殺人鬼アダムと狂人都市

ウツロ

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三章 B.J・シュタイナー

22話 ショットガンの男

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「誰だ! 姿をみせろ!!」

 私の声に反応して叫んだのはショットガンを持った男だ。
 彼はまだこちらの位置を特定できていないのだろう、銃を構えたまま銃口を右へ左へとふっている。
 フン、素人まるだしだな。
 しかしそれでも、すぐに発砲できるような体勢を崩さないのは、あるていど銃の扱いに慣れているからか。
 さらに彼はそのまま、じわりじわりと後退し、扉へとにじり寄っていく。
 危険を感じれば、いち早く建物内へと避難できるよう勤めているのだろう。
 冷静だな。おろおろするばかりの他の二人とは対照的だ。
 コイツには注意を払った方がよさそうだ。

「撃たれちゃかなわない。銃を下ろせば姿をみせる」

 まずは会話だ。別に皆殺しにしてもかまわないが、奴らの呟きに気になる言葉があった。殺すのは聞き出してからでも遅くはない。

「分かった。だが、両手は見えるようにしろ」

 ショットガンの男は一瞬考えるそぶりをしたものの、すぐに銃口を下に向けた。ハハッ! これで会話成立。この場はもう私の支配下にある。

 両手を上げたまま、柱から歩み出る。
 持っていた拳銃は、トリガーガードを親指に引っかけ吊るす。重みで上下反転したその姿が、交戦の意思はないのだと強調するだろう。

「これでいいか? なんなら服も脱ごうか?」
「いや、待て、それ以上動くな! お前……一人だけか? それにその服、とても助けにきたように見えない!!」

 男は下げていたショットガンの銃口を、こちらへ向けた。
 引き金に指をかけ、いまにも発砲しそうな勢いだ。
 明らかに信用していない。
 まあ、いま私が身につけているのはボロキレのようなマントだ。
 むしろ施しを受ける側、そんな格好で助けにきたなんぞ言われても、私だって信じない。

「俺は一般人だ。なんとか生き残るべく無事な者たちで自警団を結成したんだ。だが、まだ数が足りない。協力してくれるとありがたい」

 男はほんの少しだけ、引き金にかける指を緩めた。
 迷っているな。
 フン、早く決めろ。
 なんなら撃ってもいいぞ。その瞬間、貴様に乗り移るだけだ。

「何があった? 死体を吊るしたのは君たちか?」

 タイミングを見計らって、さらに問いかける。
 さきの返答はまだだが、じっくりと待つつもりはない。
 まくしたてず、与えすぎずだ。最低限判断する時間は必要だが、余分な時は疑念を生む。ならば余分も疑念も、新しい情報で押し流してやればいい。

 すると男は、ハッと何かを思い出したかのような表情を浮かべた。

「ノラスコ、ダン。ドアにいる死体は動いてないか?」

 こちらから目をそらさず、仲間へと問いかけるショットガンの男。
 ボサッと突っ立っていた二人の身が、ビクリと跳ねた。

 これでよく生きてこられたものだ。
 二人してジュリアーノ(仮)の死体を確認し始める姿を見て、ショットガンの男がしてきたであろう気苦労きぐろうに吹きだしそうになった。



「ジョシュア。大丈夫、動いてないよ」

 返答したのは、坊主あたまで浅黒い肌、口からあごへとつながった無精髭ぶしょうひげが特徴的なヒスパニック系の男だ。
 おそらく彼がノラスコだろう、コイツの方が声をかけられ身を跳ねるのが一瞬早かった。
 彼らの脳の処理速度など知るよしもないが、己の名が呼ばれたと認知するていどなら、さほど時間に差はないはずだ。

 やがて、ショットガンの男はゆっくりと頷くと、銃をおろす。

「ひとまず話を聞こうか。だが、その前に教えてくれ。向こうのドアにも死体を放りこんだのはアンタか?」

 ふ~ん。反対側のウィルソン(仮)にも気がついていたか。
 私は両手を見せたまま肩をすくめ、そうだけどマズかったか? とのジェスチャーを送ると、ショットガンの男は明らかにイラついた顔をみせた。

「チッ、まあいい。とりあえず、死体を吊るすのを手伝ってくれ」

 いいよ。飾りつけは得意だ。私は了承の意を示すと、彼らと共に、ウィルソン、ジュリアーノだけでなく、調査のために下ろしてしまった他の死体も、柱に吊るしていった。


――――――


「ジョシュアだ」
「B.J・シュタイナーだ」

 案内されたのは病院内の事務室と思わしき部屋の一角。
 そこでお互い握手をかわすと、ショットガンの男ジョシュアは少しホッとした表情を浮かべた。
 なるほど。これまでの会話であるていど察せられたが、私の体温を感じて安心したのだろう。
 たぶん、ここでは死者が動く。私も動く死者ではないかと危惧きぐしたのだ。
 生きていれば狂って人を襲い、死んだとしてもやはり人を襲う。
 ゾンビに狂人と眠れぬ夜を過ごしてきたに違いない。

「こっちがノラスコで、こっちがダン。たいしたものはないが歓迎するよ」

 紹介された二人のうち、まずはノラスコと呼ばれた方に目を向ける。
 推定、身長183センチ、体重70キロ、年齢30……4。浅黒い肌に無精髭。やはりこのヒスパニック系の男がノラスコだったようだ。三人の中では一番背が高いが、威圧感はない。どこか気弱そうな雰囲気がただよう風体ふうていだ。
 私は「よろしく」と手を差し出した。

「よろしく。俺はノラスコ、こうなるまでは教師をしていたんだ」

 教師か、普通だな。普通すぎて逆に違和感を覚えるぐらいだ。
 こうなる前とやらの街の姿を知らない私にとっては、盗賊や追いはぎといった類のものしかピンとこない。

「よろしく」
「ダンです」

 次に握手をかわしたのは、約、身長178センチ体重63キロ。出っ歯に天然パーマで、まだ若い。幼さの抜け切らない引きこもり気質の19歳といったところか。

「三人だけか?」
「えっと……」
「――そうだ」

 ダンに尋ねたつもりだったが、その答えを遮り、ジョシュアが割り込んできた。
 ふ~ん。他にもいるな。
 まあ、そのへんを詮索するのは後だ。まずは、外に飾ってある素敵な案山子かかしについて聞くのがいいだろう。

「三人か。こちらはウィルソンにジュリアーノ、ケイツにジョアンにイザベラに……俺を入れて十七人だ。で、死体を吊るすのはなんでだ? 儀式か?」
「十七人か……」

「ああ、そうだ。それで、なぜ死体を吊るす必要があるんだ?」
「ん、そうだな……なにから説明すればよいやら……」

 ジョシュアは内容を整理しながらも、ゆっくりと話しだした。
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