あやかし神社には、妖狐と陰陽師が住んでいる

sakuru

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愛の日には苦い薬を……

【13】

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「だね。今年は誰かにあげるの? チョコ」
「──え? どうしようかな、悩んでる」
 潤んだ瞳は、恋をしている女の子みたいに見えるけど。それは単にお酒に酔っているだけで、半分ぐらいは慈英自身の願望も交じっているのかもしれない。

「好きな奴がいたらあげたらいいじゃん。ま、俺以外に上げるんだったら、上げない方がいいけどさ」
 冗談めかして、でも核心をつくセリフを口にしてみたりする。

「──え?」
 熱くなった自分の頬を、両手でぎゅっと押さえながら小雪ちゃんが尋ねる。

「それって、ジェイさん、小雪のチョコが欲しいってこと? ついでに小雪が他の人に上げたら嫌だって事?」
 じいっと目を覗き込まれて言われる台詞に、思わず持っていたカクテルを口に運んで誤魔化すふりをする。

「……さあ、どうだろうね」
「あの……小雪のチョコをもらったら大変なんだよ。小雪にジェイさんを全部、くれないといけなくなっちゃう」
 そんな可愛いことを言われたら、俺の全部上げるよ、って言いたくなる。でもそう言おうとした次の瞬間、

「それと。小雪の事を他の人に話したらダメなんだよ。話したら私、ジェイさんを氷漬けにしないといけなくなっちゃうからね」

 急に温度を無くした色合いの瞳で、じっと見つめられる。ゾクリとその瞬間、物の怪の体で感じるはずのない寒気を慈英は感じた。

「あ、でも陽太君とかは別~。お友達だしね。ジェイさんの家族とかには言っちゃダメってことね」
 にっこりと笑ってどこまで本気でどこまで嘘かわからない顔をして、小雪は再びグラスを手に取った。

 小雪ちゃん。君は何をしたくて俺に近づいてきたの? そう尋ねたくて仕方ないけれど、尋ねたら全部がダメになりそうで、そっと慈英はその疑問を口の中にしまい込んだのだった。
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