殺人鬼アダムと狂人都市

ウツロ

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三章 B.J・シュタイナー

19話 欲するもの

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 まあ、ボタンを押すのはいつでもできる。
 ひとまず恒例の物資漁りといきますか。

 ロッカーや引き出し中だけでなく貼られた紙も剥がし、物色していく。
 だが結局、目ぼしいものは見つからなかった。
 退去する際、持ち出したのだろう。

 しかし、ある意味、物資以上に重要な物を見つけた。
 日誌だ。

 執筆者はアマンダ・ロッテンバーグ。保育施設の責任者と思われる人物だ。
 書かれている内容は、ほとんど被保育者に関するものであり、私にとって価値などまるでない。
 しかし、最後の方にあった一文。
『ベン・カフスマン。最大の支援者である彼の頼みを断ることは難しい』に目を引かれた。

 ここでも『ベン・カフスマン』か。

 奴は資産家だが、慈善家ではない。実際に会ったワケではないが、断片的に残された物証ぶっしょうからそれは間違いないだろう。
 何かの目的があって融資した。あるいは寄付か。
 いずれにせよ、慈愛による行動ではないはずだ。
 ならば見返りとは何だ?

 以前出会ったB.J・シュタイナーと、その研究。
 ネズミに過度の知性を与えるといったものだ。
 結果はどうなった?

 相手の精神を乗っ取る力、すなわちサイコダイブ能力者の出現だ。

 ならば、ここで起こった不思議な出来事にも、ひとつの方向性を見いだせるのではないか?
 サイコダイブの能力を得るための実験の一環、あるいはその先――

 ここで私の思考は中断された。
 なぜなら小さな電子音、すなわち扉のロックを解除する音が聞こえたからだ。

 素早く机の後ろへ身を隠すと、扉に向かって銃を構える。

 扉が開き姿を見せたのは、白いシャツにピンクのエプロンを着た女。
 胸から流れたおびただしい血で、身を赤く染めている。

 あれは、私が撃ち殺した女だ!!

 死んでなかった?
 いや、そんなハズはない。呼吸、脈の停止だけでなく、ライトを当て、瞳孔の対光反射の消失までも確認した。

 ゾンビかよ。
 チッ、頭を狙うか?
 いや、映画じゃあるまいし、脳死者の脳を破壊したところで意味などないだろう。

 動けぬよう、手足の骨を粉砕するか。
 入手したばかりの暴徒鎮圧用スタンガンを握る。
 神経を伝達するのは微弱な電気。こればらば一石二鳥。

 血まみれの女は、足を引き摺りながら進む。
 首は横に傾き、半開きの口からは、舌がデロリと垂れ下がる。
 後続は見当たらない。
 入ってきた扉は閉まり、再び開く気配もない。
 
 何か妙だ。
 女はこちらに興味を示さず、手をついたまま、ただ壁沿いを歩いている。
 目が見えてないのか? それとも手をつかねば立っていられないのか?
 何をしたいのか分からん。
 どうすべきか、決めあぐねる。

 やがて、女はある地点で立ち止まり、こちらに背を向けると透明のカバーを外し、エマージェンシーボタンを押した。

 な!!

 扉が開いた。と同時に女がその場に崩れ落ちる。
 どういうことだ?
 女を視界に納めながらも、扉まで進み外の様子を確かめる。

 扉が開いていた。
 ここだけではない。見える範囲にある扉全てが開いていた。

「ガァオオオー」と獣の雄たけびが聞こえた。
 遠いながらも、腹の底をゆさぶる巨大な咆哮。

 クソッ、やはり罠か。
 雄たけびから伝わってくるのは怒り。閉じ込められたことに対するものなのか。
 正体は分からない。が、とにかくあれはヤバイものだ!

 その時、袖を引かれた。
 逃げられぬよう押さえる気か! と思ったが、そうではないらしい。
 クイクイと軽く、何度も引く。
 まるで、早く早くと子が親をせかすような気配を感じる。
 私は抵抗せず、引かれるまま走っていく。

 そうして辿り着いたのは、区画のつなぎ目だろうと思われる通路。
 そして、閉ざしていたシャッターはない。
 さっさと逃げろということか。


 結局、見えない何かが、私に何を求めていたか分からない。
 分かろうとも思わない。

 だが、ベン・カフスマン。奴が何を求めていたかは予想がつく。
 サイコダイバーとは別に無敵の存在ではない。
 乗り移りができるだけで、死は等しく訪れる。
 だが、死してなお、その精神を留めることができるとすれば、神に等しき力を得るのではないか。


 ドン! ドン! ドン! と地響きがなる。
 大きな何かが向かって来ていると感じる。
 ぐずぐずしてはいられない。
 私は次の区画めざして走り出した。
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