32 / 45
愛の日には苦い薬を……
【11】
しおりを挟む
「おかえり。寒かったやろ、お疲れさん」
暁月が窓を開けると、白い雪に紛れて、形代たちが一斉に窓から飛び込んでくる。暁月はそれを一つ一つ、感謝の言葉と共に迎える。
慈英の顔かたちをした形代たちは、一斉に町で集めてきた情報について、暁月に告げようとして、肩に乗って耳元で懸命に話してくれる。
「暁月さま、暁月さまっ……あのですね」
形代たちは言葉もふわふわしていているように聞こえる。しゃべるとその声は同時に空気に溶けていく。それは彼らが実体がないからなのかもしれない。
「……ほうか。やっぱり行方不明者が増えているんやな。ほんならお館様の調べより多そうやね……」
「ふーん、そんなものまで増えておるんか。なるほどね。そりゃ寒波も居座るわけやね……」
「え? 女たちを見つけた? どこにおるんや。ちょっと……そこに連れて行ってもらわれへんやろか……」
形代たちは、うんうん、と頷いて、暁月の手を引いて外に引っ張り出す。すでに夜は更けている。雪景色に小さくため息をついて、暁月は来ていた着物の上に着物用の上着を羽織り、雪明りで微かに明るい境内に出る。
先ほどちらついていた雪はすでに消えて、薄い雲に微かに月明かりがおぼろげに見える。ほおと小さく息と継ぐと、白い呼気が空へ登っていく。
「……そないに雪女がこっちに出てきておったら、寒波も居座ってまうわ」
ふるりと身を震わせて、寒さで少し締まった雪を雪よけの草履で踏みしめて、暁月は歩きはじめた。
暁月が窓を開けると、白い雪に紛れて、形代たちが一斉に窓から飛び込んでくる。暁月はそれを一つ一つ、感謝の言葉と共に迎える。
慈英の顔かたちをした形代たちは、一斉に町で集めてきた情報について、暁月に告げようとして、肩に乗って耳元で懸命に話してくれる。
「暁月さま、暁月さまっ……あのですね」
形代たちは言葉もふわふわしていているように聞こえる。しゃべるとその声は同時に空気に溶けていく。それは彼らが実体がないからなのかもしれない。
「……ほうか。やっぱり行方不明者が増えているんやな。ほんならお館様の調べより多そうやね……」
「ふーん、そんなものまで増えておるんか。なるほどね。そりゃ寒波も居座るわけやね……」
「え? 女たちを見つけた? どこにおるんや。ちょっと……そこに連れて行ってもらわれへんやろか……」
形代たちは、うんうん、と頷いて、暁月の手を引いて外に引っ張り出す。すでに夜は更けている。雪景色に小さくため息をついて、暁月は来ていた着物の上に着物用の上着を羽織り、雪明りで微かに明るい境内に出る。
先ほどちらついていた雪はすでに消えて、薄い雲に微かに月明かりがおぼろげに見える。ほおと小さく息と継ぐと、白い呼気が空へ登っていく。
「……そないに雪女がこっちに出てきておったら、寒波も居座ってまうわ」
ふるりと身を震わせて、寒さで少し締まった雪を雪よけの草履で踏みしめて、暁月は歩きはじめた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
猫もふあやかしハンガー~爺が空に行かない時は、ハンガーで猫と戯れる~
饕餮
キャラ文芸
タイトル変えました。旧題「猫もふあやかしハンガー~じいちゃんはスクランブルに行けないから、老後は猫と遊ぶ~」
茨城県にある、航空自衛隊百里基地。
そこにはF-4EJ改――通称ファントムと呼ばれる戦闘機が駐機している。
一部では、ファントムおじいちゃんとも呼ばれる戦闘機である。
ある日、ハンガー内から聞こえてきた複数の声は、老齢の男性のもの。
他のパイロットたちからも『俺も聞こえた!』という証言が続出。
「俺たちの基地、大丈夫!? お祓いする!?」
そう願うも、予算の関係で諦めた。
そして聞こえる、老人の声。
どこからだ、まさか幽霊!?と驚いていると、その声を発していたのは、ファントムからだった。
まるで付喪神のように、一方的に喋るのだ。
その声が聞こえるのは、百里基地に所属するパイロットとごく一部の人間。
しかも、飛んでいない時はのんびりまったりと、猫と戯れようとする。
すわ、一大事!
戦闘機に猫はあかん!
そんなファントムおじいちゃんとパイロットたちの、現代ファンタジー。
★一話完結型の話です。
★超不定期更新です。ネタが出来次第の更新となります。
★カクヨムにも掲載しています。
★画像はフリー素材を利用しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
羅刹を冠する鬼と狐
井上 滋瑛
キャラ文芸
帝国華羅に羅刹院という、羅刹士を束ねる特殊組織があった。
帝国公認でありながら干渉を受けず、官民問わない依頼と契約、その遂行を生業とする。
その依頼内容は鳥獣妖魔の討伐から要人警護、更には暗殺まで表裏問わず多岐に渡る。
ある日若手羅刹士の遼経が依頼を終えて拠点に戻ると、かつて妖魔が支配していた都市、煥緞が妖仙の兄弟によって陥落された事を知る。
妖仙の狙いはかつて煥緞に眠っていた古代霊術だった。
一度はその討伐参加を見送り、元担当院士の玉蓮と共に別なる古代霊術の探索に出発する。
かつて古代霊術が眠っている遺跡発掘の警護中に殉職した父。
古代霊術の権威であった大学院の教授の警護中に失踪した恋人。
因果は巡り、自身の出生の真実を知らされ、そして妖仙の兄弟と対峙する。
純喫茶カッパーロ
藤 実花
キャラ文芸
ここは浅川村の浅川池。
この池の畔にある「純喫茶カッパーロ」
それは、浅川池の伝説の妖怪「カッパ」にちなんだ名前だ。
カッパーロの店主が亡くなり、その後を継ぐことになった娘のサユリの元に、ある日、カッパの着ぐるみ?を着た子供?が訪ねてきた。
彼らの名は又吉一之丞、次郎太、三左。
サユリの先祖、石原仁左衛門が交わした約束(又吉一族の面倒をみること)を果たせと言ってきたのだ。
断れば呪うと言われ、サユリは彼らを店に置くことにし、4人の馬鹿馬鹿しくも騒がしい共同生活が始まった。
だが、カッパ三兄弟にはある秘密があり……。
カッパ三兄弟×アラサー独身女サユリの終始ゆるーいギャグコメディです。
☆2020.02.21本編完結しました☆
あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~
菱沼あゆ
キャラ文芸
令和のはじめ。
めでたいはずの10連休を目前に仕事をクビになった、のどか。
同期と呑んだくれていたのだが、目を覚ますと、そこは見知らぬ会社のロビーで。
酔った弾みで、イケメンだが、ちょっと苦手な取引先の社長、成瀬貴弘とうっかり婚姻届を出してしまっていた。
休み明けまでは正式に受理されないと聞いたのどかは、10連休中になんとか婚姻届を撤回してもらおうと頑張る。
職だけでなく、住む場所も失っていたのどかに、貴弘は住まいを提供してくれるが、そこは草ぼうぼうの庭がある一軒家で。
おまけにイケメンのあやかしまで住んでいた。
庭にあふれる雑草を使い、雑草カフェをやろうと思うのどかだったが――。
ブラックベリーの霊能学
猫宮乾
キャラ文芸
新南津市には、古くから名門とされる霊能力者の一族がいる。それが、玲瓏院一族で、その次男である大学生の僕(紬)は、「さすがは名だたる天才だ。除霊も完璧」と言われている、というお話。※周囲には天才霊能力者と誤解されている大学生の日常。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる