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しおりを挟む「今日は完璧な台本を作る為に信頼のおける友人を呼んだ」
ユージンはカトリーヌと仲間達を前にいささか芝居がかった言い方をした。
「入ってくれジョバンニ」
ドアが開いて男性が入ってきた。
「よっ!」
男は片手を挙げて挨拶した。
「「「ヴィッラーニ先生!!」」」
「先生は兄と友達なんですか?」
「うん、まあ。アカデミー時代のね」
ユージンは留学先でジョバンニ・ヴィッラーニと寮の部屋が隣同士だったことから仲良くなったそうだ。
「学生時代のヴィッラーニ先生ってどんな人だったんですか?」
キャサリンが期待を込めた目をユージンに向ける。
「うーん。愁いのある文学青年って感じで女学生に人気があったよ」
そうなんだ~とキャサリンが暗い声を出す。
「その愁いとやらは何処に置いてきたんすかね?」
ヒースが言って、ヴィッラーニ先生から頭を叩かれている。
「お兄様は?浮いた話はなかったんですの?」
「私は内気で暗いヤツだったからね。
片や『愁いのある』片や『陰気』
どこに違いがあるんだか教えて欲しかったね」
「ボクはお兄さん好い線いってると思うけどね」
と言って再び頭を叩かれているヒース。
「すいません。教育が悪くって」
と先生がユージンに頭を下げている。
「まあまあ無駄話はこれくらいにして本題に入ろうか」
ユージンが笑うと、
「本気でやるの?」
とヴィッラーニ先生。
『普通の頭の人ならそう思うよね』
カトリーヌは気の毒なものを見る目をヴィッラーニ先生に向けた。
先生は気が進まないような様子を見せてはいたが、鞄から取り出したノートブックにはびっしりと計画案が書かれていた。
「私は、君たちのお母上、アディヤ夫人にも協力して貰うことを考えているんだ」
「お母様も?」
「アディヤ様はニレル国のご出身だよね?
ニレルは我々の宗教の基になった神を信仰している古い歴史を持った国だ。
我々の中にはニレルを旧い契約を信奉する民族として見下す者が多い一方で、ニレルの持つ神秘的な伝承や神の力に畏怖を感じる者も少なくない。
それを利用しようと思うんだ」
「どういうことですか?」
「『エリヤの眼』を使う」
「なんすかそれ?」
「時間を巻き戻す力のある石、ですね」
さすがは読書家のキャサリン。
「そんなもんホントにあるのか?!」
「無い」
沈黙。
「無いけど、心のどこかで信じてる、
そういうものが、誰の心にもあるだろう?」
「神様とか天国とか?」
「そうそう」
「呪いとか罰とか?」
「そうそう」
「永遠の愛とか?」
「そうそう」
「他人の善意とか?」
「そうそう」
「自分自身の存在とか?」
「もうヤメテ~!」
カトリーヌが鬱になるわっ!とストップをかけた。
「そんなわけでね、生まれ変わりだの死に戻りだのを本気で信じる人も案外いるのさ。
王家も凌駕するほどの資産家の男がニレルから連れ帰った美女が『エリヤの眼』を使って愛する娘を生き返らせるために時間を巻き戻したとしたら?
物語にできそうな話だと思わない?」
皆が「ほぅ~」と言ったような気がした。
「カトリーヌが一人で死に戻った、と言うのと、そこにアディヤ様が出て来て、私が『エリヤの眼』で巻き戻した、と言うのではどっちが信憑性が高まる?」
訳も分からず連れて来られたアディヤは最初は訝しげな顔をしていたが、大まかな計画を聞くとノリノリで顔を輝かせた。
「まあ、母さんは込み入った話になったら理解できないから、すっとぼければ誤魔化せるだろ」
「ヤバいってなったらニレル語で捲し立てれば相手を煙に巻けるわね」
ユージンとカトリーヌがそう言うと、
「コイツら絶対私を馬鹿にしてるよね?」
アディヤが口を尖らせて隣のヒースを見上げる。
「うわっ!反則ですよ。
そんなカトリーヌと同じ顔で言われたらボク、おかしくなっちゃうよ!」
顔を赤くするヒースにユージンが、
「ストライクゾーン広いな~」
と言うと、瞬時にアディヤが投げた飴がユージンの額にクリーンヒットした。
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