エンド・オブ・フォーマルハウト

まきえ

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<CHAPTER 03/一難去って/WORKING>

<Paragraph 5/思い出の轍/Tracks>

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「麗蘭は夏休み中の夜遊びが原因と言っていたわ。たしか肝試し、だっけ。いつの世も若い子ってそういうの好きよね」

 ハンドルに頭を預ける夏喜。後部座席では鈴蘭が窓の外で遊んでいる子供たちを眺めていた。

「・・・・・・きっかけというならそれかもしれない。うちだって別に行きたかったわけじゃないけど、友達がどうしてもって言うから。それに、ほっといたら男にでも襲われかねない子だったから、心配でついて行っただけよ」
「ふーん。それで、どこに行ったの?」
「どこって言っても、いろいろよ。一緒にいた先輩は"肝試し百峠"って言ってたけど。北から順に有名なところからニッチなところまで順番にって感じ。メンバーの1人が事故で亡くなったから、結局は中部で終わっちゃったけど」

 鈴蘭たちメンバーはいくつかの集団の寄せ集めで、メンバーは全員で7人。構成としては1つは鈴蘭と友達、同じ高校の女子先輩。他は近くの高校に通う女子先輩と社会人の彼氏(成人)、バイク仲間だった男2人。鈴蘭の高校の先輩と近くの高校の先輩が友達同士、彼氏とバイク仲間が先輩後輩関係であったことからこのようなメンバーになったらしい。

 登場人物が多いため、夏喜は脳内で勝手にABCに変換――鈴蘭の友達をA子、同じ高校の先輩をBパイセン、Bパイセンの友達をC友、C友の彼氏をD男、バイク仲間をE助、F郎とした。

 "肝試し百峠"はD男によって命名され、目的は県北から順に心霊スポットを周るというシンプルなものであった。D男が所持するワンボックス車に乗り、毎度深夜0時に目的地を探索する。周った箇所はトータルで13箇所。

 県北の国頭くにがみ村の国道58号線の始まり、今帰仁なきじん村の嵐山あらしやま展望台、名護なご市の骸骨がいこつ山と不可視の洋館、恩納おんな村の万座毛まんざもうSSSスリーエス読谷よみたん村のチビチリガマ、中城なかぐすく村の高原こうげんホテル跡、宜野湾ぎのわん市の大山おおやま貝塚かいづか森川もりかわ公園と嘉数かかず高台、浦添うらそえ市の城址と火災にあったダンスホール。

 バイク乗りのE助が亡くなったこともあり事実上"肝試し百峠"は停止しているが、予定では那覇なは市の末吉すえよし公園と旧海軍司令部壕、知念ちねん村の七福神の家、具志頭ぐしかみ村のガラビ壕跡、糸満いとまん市の喜屋武きゃん岬で終わりとなっていた。

「よくもまあ、こんなに周ろうと思ったわね。まさか1日でじゃないでしょうね」
「そんなはずないじゃん。スタート地点が山原ヤンバルの奥地だもん、無茶だわ。だいたい2週間位よ」
「だよね~。そこは安心したわ。けど、さすがにやり過ぎだ。候補が多すぎて絞れないぞ、これ」

 沖縄本島の地図を広げた夏喜が、鈴蘭たちが周った箇所に印をつけていく。ものの見事に北から南まで分布しており、自殺の名所や第二次世界大戦下で地上戦の被害にあった場所、そして――

「・・・・・・ユタの聖地があるな」
「あ、ジューダスも気付いた? そうよね、これが厄介だわ」

 夏喜とジューダスが目をつけたのは、ユタの聖地でありながら心霊スポットの定番となっている恩納村のSSS、宜野湾市の大山貝塚と森川公園だった。

「かといって、この3つじゃない保証がないわ。なんせ、全部マジの霊域だもの」

「ねぇ。うち、もう帰ってもいい? 怪異とか別にどうでもいいの。大人の遊びに付き合うのはダルいわ」
「ああ、それはダメよ。だって、

 バックミラー越しに鈴蘭を見る夏喜。そこには、不定形の影が鈴蘭に覆いかぶさっていた。鈴蘭本人にその自覚はないことも察しがついたが、後部座席を満たすほどの巨大さに、夏喜の頬に汗が浮かぶ。黒い影からは、敵意にようなものを感じた。

「憑いてるにしたって、うちには見えもしないし実害もないのよ。ならいないも当然じゃん。女子高生の時間は貴重なの。調べたいなら勝手に調べればいいじゃない。うちは帰して」
「麗蘭も言っていたでしょう。わたしに任せなさい。きちんと解決してあげるから。そうね――」

 後部座席に振り向き、鈴蘭と影の両方を見つめる。

「お姉さんと、ドライブしましょうか」

 敵意むき出しの影にも怖気ずに、ニカッと笑った。



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