19 / 38
三章 B.J・シュタイナー
19話 欲するもの
しおりを挟む
まあ、ボタンを押すのはいつでもできる。
ひとまず恒例の物資漁りといきますか。
ロッカーや引き出し中だけでなく貼られた紙も剥がし、物色していく。
だが結局、目ぼしいものは見つからなかった。
退去する際、持ち出したのだろう。
しかし、ある意味、物資以上に重要な物を見つけた。
日誌だ。
執筆者はアマンダ・ロッテンバーグ。保育施設の責任者と思われる人物だ。
書かれている内容は、ほとんど被保育者に関するものであり、私にとって価値などまるでない。
しかし、最後の方にあった一文。
『ベン・カフスマン。最大の支援者である彼の頼みを断ることは難しい』に目を引かれた。
ここでも『ベン・カフスマン』か。
奴は資産家だが、慈善家ではない。実際に会ったワケではないが、断片的に残された物証からそれは間違いないだろう。
何かの目的があって融資した。あるいは寄付か。
いずれにせよ、慈愛による行動ではないはずだ。
ならば見返りとは何だ?
以前出会ったB.J・シュタイナーと、その研究。
ネズミに過度の知性を与えるといったものだ。
結果はどうなった?
相手の精神を乗っ取る力、すなわちサイコダイブ能力者の出現だ。
ならば、ここで起こった不思議な出来事にも、ひとつの方向性を見いだせるのではないか?
サイコダイブの能力を得るための実験の一環、あるいはその先――
ここで私の思考は中断された。
なぜなら小さな電子音、すなわち扉のロックを解除する音が聞こえたからだ。
素早く机の後ろへ身を隠すと、扉に向かって銃を構える。
扉が開き姿を見せたのは、白いシャツにピンクのエプロンを着た女。
胸から流れたおびただしい血で、身を赤く染めている。
あれは、私が撃ち殺した女だ!!
死んでなかった?
いや、そんなハズはない。呼吸、脈の停止だけでなく、ライトを当て、瞳孔の対光反射の消失までも確認した。
ゾンビかよ。
チッ、頭を狙うか?
いや、映画じゃあるまいし、脳死者の脳を破壊したところで意味などないだろう。
動けぬよう、手足の骨を粉砕するか。
入手したばかりの暴徒鎮圧用スタンガンを握る。
神経を伝達するのは微弱な電気。こればらば一石二鳥。
血まみれの女は、足を引き摺りながら進む。
首は横に傾き、半開きの口からは、舌がデロリと垂れ下がる。
後続は見当たらない。
入ってきた扉は閉まり、再び開く気配もない。
何か妙だ。
女はこちらに興味を示さず、手をついたまま、ただ壁沿いを歩いている。
目が見えてないのか? それとも手をつかねば立っていられないのか?
何をしたいのか分からん。
どうすべきか、決めあぐねる。
やがて、女はある地点で立ち止まり、こちらに背を向けると透明のカバーを外し、エマージェンシーボタンを押した。
な!!
扉が開いた。と同時に女がその場に崩れ落ちる。
どういうことだ?
女を視界に納めながらも、扉まで進み外の様子を確かめる。
扉が開いていた。
ここだけではない。見える範囲にある扉全てが開いていた。
「ガァオオオー」と獣の雄たけびが聞こえた。
遠いながらも、腹の底をゆさぶる巨大な咆哮。
クソッ、やはり罠か。
雄たけびから伝わってくるのは怒り。閉じ込められたことに対するものなのか。
正体は分からない。が、とにかくあれはヤバイものだ!
その時、袖を引かれた。
逃げられぬよう押さえる気か! と思ったが、そうではないらしい。
クイクイと軽く、何度も引く。
まるで、早く早くと子が親をせかすような気配を感じる。
私は抵抗せず、引かれるまま走っていく。
そうして辿り着いたのは、区画のつなぎ目だろうと思われる通路。
そして、閉ざしていたシャッターはない。
さっさと逃げろということか。
結局、見えない何かが、私に何を求めていたか分からない。
分かろうとも思わない。
だが、ベン・カフスマン。奴が何を求めていたかは予想がつく。
サイコダイバーとは別に無敵の存在ではない。
乗り移りができるだけで、死は等しく訪れる。
だが、死してなお、その精神を留めることができるとすれば、神に等しき力を得るのではないか。
ドン! ドン! ドン! と地響きがなる。
大きな何かが向かって来ていると感じる。
ぐずぐずしてはいられない。
私は次の区画めざして走り出した。
ひとまず恒例の物資漁りといきますか。
ロッカーや引き出し中だけでなく貼られた紙も剥がし、物色していく。
だが結局、目ぼしいものは見つからなかった。
退去する際、持ち出したのだろう。
しかし、ある意味、物資以上に重要な物を見つけた。
日誌だ。
執筆者はアマンダ・ロッテンバーグ。保育施設の責任者と思われる人物だ。
書かれている内容は、ほとんど被保育者に関するものであり、私にとって価値などまるでない。
しかし、最後の方にあった一文。
『ベン・カフスマン。最大の支援者である彼の頼みを断ることは難しい』に目を引かれた。
ここでも『ベン・カフスマン』か。
奴は資産家だが、慈善家ではない。実際に会ったワケではないが、断片的に残された物証からそれは間違いないだろう。
何かの目的があって融資した。あるいは寄付か。
いずれにせよ、慈愛による行動ではないはずだ。
ならば見返りとは何だ?
以前出会ったB.J・シュタイナーと、その研究。
ネズミに過度の知性を与えるといったものだ。
結果はどうなった?
相手の精神を乗っ取る力、すなわちサイコダイブ能力者の出現だ。
ならば、ここで起こった不思議な出来事にも、ひとつの方向性を見いだせるのではないか?
サイコダイブの能力を得るための実験の一環、あるいはその先――
ここで私の思考は中断された。
なぜなら小さな電子音、すなわち扉のロックを解除する音が聞こえたからだ。
素早く机の後ろへ身を隠すと、扉に向かって銃を構える。
扉が開き姿を見せたのは、白いシャツにピンクのエプロンを着た女。
胸から流れたおびただしい血で、身を赤く染めている。
あれは、私が撃ち殺した女だ!!
死んでなかった?
いや、そんなハズはない。呼吸、脈の停止だけでなく、ライトを当て、瞳孔の対光反射の消失までも確認した。
ゾンビかよ。
チッ、頭を狙うか?
いや、映画じゃあるまいし、脳死者の脳を破壊したところで意味などないだろう。
動けぬよう、手足の骨を粉砕するか。
入手したばかりの暴徒鎮圧用スタンガンを握る。
神経を伝達するのは微弱な電気。こればらば一石二鳥。
血まみれの女は、足を引き摺りながら進む。
首は横に傾き、半開きの口からは、舌がデロリと垂れ下がる。
後続は見当たらない。
入ってきた扉は閉まり、再び開く気配もない。
何か妙だ。
女はこちらに興味を示さず、手をついたまま、ただ壁沿いを歩いている。
目が見えてないのか? それとも手をつかねば立っていられないのか?
何をしたいのか分からん。
どうすべきか、決めあぐねる。
やがて、女はある地点で立ち止まり、こちらに背を向けると透明のカバーを外し、エマージェンシーボタンを押した。
な!!
扉が開いた。と同時に女がその場に崩れ落ちる。
どういうことだ?
女を視界に納めながらも、扉まで進み外の様子を確かめる。
扉が開いていた。
ここだけではない。見える範囲にある扉全てが開いていた。
「ガァオオオー」と獣の雄たけびが聞こえた。
遠いながらも、腹の底をゆさぶる巨大な咆哮。
クソッ、やはり罠か。
雄たけびから伝わってくるのは怒り。閉じ込められたことに対するものなのか。
正体は分からない。が、とにかくあれはヤバイものだ!
その時、袖を引かれた。
逃げられぬよう押さえる気か! と思ったが、そうではないらしい。
クイクイと軽く、何度も引く。
まるで、早く早くと子が親をせかすような気配を感じる。
私は抵抗せず、引かれるまま走っていく。
そうして辿り着いたのは、区画のつなぎ目だろうと思われる通路。
そして、閉ざしていたシャッターはない。
さっさと逃げろということか。
結局、見えない何かが、私に何を求めていたか分からない。
分かろうとも思わない。
だが、ベン・カフスマン。奴が何を求めていたかは予想がつく。
サイコダイバーとは別に無敵の存在ではない。
乗り移りができるだけで、死は等しく訪れる。
だが、死してなお、その精神を留めることができるとすれば、神に等しき力を得るのではないか。
ドン! ドン! ドン! と地響きがなる。
大きな何かが向かって来ていると感じる。
ぐずぐずしてはいられない。
私は次の区画めざして走り出した。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる