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<CHAPTER 03/一難去って/WORKING>
<Paragraph 0/新たな依頼/Telephone>
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「――すまん! ソウジロウを頼む!」
地元に戻った夏喜がシングルマザーとして生活して3日目の夜。ワンコールで電話に出た藍那に開口一番で頼み込む。
『いいよ~』
「まだ3日で子供を預けるなんて勝手がすぎ・・・・・・え。いいの?」
『うん。そろそろかなって思ってたから』
「君の一存ではさすがに」
『パパもいいよって言ってたよ。アーちゃんも楽しみにして準備してるわ』
「言ってたって・・・・・・まさか、神託使ったな?」
『え? 何のことかな~』
夏喜の行動を先読みしてソウジロウの引取を準備していた藍那であった。
『それで、仕事でも入ったの?』
「そうなんだ。厄介ごとそうだからね、さすがに子供を連れて行くわけには・・・・・・」
///
――遡ること数時間前。倉山家のセカンドハウスがあるS県倖田町、そのほぼ中心部にある山の中腹に住居を構えていた。夕食を終え、片付けをしている時だった。
「おい、ナツキ。電話だ」
「ん~、誰から?」
「自分で確かめろ」
キッチンから顔を出した夏喜に、ジューダスが携帯電話を投げて渡す。着信画面には非通知と表示され、受話器の向こう側は藪の中である。
「誰よこんな時間に。はい、もしもし?」
『オレだ。仕事の依頼だ』
「オレオレ詐欺をされるほどわたしはババァじゃない」
余程苛ついたのか、相手の次の言葉の隙間すら与えずに終話ボタンを押した。だが、すかさず再び非通知での着信が入る。
「・・・・・・なによ」
『何よはこっちのセリフだ、クラヤマ! なぜいきなり電話を切る!?』
「素性も知らない相手からの依頼は受けない主義よ」
『ヒースだ! 声で分かれよ!』
電話の相手はロンドンで別れた魔術師であった。夏喜の傍で、ジューダスが呆れ顔で立っている。
「知ってる? 受話器から聞こえる声って、電気信号がそれっぽく似てる声に変換だけなんだって。だからヒースって気付かなかったのね」
『屁理屈はいい。伯爵から仕事の依頼だ。明日の朝一で空港まで来い。以上だ』
「内容がこれっぽちも入ってないわよ、ヒース。こちらにも予定があるわ」
もちろん夏喜に予定なんてない。だが、ソウジロウを引き取ってまだ3日目だというのに、いきなり生活拠点を離れないといけない事項は受け入れ難い。
『生き死に関わることか? でないなら予定は断れ。こっちは命に関わる』
「横暴ね。まあいいわ。けどいきなり空港だなって無茶よ。こっちには子供がいるのよ」
『オレが知るところではない。プロならどうにかしろ』
「どうにかって、君ね! ・・・・・・ってあんにゃろう切りやがった」
一方通行の非通知からの通話だっただけに、夏喜側から折り返しは出来ない。規則正しい電子音だけが夏喜の携帯電話から鳴り続けた。
///
「――って事があった。たぶんどこかに飛ぶ。内容もわからないから数日かかるかもしれない」
『全然大丈夫よ~。ナッちゃんは仕事に専念して~』
「相変わらず君は軽いな。あ、そうだ。ソウジロウの名前だけどね、漢字を考えてみたよ」
『え!? なになに? 気になる!』
「食い付きがエグいな。宗谷君の『宗』に『次郎』だ。安直だけどね、君達から貰った名前だからこれにするよ」
『そうなんだ~。ンフフ』
「いきなりどうした」
『なんか、私達とナッちゃんの子供みたいだな~って思って。ンフフフフ』
「気持ち悪いな・・・・・・。葵にも伝えておいてくれ。それじゃあ明日の朝一で連れて行く。ありがとう、藍那。おやすみ」
『おやすみなさい、ナッちゃん』
藍那との電話を終え、ようやく少し楽になった夏喜であった。
内容のわからない仕事をいきなり押し付けられ、子供をどうしようかと画策する。今までの夏喜ならとりあえず仕事の準備に取り掛かるが、子供が1人いるだけでそうはいかない。自分の身は、自分ひとりのものではなくなったことを実感した。
自分で腹を痛めて産んだ子供ではないが、養っている責任は感じている。誰かに頼ることが、こうもプレッシャーになるのかと今後が心配になった。それは、危険な仕事をしているからもある。厄介な依頼も受けている。多くの人に頼ることも出来ない。だからこそ、藍那に頼ることすら初めは躊躇していた。
「大丈夫だったか、ナツキ」
「ええ。相変わらず二つ返事だったよ。宗次郎はもう寝たかな」
「ああ。お前も休め。また忙しくなる」
ジューダスの言葉に甘えて、夏喜は自室に戻る。夜が深くなる前に仕事の準備を終えて床についた。
_go to "Nursery".
地元に戻った夏喜がシングルマザーとして生活して3日目の夜。ワンコールで電話に出た藍那に開口一番で頼み込む。
『いいよ~』
「まだ3日で子供を預けるなんて勝手がすぎ・・・・・・え。いいの?」
『うん。そろそろかなって思ってたから』
「君の一存ではさすがに」
『パパもいいよって言ってたよ。アーちゃんも楽しみにして準備してるわ』
「言ってたって・・・・・・まさか、神託使ったな?」
『え? 何のことかな~』
夏喜の行動を先読みしてソウジロウの引取を準備していた藍那であった。
『それで、仕事でも入ったの?』
「そうなんだ。厄介ごとそうだからね、さすがに子供を連れて行くわけには・・・・・・」
///
――遡ること数時間前。倉山家のセカンドハウスがあるS県倖田町、そのほぼ中心部にある山の中腹に住居を構えていた。夕食を終え、片付けをしている時だった。
「おい、ナツキ。電話だ」
「ん~、誰から?」
「自分で確かめろ」
キッチンから顔を出した夏喜に、ジューダスが携帯電話を投げて渡す。着信画面には非通知と表示され、受話器の向こう側は藪の中である。
「誰よこんな時間に。はい、もしもし?」
『オレだ。仕事の依頼だ』
「オレオレ詐欺をされるほどわたしはババァじゃない」
余程苛ついたのか、相手の次の言葉の隙間すら与えずに終話ボタンを押した。だが、すかさず再び非通知での着信が入る。
「・・・・・・なによ」
『何よはこっちのセリフだ、クラヤマ! なぜいきなり電話を切る!?』
「素性も知らない相手からの依頼は受けない主義よ」
『ヒースだ! 声で分かれよ!』
電話の相手はロンドンで別れた魔術師であった。夏喜の傍で、ジューダスが呆れ顔で立っている。
「知ってる? 受話器から聞こえる声って、電気信号がそれっぽく似てる声に変換だけなんだって。だからヒースって気付かなかったのね」
『屁理屈はいい。伯爵から仕事の依頼だ。明日の朝一で空港まで来い。以上だ』
「内容がこれっぽちも入ってないわよ、ヒース。こちらにも予定があるわ」
もちろん夏喜に予定なんてない。だが、ソウジロウを引き取ってまだ3日目だというのに、いきなり生活拠点を離れないといけない事項は受け入れ難い。
『生き死に関わることか? でないなら予定は断れ。こっちは命に関わる』
「横暴ね。まあいいわ。けどいきなり空港だなって無茶よ。こっちには子供がいるのよ」
『オレが知るところではない。プロならどうにかしろ』
「どうにかって、君ね! ・・・・・・ってあんにゃろう切りやがった」
一方通行の非通知からの通話だっただけに、夏喜側から折り返しは出来ない。規則正しい電子音だけが夏喜の携帯電話から鳴り続けた。
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「――って事があった。たぶんどこかに飛ぶ。内容もわからないから数日かかるかもしれない」
『全然大丈夫よ~。ナッちゃんは仕事に専念して~』
「相変わらず君は軽いな。あ、そうだ。ソウジロウの名前だけどね、漢字を考えてみたよ」
『え!? なになに? 気になる!』
「食い付きがエグいな。宗谷君の『宗』に『次郎』だ。安直だけどね、君達から貰った名前だからこれにするよ」
『そうなんだ~。ンフフ』
「いきなりどうした」
『なんか、私達とナッちゃんの子供みたいだな~って思って。ンフフフフ』
「気持ち悪いな・・・・・・。葵にも伝えておいてくれ。それじゃあ明日の朝一で連れて行く。ありがとう、藍那。おやすみ」
『おやすみなさい、ナッちゃん』
藍那との電話を終え、ようやく少し楽になった夏喜であった。
内容のわからない仕事をいきなり押し付けられ、子供をどうしようかと画策する。今までの夏喜ならとりあえず仕事の準備に取り掛かるが、子供が1人いるだけでそうはいかない。自分の身は、自分ひとりのものではなくなったことを実感した。
自分で腹を痛めて産んだ子供ではないが、養っている責任は感じている。誰かに頼ることが、こうもプレッシャーになるのかと今後が心配になった。それは、危険な仕事をしているからもある。厄介な依頼も受けている。多くの人に頼ることも出来ない。だからこそ、藍那に頼ることすら初めは躊躇していた。
「大丈夫だったか、ナツキ」
「ええ。相変わらず二つ返事だったよ。宗次郎はもう寝たかな」
「ああ。お前も休め。また忙しくなる」
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