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狐と鳥と聖夜を……

【15】

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 姑獲鳥が今にも落ちていきそうなほど、ギリギリの縁で下界を見つめている。下からの冷たい風が、彼女の長い髪をふわりと持ち上げた。

 その姿をみながら、暁月も思い出していた。

 新聞には単なる若者の飛び降り自殺として載っていた。そのあと付き合いのある氏子から『未婚で子供を妊娠したことによる将来を悲観しての発作的な自殺』だったらしいと、噂話を聞いた程度だ。
 生真面目な学生の自殺。父親らしき人物も分ってないという。

「12月25日が出産予定日でした」
 どうしても、生んであげたかったんです。なのに、私は殺されてしまって、子どもも一緒に殺されてしまって……。

 姑獲鳥はさめざめと涙をこぼす。
 先ほどまでの意思を捨てた表情ではなく、ぎちぎちと唇をかみしめ、爪を自らの手のひら食い込ませ、双方から血をにじませている。

「せっかくあいつの住んでいるところまでたどり着いたのにっ」
「あいつを許せない……」
「私から子供の命を奪ったあいつを許せない……」

「自分の欲望のままに、女の体を奪って、子供を孕ませて、その子供ごと女を殺して!」
「私達よりもっと深い深い闇に貶してやる。二度と這い上がれない、昏い昏い闇の底に……」

 呟くような言葉は、恨みつらみ、呪詛の言葉だ。

 ゆらり、と姑獲鳥の体から怨念の昏い炎が燃え上がるのを暁月は感じた。ずいぶん、姑獲鳥らしくなっているやないか、とぽつりと言葉をこぼすと、

「……だめだよ。これ以上恨んでしまったら、君は本当の姑獲鳥になってまう……」
 ぎゅっと慈英が姑獲鳥を抱きしめる。

 ぽろぽろと泣きながら、なおも呪詛の言葉を吐き、昏い空虚な瞳を宙に向ける姑獲鳥を見て、はぁっと暁月はため息をつく。

「……このまま姑獲鳥にならはって、その男を呪い殺してもええけど」
 暁月は笏を袂からだし、ゆっくりと姑獲鳥の腹をなぜる。
 一瞬びっくりしたように視線を暁月に向ける姑獲鳥に、

「このまま姑獲鳥になってしもたら、その腹の子も成仏できないままの、『いつまでたっても生まれることのできない物の怪』になってまうけど、ええんやろか?」

 その言葉にピクリ、と肩を震わせて、慈英に抱きかかえられていた姑獲鳥は視線を上げまっすぐ暁月を捉える。
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