、舌を刺すような刺激がありました。古い茶葉でもお使いになったのでしょうか。青い瞳に私を映すアントニオ様を傷つけないように、このことは秘密にしておきましょう。

【完結】気味が悪いと見放された令嬢ですので ~殿下、無理に愛さなくていいのでお構いなく~

Rohdea
恋愛
───私に嘘は通じない。 だから私は知っている。あなたは私のことなんて本当は愛していないのだと── 公爵家の令嬢という身分と魔力の強さによって、 幼い頃に自国の王子、イライアスの婚約者に選ばれていた公爵令嬢リリーベル。 二人は幼馴染としても仲良く過ごしていた。 しかし、リリーベル十歳の誕生日。 嘘を見抜ける力 “真実の瞳”という能力に目覚めたことで、 リリーベルを取り巻く環境は一変する。 リリーベルの目覚めた真実の瞳の能力は、巷で言われている能力と違っていて少々特殊だった。 そのことから更に気味が悪いと親に見放されたリリーベル。 唯一、味方となってくれたのは八歳年上の兄、トラヴィスだけだった。 そして、婚約者のイライアスとも段々と距離が出来てしまう…… そんな“真実の瞳”で視てしまった彼の心の中は─── ※『可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~』 こちらの作品のヒーローの妹が主人公となる話です。 めちゃくちゃチートを発揮しています……

処理中です...