嘘つき女とクズ男

猫枕

文字の大きさ
上 下
13 / 39

13

しおりを挟む
「陸軍大臣に娘なんていたっけ?」

 グレアムは平静を装って専属秘書のスクリーバに聞いた。
 
 考えてみればセリーヌが良家の令嬢だなんておかしな話だ。
 
学院の生徒ではないし、他の学校に通っている様子も無い。

かといって素直なセリーヌが嘘をついているとも思えないが。


「ティメンテス陸軍大臣のことですか?
 さすがグレアム様、情報がお早いですね」 

 スクリーバは一息おいて話始めた。

「ティメンテス閣下が酒場の女に産ませた隠し子らしいですよ。

 閣下は強面こわもてですが、婿養子ですからね、奥様に頭が上がらなかったみたいですよ。
 
閣下はかねてから隠し子を養子にしたかったようですが、夫人の強固な反対で諦めていたそうです。
 思うように援助もできなくて辛いと周囲に溢していたようですよ。

 それが長い間病に臥せっていた奥様が先日亡くなって、ようやく閣下の天下ってわけです。

 目に入れても痛くないっていうくらいの可愛いがりようだそうですよ」

 スクリーバの言葉はグレアムの一縷の希望を打ち砕いた。

 なるほど、そういうわけならセリーヌに教養が無いのも頷ける。


 セリーヌとの関係がバレれば責任を取って結婚させられるだろう。

 セリーヌは可愛いが、生涯の伴侶としては物足りないしバカすぎる。

 家格でいえばティメンテス家の方がカトリーヌのソアルーサー家より遥かに上だが、ティメンテスにはさほど資産は無い。

 それに、セリーヌは名目上は養子。

 大臣の実子ではあるが、愛人に産ませた婚外子だ。

 元々カトリーヌとの婚約には大反対の母は、セリーヌが正当なティメンテス家の娘なら諸手を挙げて喜ぶかも知れないが、愛人の子となるとどうだろう?

 父は?ソアルーサーの資金力に執着する父がすんなりとカトリーヌとの婚約解消に同意するだろうか?

 そして何よりオレ自身は?

 カトリーヌを諦められるのか?

 グレアムは妙案が浮かばないまま堂々巡りを繰り返した。

 とりあえずほとぼりが冷めるまで留学でもして姿をくらますか?

 『特殊任務で外国に潜入する』

 とか言えば、馬鹿だから信じるんじゃないか?

 でも、ずっと外国に行ってるわけにもいかないしな・・・。

 いずれバレるのは避けられないだろうな・・・。

 どうすればカトリーヌを手放さずに済むだろうか?






放課後ヒースがクラスの男子で集まってお喋りをしているところに、キャサリンが息を切らせて走って来た。

「ヒース!!」

 叫ぶ声がただごとじゃない。

 顔色を変えて駆け寄ってくるヒース。

「カトリーヌが!」

「どうした?!」

「アイツ・・グレアムに拐われた!」






「アスパラガス!って強そうよね?」

「言い方じゃない?」

「音だけ聞いたら強そうじゃない?

 アスパラガスVSピーマン。

 どうよ?」 

「確かに・・・実際はピーマンの方が強いけど」

「・・・どう実際は、なのかが不明だけど」

 カトリーヌとキャサリンが談笑しながら校門を出ると、そこにグレアムが立っていた。

 そして、

「オレたち婚約者同士なんだからさ、もっと親密になるべきじゃない?」

 気味の悪い笑みを浮かべたグレアムは、そばに待たせていた馬車に嫌がるカトリーヌを押し込んで走り去ったのだ。

 


「これ頼む」

 キャサリンに鞄を押し付けたヒースは全速力で走り去った。


  カトリーヌはいつもキャサリンの家の近くに馬車を待たせている。
 そこまで二人でお喋りしながら歩いて帰るのだ。

 それが今日は仇になった。

 ヒースはソアルーサー家の馬車が停まっている場所まで必死で走った。


「フォルコンリー侯爵家はどこだ?」

ハアハアと息を切らせながら詰め寄るヒースに顔見知りの馭者が何事かと驚いている。

「カトリーヌがグレアムに無理矢理連れていかれた。
 酷い目に遭わされないか心配だ。
 頼む!連れて行ってくれ」

 馭者が無言で2、3度高速で頷くとヒースは彼の隣にさっと乗り込んだ。



 















 

 

 


しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

氷の姫は戦場の悪魔に恋をする。

米田薫
恋愛
皇女エマはその美しさと誰にもなびかない性格で「氷の姫」として恐れられていた。そんなエマに異母兄のニカはある命令を下す。それは戦場の悪魔として恐れられる天才将軍ゼンの世話係をしろというものである。そしてエマとゼンは互いの生き方に共感し次第に恋に落ちていくのだった。 孤高だが実は激情を秘めているエマと圧倒的な才能の裏に繊細さを隠すゼンとの甘々な恋物語です。一日2章ずつ更新していく予定です。

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

やり直し令嬢は本当にやり直す

お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。

欲深い聖女のなれの果ては

あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。 その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。 しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。 これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。 ※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈 
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

処理中です...