触らせないの

猫枕

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 卒業まであと1ヶ月に迫った日曜日の午後。

 税法の試験に無事合格したシーリアと珍しく前日に飲みに行かなかったルネが寮の談話室のサンルームでまったりと日向ぼっこをしているところに知らせは届いた。

 シーリアとルネのそれぞれと半分ずつ血の繋がった弟、ロバートが行方不明になったというのだ。


 詳細が分からない二人は取り急ぎハモンド邸へと向かった。

 学園から邸まで歩いても30分弱。

 それほど近い場所なのにルネがハモンド邸に帰るのは5年ぶり。

 もっとも彼にハモンド家への帰属意識はもとより、帰る、という感覚も無いのだろうが。



 使用人に門を開けてもらって中に入ると邸の中は騒然としていた。


 メイドの話によるとハモンド伯爵一家は夫婦と子供2人とでピクニックに出掛けたのだが、行った先でほんの少し目を離した隙にロバートがいなくなった、ということだった。


 夫妻は現地で捜索を続けているらしく、邸内には事態の進展について詳しい情報を得られないまま不安な表情で右往左往する使用人のみが残されていた。

 
 シーリアはどうするべきかと思案したが、捜索に加わるべくルネと共に現場に向かうことにした。


  現場に向かう馬車の中でルネが頬杖をついて窓の外を眺めたまま言った。


 「弟って言ってもねぇ。

 ・・・・会ったことも無いしね」


 ロバートが生まれたのはルネが邸を出た後だった。


 ロバートの誕生を祝うパーティーにも、その後生まれた妹グレースの時も、呼ばれなかったのか来なかったのかルネの姿はなかった。

 シーリアはきらびやかな飾り付けをされた会場で、満面の笑みで交わされるお祝いの言葉をどこか遠くから聞こえてくるように感じながら、疎外感と居心地の悪さの中で同じ孤独を共有できるルネを求めていた。

 
クリスマスも復活祭もルネが参加することはなかった。
 派手に催されたパーティーには沢山の客が招かれるのに、そこにルネの場所は無かった。
 そしてその場に存在しているシーリアにとっても。




 クリスマス休暇に寮に残っている学生なんていない。

 「良いお年を」

 遠方の領地に帰って行く友達を見送るルネは歩いてすぐの邸に帰ることもなく、どのように過ごしてきたのだろう。


  この前のクリスマスはシーリアも家に帰らずルネと過ごしたが、ルネは行きつけだというbar panicに連れて行ってくれた。

 常連客たちと楽しげに飲み騒ぐルネを『彼にも居場所があるのなら』と安心した気持ちで眺めていたシーリアだったが、酒量が増えるにしたがって壊れていきそうな表情をしたルネが年上の女性に甘える姿を見た時は何故か泣きたいような気分になった。


 
 馬車が止まって目的地に着いたことを知らされる。


 シーリアは得体の知れない緊張を覚えたが、ルネはいつもと変わらないように見えた。


 数十の人達が一様に深刻な顔をして動き回っていた。

 レイダー家の人達も駆けつけてくれたようで、捜索本部と思われるテントの下では継母を励ますサイモンの母親の姿があった。



 ルネは泣き濡れる実母には目もくれずサイモンの父に近寄って

「どの辺を探せばいいですか?」 

 とか聞いている。


「この近辺は捜索済みだから、もっと森の奥を探しているところだ」



 シーリアとルネは林道を歩いて森に入って行った。


 歩きながらルネは冗談なのか本気なのか分からない調子で、


「とりあえず、探すフリでもしますか」

 と言った。








 


 



 



 



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