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狐と鳥と聖夜を……
【7】
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「……なんであんたは、そう次々と妖怪をひらってくるんや」
呆れるように吐き捨てながらも、それなりの理由がなければ、この女も姑獲鳥になんぞなるまいと暁月は考えていた。正直、たいしてこの世に執着もしてなさそうな、霊力の弱いこの姑獲鳥なら、今すぐにでもかんたんに処理できる。
──が。強制的に向こうに送るのでは慈英が納得しない。ヘタすれば荒れ狂うだろう。
一応、慈英の身体の中で大人しくしているとはいえ、もう一方の……人格? 化格……ああもういい。とにかく、中身は千年クラスの妖怪だ。
慈英と妖狐の心のバランスはいつも均衡している。
だからコイツらの機嫌を損ね、精神のバランスを崩すと色んな意味で、この東京が……いや、日本が……。
──ヘタすると地球全体が危ない。
暁月はもう既に数えきれないほどついた深い深い嘆息を漏らし、
「……どないな仔細で姑獲鳥なんぞに、ならはったん?」
慈英に隠れるようにしている姑獲鳥に、できるだけ優しく声を掛けた。
姑獲鳥は、腹に子供を身ごもった女の妖怪だ。子供を授かったのに、仔細があってその子を産み落とすことが出来なかった時に、その悲しみが形になり生まれるものだと言われている。
「……よくわからないんです……気づいたらここにいて」
困ったように女は俺と慈英の顔を代わる代わる見上げる。服装は……今どきの女性のモノに近い。姑獲鳥になってそう何年も経っているようには見えない。
「姑獲鳥になってしもた仔細は覚えてはらへんのやな……」
もうここまで来てしまったら一緒かと、神殿と一番離れた住居の濡れ縁に腰を掛ける。
思った以上に冬の夜気で冷えきった濡れ縁に、次の瞬間、暁月は眉をしかめた。
「この人はどこでどないにしてはったん?」
最初の怒りが収まると、ある種職業的な関心が湧いてくる。どこか、ぼんやりとこちらを見つめる彼女を片目に見つつ、慈英に尋ねると、
「うん、駅に行く途中のビルの近くにいたんだけど。でも、多分前はいなかった、と思うんだけどなあ……」
慈英は兄の顔を見て確認するようにもう一度頷く。だとすると、と暁月は一瞬思案する。
「とりあえず、こうして考えておっても、埒が明かへんな。ちょっとそのビルのところまで行ってみるか……」
呆れるように吐き捨てながらも、それなりの理由がなければ、この女も姑獲鳥になんぞなるまいと暁月は考えていた。正直、たいしてこの世に執着もしてなさそうな、霊力の弱いこの姑獲鳥なら、今すぐにでもかんたんに処理できる。
──が。強制的に向こうに送るのでは慈英が納得しない。ヘタすれば荒れ狂うだろう。
一応、慈英の身体の中で大人しくしているとはいえ、もう一方の……人格? 化格……ああもういい。とにかく、中身は千年クラスの妖怪だ。
慈英と妖狐の心のバランスはいつも均衡している。
だからコイツらの機嫌を損ね、精神のバランスを崩すと色んな意味で、この東京が……いや、日本が……。
──ヘタすると地球全体が危ない。
暁月はもう既に数えきれないほどついた深い深い嘆息を漏らし、
「……どないな仔細で姑獲鳥なんぞに、ならはったん?」
慈英に隠れるようにしている姑獲鳥に、できるだけ優しく声を掛けた。
姑獲鳥は、腹に子供を身ごもった女の妖怪だ。子供を授かったのに、仔細があってその子を産み落とすことが出来なかった時に、その悲しみが形になり生まれるものだと言われている。
「……よくわからないんです……気づいたらここにいて」
困ったように女は俺と慈英の顔を代わる代わる見上げる。服装は……今どきの女性のモノに近い。姑獲鳥になってそう何年も経っているようには見えない。
「姑獲鳥になってしもた仔細は覚えてはらへんのやな……」
もうここまで来てしまったら一緒かと、神殿と一番離れた住居の濡れ縁に腰を掛ける。
思った以上に冬の夜気で冷えきった濡れ縁に、次の瞬間、暁月は眉をしかめた。
「この人はどこでどないにしてはったん?」
最初の怒りが収まると、ある種職業的な関心が湧いてくる。どこか、ぼんやりとこちらを見つめる彼女を片目に見つつ、慈英に尋ねると、
「うん、駅に行く途中のビルの近くにいたんだけど。でも、多分前はいなかった、と思うんだけどなあ……」
慈英は兄の顔を見て確認するようにもう一度頷く。だとすると、と暁月は一瞬思案する。
「とりあえず、こうして考えておっても、埒が明かへんな。ちょっとそのビルのところまで行ってみるか……」
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