触らせないの

猫枕

文字の大きさ
上 下
16 / 32

16

しおりを挟む

 翌朝、シーリアは客間から出勤しようとしたところをサイモンの母に捕獲された。

「あなた一体どういうつもりなの?」

 シーリアは頭痛がするからと家族の朝食の席に顔を出さなかった。

 シーリアは心で舌打ちしながら、いかにも申し訳なさそうな気の弱い微笑みを向けた。

「奥様だけに聞いていただきたいことがあるのですが」


サイモンの母は「奥様」という言葉に少しカチンときたが、気づかない振りをしてシーリアをテラスに誘った。


 「奥様はご子息様のことを誰よりも大切に愛していらっしゃいますよね?」


 「・・・そりゃ、母親だもの」

 義母のことを奥様、配偶者のことをご子息様という呼び方にレイダー夫人はイラッときた。

 「ご子息様には幸せになって欲しいですよね?」

「・・・当たり前でしょ」


「ご子息様には愛する女性がいることをご存知ですよね?挙式にもいらしたリンダさんです。
 
 私と違って明るくて可愛い方です。

 彼女とだったらご子息様も幸せな家庭を持つことができるでしょう」


「・・・・・」


「でも、ご子息様はご自分の意志に反して私と結婚しなければいけなかった。

 不幸なことです。

 ですから私達は、どうしても欠かせない社交の場でだけ仲の良い夫婦を演じることにしました。

  3年子供が出来なければ、私を有責にして離婚できますから」


「・・・貴女はそれでいいの?」

 元々 夫人は陰気なシーリアが嫌いだった。


「問題ありません。

 その為に教会で挙式しなかったんですから。

 リンダさんには幸せな花嫁になっていただきたいですから。

 その代わり今まで通りに外で働く事を許していただきたいのです」


「でもぉ。嫁が我が家の系列でもない所で働いているのは外聞が悪いわ。

 それに、サイモンが伯爵位を継いだら色々仕事が忙しいんだから妻のあなたに任せたいことも多いのよ」


「たった3年でいなくなる人間に、細かな家の内情を知られるのはレイダー伯爵家にとってデメリットでは?
 
それに系列の会社で働いたとして、離婚後も雇ってもらえるんですか?
 双方にとって居心地が悪いと思うんですが」


「それはそうだけど・・・」


「私の実家での扱いは奥様もご存知でしょう?

 離婚しても帰れる場所のない私は自力で生活するしかないんです。

 なにせ私の有責なら慰謝料もいただけないわけですし」


  それでも納得しきれずに、でもぉ、を繰り返す夫人にシーリアは最後の一押しをした。


「愛するご子息様の為ですよ」


 結局折れた夫人を残して去って行くシーリアの後ろ姿を見ながら、

「あの子、あんな風にハッキリものを言う子だったかしら?」

 とレイダー夫人は呟いた。





 シーリアが事務所の扉を開けて入っていくと、


「うわっ!」

 とか

「嘘!」

とか

「ホントに来た!」

 とかの声が上がった。

「なんですかぁ~?」

 不機嫌そうなシーリアに、

「今日、お前が来るかどうか賭けてたんだよ。

 まさか来るとは思わなかったな」

 チキショーと所長。

「僕の一人勝ちですね~」

と先輩事務員のビリーさんが笑った。



 


 






 
しおりを挟む
感想 120

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

王太子の愚行

よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。 彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。 婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。 さて、男爵令嬢をどうするか。 王太子の判断は?

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

処理中です...