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愛の日には苦い薬を……

【11】

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「おかえり。寒かったやろ、お疲れさん」

 暁月が窓を開けると、白い雪に紛れて、形代たちが一斉に窓から飛び込んでくる。暁月はそれを一つ一つ、感謝の言葉と共に迎える。

 慈英の顔かたちをした形代たちは、一斉に町で集めてきた情報について、暁月に告げようとして、肩に乗って耳元で懸命に話してくれる。

「暁月さま、暁月さまっ……あのですね」
 形代たちは言葉もふわふわしていているように聞こえる。しゃべるとその声は同時に空気に溶けていく。それは彼らが実体がないからなのかもしれない。

「……ほうか。やっぱり行方不明者が増えているんやな。ほんならお館様の調べより多そうやね……」

「ふーん、そんなものまで増えておるんか。なるほどね。そりゃ寒波も居座るわけやね……」

「え? 女たちを見つけた? どこにおるんや。ちょっと……そこに連れて行ってもらわれへんやろか……」

 形代たちは、うんうん、と頷いて、暁月の手を引いて外に引っ張り出す。すでに夜は更けている。雪景色に小さくため息をついて、暁月は来ていた着物の上に着物用の上着を羽織り、雪明りで微かに明るい境内に出る。

 先ほどちらついていた雪はすでに消えて、薄い雲に微かに月明かりがおぼろげに見える。ほおと小さく息と継ぐと、白い呼気が空へ登っていく。

「……そないに雪女がこっちに出てきておったら、寒波も居座ってまうわ」
 ふるりと身を震わせて、寒さで少し締まった雪を雪よけの草履で踏みしめて、暁月は歩きはじめた。
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