3 / 32
3
しおりを挟む「私は学園の寮に入ることにしましたわ」
無理矢理入った父の書斎で相変わらずこっちを見ようともしない男にシーリアは言った。
「そんな勝手は許さん」
「許可を求めているのではありませんわ。
単なる報告ですから」
おもむろに立ち上がった男がシーリアを睨み付けながら乱暴な足取りで近づいてくる。
「殴れば?」
「なにっ?!」
「暴力で屈服させようとしても無駄です。
心だけは私のものですから」
「・・・・・・」
「なぜ反対なさるのですか?
ルネは13才で寮に入れたじゃないですか。
あとは邪魔者の私を厄介払いできれば、伯爵と夫人とお二人の間に生まれた可愛いお子さん達と水入らずじゃないですか。
まさに、本当の家族だけで暮らせますよ」
「・・・勝手にしろ!!」
「週明け早々に入寮します。
手続き宜しく」
シーリアは申請に必要な書類を机に並べると半ば無理矢理父にサインをさせて引ったくるように書類を掴むとさっさと部屋を出ていった。
シーリアはガランとした寮の食堂で血の繋がらない弟ルネと向き合って遅い夕食を摂っていた。
「姉さんでも反抗するんだ」
面白そうにフフンと笑うルネは、正統派の美形からは外れるがちょっとクセのある顔つきが却って魅力的に見える不思議な美しさの男だ。
ツンと先の尖った鼻に切れ長のつり目。
一見冷たい印象を与えるが笑った顔はドキッとするほど人懐っこい。
「お継母様が私を邪魔にして目とはなの先の学園の寮に追い出したって噂になって参ってるみたい。
あなたのお母様なのに悪いけど、ちょっといい気味って思っちゃった。ごめんなさいね」
「ボクにはどうだっていいことだよ」
ルネは意味の無い笑いを浮かべる。
「私にも色々準備しとかなきゃいけないことがあるから家を出たかっただけなんだけどね。
まあ、居心地の良い家かっていわれれば・・・・ねぇ。
・・・でもさ、それ言ったらルネなんか13才の時からいないものとして扱われてるじゃないよね?」
「ボクはハモンド家の人間じゃないから」
ルネの名前はルネ・デュシャン。ハモンドではない。
シーリアの父は再婚に際して、ルネを籍に入れなかった。
両親の再婚後、一年間はハモンド邸で一緒に暮らしたシーリアとルネだったが、血の繋がらない年頃の男女が同じ邸で暮らすのは外聞が悪いと言う理由で学園入学と共に寮に入れられたルネは以来ハモンド邸を訪れたことはない。
シーリアはつくづく父はクソだと思う。
「まあ、ボクにとってはこの方が気楽だからずっと良いけどね。
それより準備って?」
「結婚は避けられないかもしれないけど、おとなしく言いなりになるなんて悔しいじゃない?」
シーリアは先日の盗み聞きの内容をルネに話して聞かせた。
「ホンっと、心底気持ち悪い。
10代の感覚じゃないよね?!
爽やかさのカケラも無い!まるで中年のエロ親父!」
ルネは女の子みたいにキャアキャア声を立てて笑った。
「絶対!あんなヤツに指一本触らせない!」
「じゃあ、ボクは姉さんの奮闘を見物させてもらいましょうかね」
「面白がってないで協力してよね」
「まあ、ボクで役に立てることがあればね」
25
お気に入りに追加
2,413
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
【完結】私の婚約者は妹のおさがりです
葉桜鹿乃
恋愛
「もう要らないわ、お姉様にあげる」
サリバン辺境伯領の領主代行として領地に籠もりがちな私リリーに対し、王都の社交界で華々しく活動……悪く言えば男をとっかえひっかえ……していた妹ローズが、そう言って寄越したのは、それまで送ってきていたドレスでも宝飾品でもなく、私の初恋の方でした。
ローズのせいで広まっていたサリバン辺境伯家の悪評を止めるために、彼は敢えてローズに近付き一切身体を許さず私を待っていてくれていた。
そして彼の初恋も私で、私はクールな彼にいつのまにか溺愛されて……?
妹のおさがりばかりを貰っていた私は、初めて本でも家庭教師でも実権でもないものを、両親にねだる。
「お父様、お母様、私この方と婚約したいです」
リリーの大事なものを守る為に奮闘する侯爵家次男レイノルズと、領地を大事に思うリリー。そしてリリーと自分を比べ、態と奔放に振る舞い続けた妹ローズがハッピーエンドを目指す物語。
小説家になろう様でも別名義にて連載しています。
※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)
安らかにお眠りください
くびのほきょう
恋愛
父母兄を馬車の事故で亡くし6歳で天涯孤独になった侯爵令嬢と、その婚約者で、母を愛しているために側室を娶らない自分の父に憧れて自分も父王のように誠実に生きたいと思っていた王子の話。
※突然残酷な描写が入ります。
※視点がコロコロ変わり分かりづらい構成です。
※小説家になろう様へも投稿しています。
やり直し令嬢は本当にやり直す
お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
「好き」の距離
饕餮
恋愛
ずっと貴方に片思いしていた。ただ単に笑ってほしかっただけなのに……。
伯爵令嬢と公爵子息の、勘違いとすれ違い(微妙にすれ違ってない)の恋のお話。
以前、某サイトに載せていたものを大幅に改稿・加筆したお話です。
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる