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翌日カトリーヌは大事をとって学校を欠席した。
ヒースが鞄を受け取りにいくと、グレアムも風邪を引いたとかでしばらく欠席するらしい、とヴィッラーニ先生が教えてくれた。
『ふん!アイツ顔が腫れ上がって表に出られないんだろう?ザマーミロッ!!』
放課後、ヒースはキャサリンと連れだってカトリーヌに会いに行った。
1日経って落ち着きを取り戻したカトリーヌは、
「本当に二人がいなかったら私はどうなっていたか分からない」
と何度もありがとう、と言った。
「キャサリンは勉強ができるだけじゃなくて的確な判断力があるのね!
賢くて自慢の友達だわ」
「雄しべと雌しべのこととかも詳しいしな~」
「なにを?!」
ヒースとキャサリンは笑いながらケーキのフォークで戦闘の真似をする。
キャサリンはフォークを突き出しながら『ドーテー、ドーテー』と奇妙な掛け声をかけ、ヒースはヤメロ~と叫んでいた。
ふざけていたヒースが突然真顔になる。
「これはオマエらだから言うんだからな。
絶対に、絶対に秘密だからな!」
「「?」」
「他の人には絶対に言うなよ」
「・・・なんだか判んないけど・・わかった」
「私も」
「・・・ボクの親父は名目上は下級役人。
役場で住民台帳なんか管理してるうだつの上がんねー男なんだけどさ、
ホントは軍の諜報員なんだ」
「えっ?!す、・・・酸っぱい??」
「・・・スパイな。・・・そういうの要らないから。
・・・このことはウチの母ちゃんも知らないんだから、絶対に言うなよ」
「わかった。私も半信半疑だし」
ウンウンとカトリーヌも同意する。
「それでな、・・・この前・・カトリーヌから・・ほ、・・本命チョコ?
・・・もら・・」
「何ニヤニヤしてんの」
「話が進まないじゃない」
「ああ、ゴメンゴメン。
あの時から、どうにかしてアイツ、グレアムの弱味を握って婚約解消できないかってんで、親父に協力して貰ってたんだ」
「国家権力の私的流用・・・」
「どうしてそんなことが?」
「親父の弱味を握ったんだ」
「・・・恐ろしい子・・・」
「昔親父が母ちゃんに書いたラブレターをごちゃまんと見つけちゃって」
キャサリンとカトリーヌが白い目になる。
「・・・ま、まあ、そんなわけでさ、恋する心は世代を超えて共通じゃん?
息子の恋路の為に一肌脱いでもらったってわけよ」
「・・・なんか、不正の匂いがプンプンするけど・・・有力情報でも見つかった?」
「それがさあ、昨夜親父から聞いたんだけど、アイツ陸軍大臣の娘に手を出しちゃったみたいなんだ」
「・・・マズイんじゃない?」
「マズイだろうね~」
「え?じゃあ、そのことを大臣にバラせば、簡単に婚約解消できるってこと?」
「そう簡単にはいかないかも知れないな」
振り返るとドアの側にカトリーヌの兄ユージンが立っていた。
「お兄様!」
ユージンは どちらかといえば父親似なのだろう。
薄茶の髪にグレーの瞳と色合いはカトリーヌとは全然違うが、顔立ちは良く似ている美青年だ。
ユージンはテーブルに近づくとヒースに握手を求めた。
「妹を助けてくれたことに深く感謝する」
「お久しぶりです」
緊張するヒースにユージンは優しく微笑んだ。
ユージンはキャサリンにも
「君のような聡明な女性が妹のそばにいてくれて感謝しかない」
と言った。
「・・あの?簡単じゃない、とは?」
「アイツはどうやらご令嬢をうまく丸めこんだようだよ」
「どういうことですか?」
「今日、学校をサボったグレアムはご令嬢に会いに行った。
純情なご令嬢はグレアムの為に身を引くそうだよ」
「お兄様もグレアムを見張っていらしたの?」
「まあね」
「・・じゃあ、ボクが余計な事しなくても良かったんですね・・」
ヒースはしょんぼりした。
「そんなことないぞ。ウチの調査員と君のお父様の部下が友達なんだ。
最初の情報はその人を通じて得たものだからね」
「・・・それって、情報漏洩・・」
「まあまあまあ、お陰でアイツらの密会場所にウチの手の者をズラリ配置できたんだしさ」
「・・・丸め込んだって・・」
ユージンは厳しい顔をした。
「きっと昨日の時点では五分五分ってところだったんだろう。
だから責任取って閣下の娘を娶らされる場合を考えて、カトリーヌを愛人にでもするつもりで既成事実を作ろうとしたんじゃないかな?」
「あんの野郎!両足叩き折ってやる!」
いつも優しいヒースのどちらかというとタレ気味の大きな目が怒りで吊り上がった。
キャサリンは拳を固く握って
「許せない!」
と震えた。
「じゃあ、婚約解消を迫るのは無理ってことですの?」
カトリーヌが悲しげに兄を見上げる。
「そうでもないさ。
ただ、もっと情報も集めなきゃいけないし慎重に動かなければいけない」
「綿密に計画を立てる必要がありますわね」
キャサリンが決意したように目に力を込めた。
ヒースが鞄を受け取りにいくと、グレアムも風邪を引いたとかでしばらく欠席するらしい、とヴィッラーニ先生が教えてくれた。
『ふん!アイツ顔が腫れ上がって表に出られないんだろう?ザマーミロッ!!』
放課後、ヒースはキャサリンと連れだってカトリーヌに会いに行った。
1日経って落ち着きを取り戻したカトリーヌは、
「本当に二人がいなかったら私はどうなっていたか分からない」
と何度もありがとう、と言った。
「キャサリンは勉強ができるだけじゃなくて的確な判断力があるのね!
賢くて自慢の友達だわ」
「雄しべと雌しべのこととかも詳しいしな~」
「なにを?!」
ヒースとキャサリンは笑いながらケーキのフォークで戦闘の真似をする。
キャサリンはフォークを突き出しながら『ドーテー、ドーテー』と奇妙な掛け声をかけ、ヒースはヤメロ~と叫んでいた。
ふざけていたヒースが突然真顔になる。
「これはオマエらだから言うんだからな。
絶対に、絶対に秘密だからな!」
「「?」」
「他の人には絶対に言うなよ」
「・・・なんだか判んないけど・・わかった」
「私も」
「・・・ボクの親父は名目上は下級役人。
役場で住民台帳なんか管理してるうだつの上がんねー男なんだけどさ、
ホントは軍の諜報員なんだ」
「えっ?!す、・・・酸っぱい??」
「・・・スパイな。・・・そういうの要らないから。
・・・このことはウチの母ちゃんも知らないんだから、絶対に言うなよ」
「わかった。私も半信半疑だし」
ウンウンとカトリーヌも同意する。
「それでな、・・・この前・・カトリーヌから・・ほ、・・本命チョコ?
・・・もら・・」
「何ニヤニヤしてんの」
「話が進まないじゃない」
「ああ、ゴメンゴメン。
あの時から、どうにかしてアイツ、グレアムの弱味を握って婚約解消できないかってんで、親父に協力して貰ってたんだ」
「国家権力の私的流用・・・」
「どうしてそんなことが?」
「親父の弱味を握ったんだ」
「・・・恐ろしい子・・・」
「昔親父が母ちゃんに書いたラブレターをごちゃまんと見つけちゃって」
キャサリンとカトリーヌが白い目になる。
「・・・ま、まあ、そんなわけでさ、恋する心は世代を超えて共通じゃん?
息子の恋路の為に一肌脱いでもらったってわけよ」
「・・・なんか、不正の匂いがプンプンするけど・・・有力情報でも見つかった?」
「それがさあ、昨夜親父から聞いたんだけど、アイツ陸軍大臣の娘に手を出しちゃったみたいなんだ」
「・・・マズイんじゃない?」
「マズイだろうね~」
「え?じゃあ、そのことを大臣にバラせば、簡単に婚約解消できるってこと?」
「そう簡単にはいかないかも知れないな」
振り返るとドアの側にカトリーヌの兄ユージンが立っていた。
「お兄様!」
ユージンは どちらかといえば父親似なのだろう。
薄茶の髪にグレーの瞳と色合いはカトリーヌとは全然違うが、顔立ちは良く似ている美青年だ。
ユージンはテーブルに近づくとヒースに握手を求めた。
「妹を助けてくれたことに深く感謝する」
「お久しぶりです」
緊張するヒースにユージンは優しく微笑んだ。
ユージンはキャサリンにも
「君のような聡明な女性が妹のそばにいてくれて感謝しかない」
と言った。
「・・あの?簡単じゃない、とは?」
「アイツはどうやらご令嬢をうまく丸めこんだようだよ」
「どういうことですか?」
「今日、学校をサボったグレアムはご令嬢に会いに行った。
純情なご令嬢はグレアムの為に身を引くそうだよ」
「お兄様もグレアムを見張っていらしたの?」
「まあね」
「・・じゃあ、ボクが余計な事しなくても良かったんですね・・」
ヒースはしょんぼりした。
「そんなことないぞ。ウチの調査員と君のお父様の部下が友達なんだ。
最初の情報はその人を通じて得たものだからね」
「・・・それって、情報漏洩・・」
「まあまあまあ、お陰でアイツらの密会場所にウチの手の者をズラリ配置できたんだしさ」
「・・・丸め込んだって・・」
ユージンは厳しい顔をした。
「きっと昨日の時点では五分五分ってところだったんだろう。
だから責任取って閣下の娘を娶らされる場合を考えて、カトリーヌを愛人にでもするつもりで既成事実を作ろうとしたんじゃないかな?」
「あんの野郎!両足叩き折ってやる!」
いつも優しいヒースのどちらかというとタレ気味の大きな目が怒りで吊り上がった。
キャサリンは拳を固く握って
「許せない!」
と震えた。
「じゃあ、婚約解消を迫るのは無理ってことですの?」
カトリーヌが悲しげに兄を見上げる。
「そうでもないさ。
ただ、もっと情報も集めなきゃいけないし慎重に動かなければいけない」
「綿密に計画を立てる必要がありますわね」
キャサリンが決意したように目に力を込めた。
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