触らせないの

猫枕

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 「私は学園の寮に入ることにしましたわ」

 無理矢理入った父の書斎で相変わらずこっちを見ようともしない男にシーリアは言った。

「そんな勝手は許さん」

「許可を求めているのではありませんわ。

 単なる報告ですから」

 おもむろに立ち上がった男がシーリアを睨み付けながら乱暴な足取りで近づいてくる。

「殴れば?」

「なにっ?!」

「暴力で屈服させようとしても無駄です。

 心だけは私のものですから」


 「・・・・・・」


「なぜ反対なさるのですか?

 ルネは13才で寮に入れたじゃないですか。

 あとは邪魔者の私を厄介払いできれば、伯爵と夫人とお二人の間に生まれた可愛いお子さん達と水入らずじゃないですか。

 まさに、本当の家族だけで暮らせますよ」


「・・・勝手にしろ!!」


「週明け早々に入寮します。

 手続き宜しく」

 シーリアは申請に必要な書類を机に並べると半ば無理矢理父にサインをさせて引ったくるように書類を掴むとさっさと部屋を出ていった。









 シーリアはガランとした寮の食堂で血の繋がらない弟ルネと向き合って遅い夕食を摂っていた。

 
 「姉さんでも反抗するんだ」

 
 面白そうにフフンと笑うルネは、正統派の美形からは外れるがちょっとクセのある顔つきが却って魅力的に見える不思議な美しさの男だ。
 ツンと先の尖った鼻に切れ長のつり目。
 一見冷たい印象を与えるが笑った顔はドキッとするほど人懐っこい。



「お継母様が私を邪魔にして目とはなの先の学園の寮に追い出したって噂になって参ってるみたい。

 あなたのお母様なのに悪いけど、ちょっといい気味って思っちゃった。ごめんなさいね」


「ボクにはどうだっていいことだよ」


ルネは意味の無い笑いを浮かべる。


「私にも色々準備しとかなきゃいけないことがあるから家を出たかっただけなんだけどね。

 まあ、居心地の良い家かっていわれれば・・・・ねぇ。

 ・・・でもさ、それ言ったらルネなんか13才の時からいないものとして扱われてるじゃないよね?」


「ボクはハモンド家の人間じゃないから」


ルネの名前はルネ・デュシャン。ハモンドではない。

 シーリアの父は再婚に際して、ルネを籍に入れなかった。
 両親の再婚後、一年間はハモンド邸で一緒に暮らしたシーリアとルネだったが、血の繋がらない年頃の男女が同じ邸で暮らすのは外聞が悪いと言う理由で学園入学と共に寮に入れられたルネは以来ハモンド邸を訪れたことはない。

 シーリアはつくづく父はクソだと思う。

「まあ、ボクにとってはこの方が気楽だからずっと良いけどね。

 それより準備って?」


「結婚は避けられないかもしれないけど、おとなしく言いなりになるなんて悔しいじゃない?」


 シーリアは先日の盗み聞きの内容をルネに話して聞かせた。


「ホンっと、心底気持ち悪い。

 10代の感覚じゃないよね?!

 爽やかさのカケラも無い!まるで中年のエロ親父!」


 ルネは女の子みたいにキャアキャア声を立てて笑った。


 「絶対!あんなヤツに指一本触らせない!」


「じゃあ、ボクは姉さんの奮闘を見物させてもらいましょうかね」


「面白がってないで協力してよね」


「まあ、ボクで役に立てることがあればね」


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