殺人鬼アダムと狂人都市

ウツロ

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一章 ベン・カフスマン

5話 探しものはどこですか

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 両開きの扉がゆっくりと開き、奇妙な小人が姿を現す。
 シンと静まり返った部屋の中、奴は物音一つ立てず、そして、何かを避けるように身を低くすると、一歩進み……悲鳴を上げた。

 そう来ると思ったよ。馬鹿な奴だ。
 足に合わない靴。あのバタバタとうるさい音が、己の位置を知らせていると知っていたのだろう、奴は靴を脱いで入ってきたのだ。
 入り口には俺が砕いてばら撒いておいたガラス瓶の破片。逃げるときにちょいと失敬しておいたものだ。
 まあ見事に踏んでくれたもんだ。

 はは。自分の仕掛けた罠に気を取られちまったか?
 上ばかり見てたもんな。

 危なかったよ。俺が入ってくるときに頭上をかすめたのはワイヤーだった。
 その先を辿ると――手榴弾だ。
 だが、今はもうない。俺が持っているからな。

「そらよ!」

 手榴弾を投擲。
 再びオブジェの影に身を隠すと、槍を手にとる。

 ドンと爆発音。
 そっと覗きこみ、獲物の状態を確認する。

 当たりだ。
 血を流し、倒れる小人の姿が見えた。
 突撃!
 念のため盾をかまえて走り出す。
 もちろんアテネ像が持っていたものだ。さすが戦の神、なにかと役に立つ。
 そうして小人の元へと到達すると、その胸めがけて槍を突きだした。


――――――


 カービン銃を肩から吊るし、通路を歩く。
 戦利品はあまり多くない。少しの弾薬、ナイフにブリキのボトルキャップ数個、そして、より小さくなってしまったバターピーナツ君だ。キュートなおめめがとっても魅力的。

 これから彼のねぐらへと向かう。
 俺の勘では、どこかに弾薬が隠されているハズだ。
 
 それはそうとブリキのボトルキャップ。ポケットに入ってたから、つい持ってきてしまったが意味あったかな。
 兵隊のフィギュアじゃなくボトルキャップってとこがひっかかったんだが。

 来た道を引き返し、目的の部屋へと足を踏み入れた。
 爆風で少し散らかっているものの以前と変わらない。ブーンと低い振動音も耳を澄ませば聞こえてくる。
 奥へと進み、冷蔵庫を開ける。

「やあ、こんにちは。お土産だよ」

 こちらを見つめる生首達に挨拶をかわす。

「ちょっと詰めてもらうよ」

 彼らを押しのけ、中央部分にスペースをつくる。
 それからそこへ、バターピーナツ君の首を置いて完成だ。
 ビューディフォー!
 何で素敵なんだ。くりっとした目のバターピーナツ君。まぶたを切り取っておいて正解だ。無邪気なその瞳が何かを訴えているようでゾクゾクするよ。
 さらに皆の視線が彼に集まっているのもポイントだ。
 よくも殺しやがって! そんな恨みが込められているようで、一つの物語を見ているようだよ。

「じゃあね」

 名残惜しいが仕方がない。俺には他にすることがある。
 そっと冷蔵庫の扉を閉めると、改めて部屋の物色を始めた。


 ベッドの下から出てきたのは、紙箱に入った.30カービン弾と手投げ式手榴弾が3個。残念ながら、熱探知式の爆弾はなかった。
 チチチ、ドカン! あれ面白そうだったんだが。

 それからキャビネットにあったボトルキャップ。これも持っていくことにした。
 服のポケットはもうパンパンだ。どこかで鞄を手に入れないといけない。
 となると次の目的地はマーケットか。
 いいね。ショッピングと洒落しゃれこむとしよう。

 意気揚々と部屋を後にする。
 やがて、柱がまばらに立つ広場へと到着した。
 左を見るとロウワーマーケットと書かれた電飾案内板があり、床へ目を落とすと、飛散した肉片らしきものがあった。
 銃を手にしてご機嫌な俺は歌を口ずさむ。

「桟橋には~白い~小船が~」

 ははっ、あの爆発した男が歌っていたやつだ。いい歌だな。覚えちまったよ。

 案内板の矢印にしたがって進む。
 すぐに巨大な上り階段が見えてきた。
 大理石調の重厚な踏み板に、金属フレームでできたスタイリッシュな手すり。
 それらを天井に吊るしたシャンデリアが美しく照らす。

 マーケットはこの上か。
 おそらく、これから先は注意が必要だろう。
 今は亡きバターピーナツ君のテリトリーから外れるだろうから。

 身をかがめながら、一歩一歩階段をのぼる。
 その時! 階段のさらに奥。通路の暗がりから何者かが姿をみせた。

 やせた体に黒ずんだ細い手足。着ている服は茶色く変色したワンピースのみ。
 そしてなぜか頭には、うさぎの耳のついたヘアバンド。
 どうやら女のようだが、とにかく汚い。
 
 そんな女が作業用レンチを握り締め、キョロキョロと周囲を見渡す。
 やがてこちらに視線をうつすと……

「うふっ」

 レンチを振り上げて襲いかかって来た。


 タン!

 引き絞った引き金と共に銃声が響く。
 どうやら弾丸は眉間に命中したようで、女の頭部が仰け反った。
 女の膝は力をなくし、走る勢いのままゴロゴロと階段を転がり落ちていく。
 その速度は弱まることはない。
 俺の横を通過し、一番下まで到達すると、うつ伏せとなりやっと止まった。

 奇妙な位置で折れ曲がる左足。よく見れば右足のつま先も上を向いている。
 完全に死んでいるようだ。ピクリとも動かない。

 また、途中で外れたのだろう、彼女の横に転がるうさぎ耳のヘアバンドが、なんとも言えない哀愁をかもしだす。

「桟橋には~白い~小船が~」

 俺は再び歌を口ずさんだ。
 そして……

「ウサギちゃん、見つかってよかったな」

 と呟いた。
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