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しおりを挟む翌朝、シーリアは客間から出勤しようとしたところをサイモンの母に捕獲された。
「あなた一体どういうつもりなの?」
シーリアは頭痛がするからと家族の朝食の席に顔を出さなかった。
シーリアは心で舌打ちしながら、いかにも申し訳なさそうな気の弱い微笑みを向けた。
「奥様だけに聞いていただきたいことがあるのですが」
サイモンの母は「奥様」という言葉に少しカチンときたが、気づかない振りをしてシーリアをテラスに誘った。
「奥様はご子息様のことを誰よりも大切に愛していらっしゃいますよね?」
「・・・そりゃ、母親だもの」
義母のことを奥様、配偶者のことをご子息様という呼び方にレイダー夫人はイラッときた。
「ご子息様には幸せになって欲しいですよね?」
「・・・当たり前でしょ」
「ご子息様には愛する女性がいることをご存知ですよね?挙式にもいらしたリンダさんです。
私と違って明るくて可愛い方です。
彼女とだったらご子息様も幸せな家庭を持つことができるでしょう」
「・・・・・」
「でも、ご子息様はご自分の意志に反して私と結婚しなければいけなかった。
不幸なことです。
ですから私達は、どうしても欠かせない社交の場でだけ仲の良い夫婦を演じることにしました。
3年子供が出来なければ、私を有責にして離婚できますから」
「・・・貴女はそれでいいの?」
元々 夫人は陰気なシーリアが嫌いだった。
「問題ありません。
その為に教会で挙式しなかったんですから。
リンダさんには幸せな花嫁になっていただきたいですから。
その代わり今まで通りに外で働く事を許していただきたいのです」
「でもぉ。嫁が我が家の系列でもない所で働いているのは外聞が悪いわ。
それに、サイモンが伯爵位を継いだら色々仕事が忙しいんだから妻のあなたに任せたいことも多いのよ」
「たった3年でいなくなる人間に、細かな家の内情を知られるのはレイダー伯爵家にとってデメリットでは?
それに系列の会社で働いたとして、離婚後も雇ってもらえるんですか?
双方にとって居心地が悪いと思うんですが」
「それはそうだけど・・・」
「私の実家での扱いは奥様もご存知でしょう?
離婚しても帰れる場所のない私は自力で生活するしかないんです。
なにせ私の有責なら慰謝料もいただけないわけですし」
それでも納得しきれずに、でもぉ、を繰り返す夫人にシーリアは最後の一押しをした。
「愛するご子息様の為ですよ」
結局折れた夫人を残して去って行くシーリアの後ろ姿を見ながら、
「あの子、あんな風にハッキリものを言う子だったかしら?」
とレイダー夫人は呟いた。
シーリアが事務所の扉を開けて入っていくと、
「うわっ!」
とか
「嘘!」
とか
「ホントに来た!」
とかの声が上がった。
「なんですかぁ~?」
不機嫌そうなシーリアに、
「今日、お前が来るかどうか賭けてたんだよ。
まさか来るとは思わなかったな」
チキショーと所長。
「僕の一人勝ちですね~」
と先輩事務員のビリーさんが笑った。
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