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「陸軍大臣に娘なんていたっけ?」
グレアムは平静を装って専属秘書のスクリーバに聞いた。
考えてみればセリーヌが良家の令嬢だなんておかしな話だ。
学院の生徒ではないし、他の学校に通っている様子も無い。
かといって素直なセリーヌが嘘をついているとも思えないが。
「ティメンテス陸軍大臣のことですか?
さすがグレアム様、情報がお早いですね」
スクリーバは一息おいて話始めた。
「ティメンテス閣下が酒場の女に産ませた隠し子らしいですよ。
閣下は強面ですが、婿養子ですからね、奥様に頭が上がらなかったみたいですよ。
閣下はかねてから隠し子を養子にしたかったようですが、夫人の強固な反対で諦めていたそうです。
思うように援助もできなくて辛いと周囲に溢していたようですよ。
それが長い間病に臥せっていた奥様が先日亡くなって、ようやく閣下の天下ってわけです。
目に入れても痛くないっていうくらいの可愛いがりようだそうですよ」
スクリーバの言葉はグレアムの一縷の希望を打ち砕いた。
なるほど、そういうわけならセリーヌに教養が無いのも頷ける。
セリーヌとの関係がバレれば責任を取って結婚させられるだろう。
セリーヌは可愛いが、生涯の伴侶としては物足りないしバカすぎる。
家格でいえばティメンテス家の方がカトリーヌのソアルーサー家より遥かに上だが、ティメンテスにはさほど資産は無い。
それに、セリーヌは名目上は養子。
大臣の実子ではあるが、愛人に産ませた婚外子だ。
元々カトリーヌとの婚約には大反対の母は、セリーヌが正当なティメンテス家の娘なら諸手を挙げて喜ぶかも知れないが、愛人の子となるとどうだろう?
父は?ソアルーサーの資金力に執着する父がすんなりとカトリーヌとの婚約解消に同意するだろうか?
そして何よりオレ自身は?
カトリーヌを諦められるのか?
グレアムは妙案が浮かばないまま堂々巡りを繰り返した。
とりあえず熱りが冷めるまで留学でもして姿をくらますか?
『特殊任務で外国に潜入する』
とか言えば、馬鹿だから信じるんじゃないか?
でも、ずっと外国に行ってるわけにもいかないしな・・・。
いずれバレるのは避けられないだろうな・・・。
どうすればカトリーヌを手放さずに済むだろうか?
放課後ヒースがクラスの男子で集まってお喋りをしているところに、キャサリンが息を切らせて走って来た。
「ヒース!!」
叫ぶ声がただごとじゃない。
顔色を変えて駆け寄ってくるヒース。
「カトリーヌが!」
「どうした?!」
「アイツ・・グレアムに拐われた!」
「アスパラガス!って強そうよね?」
「言い方じゃない?」
「音だけ聞いたら強そうじゃない?
アスパラガスVSピーマン。
どうよ?」
「確かに・・・実際はピーマンの方が強いけど」
「・・・どう実際は、なのかが不明だけど」
カトリーヌとキャサリンが談笑しながら校門を出ると、そこにグレアムが立っていた。
そして、
「オレたち婚約者同士なんだからさ、もっと親密になるべきじゃない?」
気味の悪い笑みを浮かべたグレアムは、そばに待たせていた馬車に嫌がるカトリーヌを押し込んで走り去ったのだ。
「これ頼む」
キャサリンに鞄を押し付けたヒースは全速力で走り去った。
カトリーヌはいつもキャサリンの家の近くに馬車を待たせている。
そこまで二人でお喋りしながら歩いて帰るのだ。
それが今日は仇になった。
ヒースはソアルーサー家の馬車が停まっている場所まで必死で走った。
「フォルコンリー侯爵家はどこだ?」
ハアハアと息を切らせながら詰め寄るヒースに顔見知りの馭者が何事かと驚いている。
「カトリーヌがグレアムに無理矢理連れていかれた。
酷い目に遭わされないか心配だ。
頼む!連れて行ってくれ」
馭者が無言で2、3度高速で頷くとヒースは彼の隣にさっと乗り込んだ。
グレアムは平静を装って専属秘書のスクリーバに聞いた。
考えてみればセリーヌが良家の令嬢だなんておかしな話だ。
学院の生徒ではないし、他の学校に通っている様子も無い。
かといって素直なセリーヌが嘘をついているとも思えないが。
「ティメンテス陸軍大臣のことですか?
さすがグレアム様、情報がお早いですね」
スクリーバは一息おいて話始めた。
「ティメンテス閣下が酒場の女に産ませた隠し子らしいですよ。
閣下は強面ですが、婿養子ですからね、奥様に頭が上がらなかったみたいですよ。
閣下はかねてから隠し子を養子にしたかったようですが、夫人の強固な反対で諦めていたそうです。
思うように援助もできなくて辛いと周囲に溢していたようですよ。
それが長い間病に臥せっていた奥様が先日亡くなって、ようやく閣下の天下ってわけです。
目に入れても痛くないっていうくらいの可愛いがりようだそうですよ」
スクリーバの言葉はグレアムの一縷の希望を打ち砕いた。
なるほど、そういうわけならセリーヌに教養が無いのも頷ける。
セリーヌとの関係がバレれば責任を取って結婚させられるだろう。
セリーヌは可愛いが、生涯の伴侶としては物足りないしバカすぎる。
家格でいえばティメンテス家の方がカトリーヌのソアルーサー家より遥かに上だが、ティメンテスにはさほど資産は無い。
それに、セリーヌは名目上は養子。
大臣の実子ではあるが、愛人に産ませた婚外子だ。
元々カトリーヌとの婚約には大反対の母は、セリーヌが正当なティメンテス家の娘なら諸手を挙げて喜ぶかも知れないが、愛人の子となるとどうだろう?
父は?ソアルーサーの資金力に執着する父がすんなりとカトリーヌとの婚約解消に同意するだろうか?
そして何よりオレ自身は?
カトリーヌを諦められるのか?
グレアムは妙案が浮かばないまま堂々巡りを繰り返した。
とりあえず熱りが冷めるまで留学でもして姿をくらますか?
『特殊任務で外国に潜入する』
とか言えば、馬鹿だから信じるんじゃないか?
でも、ずっと外国に行ってるわけにもいかないしな・・・。
いずれバレるのは避けられないだろうな・・・。
どうすればカトリーヌを手放さずに済むだろうか?
放課後ヒースがクラスの男子で集まってお喋りをしているところに、キャサリンが息を切らせて走って来た。
「ヒース!!」
叫ぶ声がただごとじゃない。
顔色を変えて駆け寄ってくるヒース。
「カトリーヌが!」
「どうした?!」
「アイツ・・グレアムに拐われた!」
「アスパラガス!って強そうよね?」
「言い方じゃない?」
「音だけ聞いたら強そうじゃない?
アスパラガスVSピーマン。
どうよ?」
「確かに・・・実際はピーマンの方が強いけど」
「・・・どう実際は、なのかが不明だけど」
カトリーヌとキャサリンが談笑しながら校門を出ると、そこにグレアムが立っていた。
そして、
「オレたち婚約者同士なんだからさ、もっと親密になるべきじゃない?」
気味の悪い笑みを浮かべたグレアムは、そばに待たせていた馬車に嫌がるカトリーヌを押し込んで走り去ったのだ。
「これ頼む」
キャサリンに鞄を押し付けたヒースは全速力で走り去った。
カトリーヌはいつもキャサリンの家の近くに馬車を待たせている。
そこまで二人でお喋りしながら歩いて帰るのだ。
それが今日は仇になった。
ヒースはソアルーサー家の馬車が停まっている場所まで必死で走った。
「フォルコンリー侯爵家はどこだ?」
ハアハアと息を切らせながら詰め寄るヒースに顔見知りの馭者が何事かと驚いている。
「カトリーヌがグレアムに無理矢理連れていかれた。
酷い目に遭わされないか心配だ。
頼む!連れて行ってくれ」
馭者が無言で2、3度高速で頷くとヒースは彼の隣にさっと乗り込んだ。
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