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45 幽霊に心配されちゃう俺。
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哲也くんが、起きた。
看護師が哲也くんの脈をとり、ナースコールに手をのばす。美濃もうれしそうに「すぐにお母さんくるからな!」と、スマートフォンをとりだしていた。
俺にはそんな光景はまるで別の世界のことのように映り、自分から一切の感情が消えてしまったような気分を味わっていた。おじさんの高笑いを耳がなんとなく捕らえているだけ。
俺は誰にも気づかれないようにしてそうっと病室をでると、病院の外にでるために歩きだした。
哲也くんが目を覚ました。
哲也くんが目を覚ました。
よかった。
哲也くんのお母さんも、家族も、友だちも、みんな喜ぶよ。
哲也くん、また学校に通えるよ?
哲也くん、お母さんは、哲也くんの好きなことしていいって云ってたからね。きっとこれからの毎日は楽しいよ?
よかったね。
よかった。
(よかったんだ… よかった。そう、思わなきゃ…)
でも、とぼとぼと歩く長い廊下の足もとが次第に滲みはじめ、小さく嗚咽を漏らした拍子に、大きな涙の粒がぼたりと落ちた。
「ど……、どうしよう……?」
(俺、もう居れる場所なくなっちゃった)
「ひぃっく」としゃくりあげると、それからはつぎつぎに涙が溢れてきて、顔見知りの幽霊たちがすれ違いざまに心配げに声をかけてきた。
「どうしたんだ?」 って。どうしたって? 哲也くんが起きたんだ。だから、もう一生、俺は哲也くんに会えないんだよ。
今ごろ哲也くんの病室には医師や看護師がいっぱいやってきて、慌ただしくなってるんだろう。
哲也くん、意識はちゃんとしてるかな? 痛いとこないかな?
家族がそばに居ないからって、不安になったりしてないかな? 美濃がいるから大丈夫?
美濃がいるもんね。美濃はいい先生だよ? だから哲也くん、安心して家族が来るのをまっていてね。
だから。
「哲也くんは大丈夫。だから、――俺はこれでいいんだ」
自分に云い聞かせるようにして声に出して云う。それでも涙は次から次へと落ちてきた。
だって寂しくて、しかたないんだもん。
「おい、美濃はどうしたよ? いつになったら俺んとこに連れてきてくれるんだ?」
ロビーまで下りてくると、キノシタセイジがひょっこり現れた。
「うん? だからいま哲也くんのところだよ。さっき先生の大事な生徒が目を覚ましたんだ。しばらく忙しがしいんだから、用事があるなら明日にしてあげて?」
「お前は大丈夫なのか? 泣いてるじゃないか? 美濃はお前のことほっといていいのか?」
「いいんだよ。哲也くんのほうが大事なんだから。俺だって哲也くんのほうが大事なんだし、だからそれでいいの」
「ふ~ん」
そっけない返事をしながらも、キノシタセイジは俺の後ろを音もなくす~っと憑いてくる。
(このひと、もしかして俺のこと心配してくれいるのかな? だったらちょっといいヤツなのかも)
「あ~あ」
哲也くんのことが一段落ついたら、先生、俺のこと思い出してくれたらいいんだけど。
「ほんとにステーキ食べさせてくれるのかな?」
楽しそうに呟いてみる。
なんでも先生はこのあたりのことに詳しいらしい。病院近くの美味しいお店をいっぱい知ってるって云ってたよ。家が近いのかな?
「先生って独り暮らしだっけ? 俺、先生ん家に住めないかな? そしたら哲也くんの状況を教えてもらえるし。哲也くんが卒業したあとも、こっそり哲也くんの応援をしながらキャンパスライフを送って、そしてそのうちうまくいけば俺にも彼氏ができたりして……」
ふふっと微笑って、そして、やっぱりその相手は哲也くんじゃないんだよな、と思えばボロンと涙が転げてくる。
「おい~ 大丈夫か?」
泣いたり笑ったりと情緒不安な俺の顔をキノシタくんが覗きこんできた。
「大丈夫だったら美濃を呼んできてくれよ~」
幽霊って、しつこいよな。つうか空気読んでくれない?
「だから、明日にしてあげてよ? なんならお土産、っていうか……お供え? 先生にカップケーキ持って来るように云ってあげるから」
「えっ? カップケーキ?」
「うん。先生、懐かしいって云ってたよ? それともプリンにする?」
「そっか。カップケーキ、懐かしいって?」
蒼い顔をしたキノシタくんが相好を崩す。
「あっ」
そういえば、俺、哲也くんがいきなり目を覚ますもんだから、先生に口止めなんてしていない。
「ヤバイヤバイヤバイ! 先生、俺のこと哲也くんに云ったりしないよな⁉」
俺はぎゅっと合わせた両手をぶんぶん振りながら「それだけは絶対にダメだよ!」と、強く祈った。
「美濃が絶対に絶対に絶対に、俺のことを哲也くんにバラしませんよーにっ」
ついでに、「南無南無」と付け加えると、
「うわっ⁉」
隣でキノシタくんの悲鳴があがった。あらら?
「俺なんかいま、どこかからダメージ喰らったぞっ⁉」
キョロキョロと周囲を見回している幽霊は、心なしか透けてきているような気がする。もしかしてキノシタセイジの昇天も、近いのかもしれない。
看護師が哲也くんの脈をとり、ナースコールに手をのばす。美濃もうれしそうに「すぐにお母さんくるからな!」と、スマートフォンをとりだしていた。
俺にはそんな光景はまるで別の世界のことのように映り、自分から一切の感情が消えてしまったような気分を味わっていた。おじさんの高笑いを耳がなんとなく捕らえているだけ。
俺は誰にも気づかれないようにしてそうっと病室をでると、病院の外にでるために歩きだした。
哲也くんが目を覚ました。
哲也くんが目を覚ました。
よかった。
哲也くんのお母さんも、家族も、友だちも、みんな喜ぶよ。
哲也くん、また学校に通えるよ?
哲也くん、お母さんは、哲也くんの好きなことしていいって云ってたからね。きっとこれからの毎日は楽しいよ?
よかったね。
よかった。
(よかったんだ… よかった。そう、思わなきゃ…)
でも、とぼとぼと歩く長い廊下の足もとが次第に滲みはじめ、小さく嗚咽を漏らした拍子に、大きな涙の粒がぼたりと落ちた。
「ど……、どうしよう……?」
(俺、もう居れる場所なくなっちゃった)
「ひぃっく」としゃくりあげると、それからはつぎつぎに涙が溢れてきて、顔見知りの幽霊たちがすれ違いざまに心配げに声をかけてきた。
「どうしたんだ?」 って。どうしたって? 哲也くんが起きたんだ。だから、もう一生、俺は哲也くんに会えないんだよ。
今ごろ哲也くんの病室には医師や看護師がいっぱいやってきて、慌ただしくなってるんだろう。
哲也くん、意識はちゃんとしてるかな? 痛いとこないかな?
家族がそばに居ないからって、不安になったりしてないかな? 美濃がいるから大丈夫?
美濃がいるもんね。美濃はいい先生だよ? だから哲也くん、安心して家族が来るのをまっていてね。
だから。
「哲也くんは大丈夫。だから、――俺はこれでいいんだ」
自分に云い聞かせるようにして声に出して云う。それでも涙は次から次へと落ちてきた。
だって寂しくて、しかたないんだもん。
「おい、美濃はどうしたよ? いつになったら俺んとこに連れてきてくれるんだ?」
ロビーまで下りてくると、キノシタセイジがひょっこり現れた。
「うん? だからいま哲也くんのところだよ。さっき先生の大事な生徒が目を覚ましたんだ。しばらく忙しがしいんだから、用事があるなら明日にしてあげて?」
「お前は大丈夫なのか? 泣いてるじゃないか? 美濃はお前のことほっといていいのか?」
「いいんだよ。哲也くんのほうが大事なんだから。俺だって哲也くんのほうが大事なんだし、だからそれでいいの」
「ふ~ん」
そっけない返事をしながらも、キノシタセイジは俺の後ろを音もなくす~っと憑いてくる。
(このひと、もしかして俺のこと心配してくれいるのかな? だったらちょっといいヤツなのかも)
「あ~あ」
哲也くんのことが一段落ついたら、先生、俺のこと思い出してくれたらいいんだけど。
「ほんとにステーキ食べさせてくれるのかな?」
楽しそうに呟いてみる。
なんでも先生はこのあたりのことに詳しいらしい。病院近くの美味しいお店をいっぱい知ってるって云ってたよ。家が近いのかな?
「先生って独り暮らしだっけ? 俺、先生ん家に住めないかな? そしたら哲也くんの状況を教えてもらえるし。哲也くんが卒業したあとも、こっそり哲也くんの応援をしながらキャンパスライフを送って、そしてそのうちうまくいけば俺にも彼氏ができたりして……」
ふふっと微笑って、そして、やっぱりその相手は哲也くんじゃないんだよな、と思えばボロンと涙が転げてくる。
「おい~ 大丈夫か?」
泣いたり笑ったりと情緒不安な俺の顔をキノシタくんが覗きこんできた。
「大丈夫だったら美濃を呼んできてくれよ~」
幽霊って、しつこいよな。つうか空気読んでくれない?
「だから、明日にしてあげてよ? なんならお土産、っていうか……お供え? 先生にカップケーキ持って来るように云ってあげるから」
「えっ? カップケーキ?」
「うん。先生、懐かしいって云ってたよ? それともプリンにする?」
「そっか。カップケーキ、懐かしいって?」
蒼い顔をしたキノシタくんが相好を崩す。
「あっ」
そういえば、俺、哲也くんがいきなり目を覚ますもんだから、先生に口止めなんてしていない。
「ヤバイヤバイヤバイ! 先生、俺のこと哲也くんに云ったりしないよな⁉」
俺はぎゅっと合わせた両手をぶんぶん振りながら「それだけは絶対にダメだよ!」と、強く祈った。
「美濃が絶対に絶対に絶対に、俺のことを哲也くんにバラしませんよーにっ」
ついでに、「南無南無」と付け加えると、
「うわっ⁉」
隣でキノシタくんの悲鳴があがった。あらら?
「俺なんかいま、どこかからダメージ喰らったぞっ⁉」
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