殺人鬼アダムと狂人都市

ウツロ

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三章 B.J・シュタイナー

21話 収穫祭

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 建物には二箇所、入り口らしきところがあった。
 だが、どちらも内側から木板を打ちつけており、完全にふさがれている。
 比較的新しいものだろうか? 木板は幅も長さもまちまちで、急遽きゅうきょかき集めた材料で壁を作ったような印象をうける。

 横へと目を移す。
 石壁には錆び付いた金属製のサインプレートが飾られ、見にくいながらも『Hospital』の文字が読み取れた。

 病院か。なるほどねぇ。
 ふさがれた木の壁を手で探っていく。するとどうやら、一部が扉になっていることに気が付いた。
 なかなか器用だな。
 一枚板でないこともあいまって、疑いの目で見なければ発見は困難だろう。
 そっと押してみる。が、開く気配はない。まあ当たり前か。
 
 今度は体重をかけ押してみる。やはり、びくともしない。
 鍵がかかっているか、何かで押さえているか。
 頻繁ひんぱんに出入りしているなら、あまり手間のかかる構造にしないだろうが、さて。
 カードキーを取り出し、扉の隙間に差し込んでみた。それから、上へと滑らせていく。

 カチャリ。
 金属製のフックが外れたような音がした。
 ビンゴ!
 これで中に入れる。


――――――


 潜入部隊を結成した。
 えあるトップバッターは、新しい仲間、首吊り死体のウィルソン(仮)だ。
 彼は己の身にかかる重責じゅうせきに緊張しているのであろうか、体を硬直させている。

「大丈夫さ、君ならできる」

 扉へと寄りかかるウィルソンの肩をポンと叩いてやると、緊張がほぐれたのだろう、彼は果敢かかんにも扉を押し開きながら中へと転がり込んでいった。

 バサリ。
 ウィルソンの体に、何かが覆いかぶさった。
 どうやら編み縄らしく、扉の開閉に連動して落ちてきたようだ。

 ウィルソン、アウト。
 身動きがとれなくなっちゃ仕方ない。
 意気込みはよかったが、これじゃあ褒美はあげられないな。
 だが、君の仕事は終わりじゃないよ。もう少しそこで待ってておくれ。
 彼を放置し、もう一つの入り口へと回る。こちらはどうも表玄関のようで、上部に大きく『Chuuou Hospital』(中央病院)と書かれていた。

 探ってみると、先ほどと同様、扉があった。
 固定するフックを外し、突入する。
 二番バッターはジュリアーノ(仮)。今度は強めに送り出してやる。
 背中に靴跡をつけた彼は、大きな音と共に侵入を果たすこととなった。

 ゴスリ。
 何かが彼の頭を打った。
 どうやら大きな木の棒で、奥から手前に向かってスイングしてきたようだった。
 低めギリギリのストライク。
 本来ならば足を殴打されていたに違いない。だが、扉を開いてすぐ滑り込んだジュリアーノは哀れにも頭部で棒を受けることになったのだ。

 ジュリアーノ、アウト。
 これでツーアウトだ。
 しかし、彼もウィルソン同様、塁には残ってもらう。
 ベンチに帰るのはまだ早い。君にも大事な仕事があるからね。

 ここで一旦後方へと下がり、柱の影へと身を潜めた。
 表玄関、裏口とも確認できる位置どりだ。

 やがて人の気配がした。
 二人……いや、三人か。表玄関から連れ立って歩いてくる姿を見た。

「クソッ! 動き出したぞ」
「なんで縄がほどけてるんだ!!」

 焦った様子の彼らは、当初ジュリアーノの体を棒で突いたり、足で小突いたりして反応を伺っていた。
 その後、外へと出てくると、あたりをキョロキョロと見回す。

「誰もいないぞ」
「抜けたのか?」
「どこへ移った?」

 あらためて出てきた三人を観察する。
 全員男で、左から身長181、178、183センチ。体重72、63、70キロといったところか。
 みな痩せぎみではあるが、栄養不良とまではいかぬようだ。食料事情は悪くないのだろう。
 彼らは一様いちように白と青の縦じまガウンを身につけており、手にはそれぞれ鉄パイプ、先端の尖った木の棒、ショットガンを握っている。

 ハハッ! ショットガン!!
 アイツはおそらくウィンチェスターM1897。ポンプアクション式散弾銃で銃身20~30インチ、引き金を戻さなければスラムファイヤで連続射撃可能。シェルは2・3/4インチか2・5/8インチで6発装填できる。
 旧式ではあるが、近距離ではかなりの殺傷能力を期待できる一品だ。

 ふふふ。野球はツーアウトからと言うが、なかなかどうして幸運が舞い込むではないか。

 裏口からは誰もでてくる気配はない。
 気付かなかったか、あるいは手が回らないか。
 いずれにせよ、少人数かつ戦いを生業なりわいにした者たちではなさそうだ。
 そしてなにより、私にとって重要な事項、会話が可能だということだ。

「おおい! 良かった、生きていたか。助けにきたぞ!!」

 柱の影に身を隠したまま、そう呼びかける。
 三人はビクリと身を震わせたあと、怪訝な顔で声のでどころを探し始めた。

 トリック・オア・トリート。収穫祭よこんにちは。
 全てを奪うか、スペアを残すか。
 最も実りがあるのが何かを考えると、自然と笑みがこぼれるのだった。
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