死亡フラグを回避すると、毎回エッチする羽目になるのはどうしてでしょうか？

モブ視点：課長と総務課の無自覚アイドルとの婚約発表

④

「……課長、よろしいですか」
　ミーティング後、竹下先輩の後をついて俺も歩いていく。

「はい、竹下さん、西崎さん、どうされましたか？」
　課長からいつもどおり穏やかな笑みを返されるが、竹下先輩は引く気はないらしい。

「課長、ご婚約おめでとうございます。まずは総務課男子社員一同から、課長をお祝いの酒席にご招待したいのですが……」

　じとりと睨み付ける男子社員の圧に負けたのか、荻原課長はふっとどこか挑戦的な笑みを眼鏡の奥に浮かべた。
「──ありがとうございます。お招き、了解しました」



　そして予想通り、荻原課長を囲む飲み会は荒れた。相当に荒れた。

　しかもなぜか総務課のメンバーだけでなく、営業部やら、広報部のやつらまで呼んでもいないのに来ているのはどういうことだ？

「なんで課長が、藤野さんを捕まえてるんですか。藤野さんと何歳違うんですか。俺たちに譲ってくれてもいいじゃないですか」

　おとなしくて穏やかだと課内でも評判の田中さんが酔っぱらった勢いで課長に絡んでいる。彼まで藤野さんファンだったのか、恐るべし。

「嫌です。私は誰よりも前から、……彼女が入社前から、藤野さんに目をつけていたんです」
　周りの圧をさらりと流し、ひょうひょうと冷ややっこを箸でつまんでいた課長が、笑顔を消して、きっぱりと言い返してくるから、思わず聞き返してしまった。

「藤野さんの入社前から？」
「ええ、最初に亜耶さんに会ったのは、入社面接でね。それでも口説くのにこれだけ時間がかかったんです。ようやく口説き落とせたんですから、他に譲る気は一切ありません」

　どこか凄みのある笑みを浮かべて課長は俺たちの顔を見る。てか、課長、さりげに亜耶さんとか呼んでいるし。普段の穏やかな様子が一変して、どこか悪い大人の顔をする。
「亜耶さんが、総務課以外の男性社員にも人気があるのは知っていますが、私だって、必死だったんです。それに……」
　ふっと笑みを浮かべた課長の表情が、いつもの優し気なものからガラッと雰囲気が変わって思わず息を呑む。

「亜耶さんは私のものです。……彼女も私のことをずっと好きでいてくれたみたいです。初めて私のことを好きだ、と言ってくれた時の表情は……忘れられません」
　ガチで俺たちにけん制を掛けてくる目の前の男は、たぶん俺たちの知っている荻原課長とは別人だ。

　当然俺たちは、その「好きだ」と初めて藤野さんが告げたのが、エッチ中だった、なんてことは知らない。けれど、何かを思い出したのか、完全に脂下がった課長の表情に、なんとなく本能的に、ムッとするものを感じている。

「わかりました、わかりましたよ。じゃあ──せめて教えてくださいっ」
　俺たちが若干引き気味の中、竹下先輩だけが、食い気味に課長に縋りつき、ぎゅっとスーツの袖をつかむ。ぎょっとしたように課長が頷いた。

「……答えられることであれば、答えますが……」

「藤野さんは、やっぱりぷるんぷるんおっぱいの、エロエロボディでしたかっ」

　──一瞬、卓を囲んでいた総務課男子職員が時を止めた。てか、婚約者である課長に、その質問、するか？

「……黙秘させていただきます」

　冷たく言い放った課長に、一同ほっとしたような、ひどく残念なような気持ちになる。なのに酔っぱらって空気の読めなくなった竹下先輩は一言叫ぶ。

「課長の、ケチっ。そのくらい教えてくれたっていいじゃないですかっ」
　それだけ言って酔いの限界で机に突っ伏した竹下先輩を見て、俺はこの人と同じようにはなるまいと、ひどく冷静に考えていたのだった。


【 完 】

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊


ということで、お付き合いいただきまして、ありがとうございました。
また何かネタを思いつけば、番外編を書かせていただきます。
リクエストなどがあれば、お声がけください。

今後とも、お付き合いいただければ嬉しいです。

ではまた～✨