魔王はまだ討伐しないようなので異世界ライフを楽しみます

転香 李夢琉

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帝国編

第十四話 いたずらとお風呂 1~3

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「……どうして宮廷に?」

 咲夜が訊いた。
 隣には影兎、蒼磨、理琉、猟魔が並んで立っている。たつやも連れて行くのかテウォルドさんが抱えるように持っている。

「あ~……行けば分かる?」

((((なぜ疑問形))))

「なぜ疑問形」

 影兎以外の四人は同じ事を思い、影兎だけは口に出してツッコミを入れた。
 テウォルドさんは困ったように笑みを浮かべていたが、いつの間にか宮廷の扉が開いており促されるように中へ入っていった。咲夜達もテウォルドさんの後を追った。

(この展開から察するに、王族の人間に会ったりするのかな? それとも王座の間みたいなところに行ったりするのかな!)

 咲夜は異世界思考をしながらわくわくと歩いていた。
 赤い絨毯がほぼ一直線に敷かれており、壁には魔石の入ったランタンが等間隔で並べられている。天井にはこれといって目を引くものは何もなく、白を基調とした単一の色合いになっていた。
 十メートルほどの間隔で両開きの扉が左右交互にあり、一般人が見たところでどこに何室があるのか見分けがつきそうもなかった。
 ――と、テウォルドさんは左側の両開きの扉の前で足を止めた。

「この部屋にお前達に遭わせたい人がいるんだ」

 そういうと左の取っ手だけを掴みゆっくりと開けた。
 ――中から埃が降ってきた。

「うわっ」「ひゃっ」「うぉっ」「わー、びっくり」

「……何してんだ」

 咲夜はだけはわざとらしい棒読みな驚きを見せつつなぜかほとんど埃を被っていない、蒼磨だけは死角に居り埃を被らずに済んだ。そのほかの影兎、理琉、猟魔は頭から埃を被り全身灰色になっていた。

「あ……」

 テウォルドさんは素っ頓狂な声を上げるとガハハと笑った。

「すまんすまん、間違えたわ! もう一つ先の部屋だ! ガハハ」

 たつやが腕の中で寝ているのにも関わらず大声で笑うテウォルドさん。
 猟魔は掛けていた眼鏡を外すと眼鏡拭きで視界だけは確保した。
 理琉がこんな格好で人に会いたくないと言いだしたのでテウォルドさんが全員をお風呂に案内してくれた。蒼磨は入らないと行っていたが先程まで砂漠(荒野)にいたのだから汗くらいは掻いてるだろうから落としなさいと理琉に言われ渋々蒼磨も風呂に入ることになった。

「俺は説明しておくから、その埃を落としてこい! ガハハ」

((((いやテウォルドさんがつけたんでしょ))))

「いやあんたがわざとやったんだろ」

 蒼磨以外は同じ事を思い、蒼磨はさっき感じたことをド直球に言った。
 テウォルドさんは一瞬ぱちくりと瞬きをするが再びガハハと笑うと後ろ手を振りながら去って行った。
 影兎は呆然と立ち、理琉と猟魔は全く気にしていない様子で自身の服についた埃を手で払っており、咲夜と蒼磨は胡散臭いと思いながらテウォルドさんの背中を見ていた。

「さ、咲夜さん、お風呂に入りましょ」

 理琉のその一言をはじめとし各々脱衣所に入っていった。


 真っ先に目に飛び込んできたのは浴場の大きさだ。浴場は意外と広く、十×カケル十五メートルほどある。天井は五メートル以上あり、光る苔のようなものがたくさん付着していた。恐らくこれが照明なのだろう。しかも、これまたすごいことに露天風呂も着いていた。
 桶が浴槽の縁に置かれていたので屈みながら手に取ると、浴槽のお湯をそっと汲んだ。それを汲んだ手とは対角の肩から掛け流す。

「んん~、気持ち良い~」

 思わず咲夜は歓喜の声を上げた。そのまま咲夜は湯船に浸かろうと思い足を上げると理琉に声で制止された。

「あ、あの……先に洗いませんか?」

 後ろを振り返ると、タオルで前を隠している理琉の姿があった。咲夜は一瞬悩むと

「あ、ならさ──」

(……やっぱり理琉ちゃん? いやみーちゃんかな、うん)

 咲夜はどうでも良いことを考えながら理琉に背中を流して貰っていた。そして目の前には鏡。

(それにしてもなかなか……服の上からじゃよく分からなかったけど意外とあるんだ)

 しれっと鏡で自分のと理琉のを見比べている咲夜だった。だが会話らしい会話は一切しておらず水の音だけが聞こえている。
 このあとちゃんと咲夜も理琉の背中を流してあげた。
 ちなみに咲夜はタオルなんぞは持って入っておらず一切隠す素振りもしていない。髪は肩まで流しているが流石に浴槽のお湯に浸けるわけにもいかないので、軽くお団子を作り湯船に浸かった。

「あぁ~、ったまる~」

 咲夜は窓際に浸かり壁に背中を預けた。理琉は少し離れた場所で湯船に浸かっている。

「……は今日楽しかった?」

 あまりにも無言だったため咲夜が耐えきれず口を開いた。

「…………」

「…………」

「……え、あ。もしかしてわ、私に言いましたか?」

 理琉は戸惑ったように言った。咲夜は眼をぱちくりとさせると声を上げて笑った。

「あはは。そっか、そうだよね。あはは! うん、そうだよ」

 咲夜は目尻に涙を浮かべながら騒いだ。理琉はというと更に困惑しており、困った顔を咲夜に向けていた。ひとしきり笑うと咲夜が言葉を紡いだ。

! 楽しかった?」

「え? そ、そうですね……」

 理琉は斜め上を見ながら考えた。

「楽っ……あ、咲夜さんにはご迷惑をおひゃへふぃて……にゃ、にゃにひゅるんでひゅか~」

 咲夜は理琉の頬を両側から軽く引っ張った。突然の出来事だったため理琉はまともな言葉にならずふにゃふにゃした感じになってしまった。

「昔のことはもう気にしなくて良いんだって。今は……この後、この先のことだけを考えれば良いんだよ」

 咲夜は理琉の頬から手を離すと、その手を腰にあて胸を張ってそう言った。


(……さて、お風呂の定番と言えば……)

 咲夜は足だけを湯船に付け腰を浴槽の縁に降ろした。そして「ふう」と息を吐くと耳を傾けた。

        ◆ ◆ ◆

「影兎さん達はここに来てからどのくらい経つのですか?」

「……」

「……え、えっと影兎さん?」

「……ぁ、ぅ……」

 男三人、同じ湯船に入ってはいるが影兎だけは角っこに体育座りしている。そこに猟魔が隣に座り話しかけているが全くもって会話が成立していない、これが今の現状だ。

(やばい、もう無理だ。ずっと我慢してたけどさすがにさくちゃんがいないと会話なんか出来ないよ!)

 そう、影兎は極度の人見知りだ。トリスさんの時は途中まで咲夜が居てくれたため羞恥だけでなんとか乗りきったが、今は蒼磨と猟魔しかいない。ましてや壁を一枚挟んだ向こう側には咲夜と美玲がいるに入るが、その距離で会話兼通訳をになって貰うのも不可能だ。
 ちらっと猟魔を見るとなにやら蒼磨と話しているようだった。再び影兎は顔を両膝の中に埋めた。そしてため息を吐く。

「……なにがいけないのでしょう?」

「おまえがうざいんじゃねぇか?」

「……自分のことをよく見てから言ってください」

「はぁ? 猟魔は俺のことそんなふうに思ってたのか? あぁん?」

 売り言葉に買い言葉。お互い腕を掴みながら罵詈雑言を吐き始めた。
 影兎はザバッと立ち上がると湯船から出るべく歩いた。影兎が突拍子もなく立ったからだろうか猟魔と蒼磨は目を点にしたまま影兎の行く末を見ていた。やがて脱衣所に入っていくのを見届けるとお互い掴み合っていた腕を解いた。
 するとタイミングが良いのか悪いのか壁の向こう側から声が飛んできた。

「──あんたたちー! えっちゃんに手出したら許さないからねー!」

 反響して大きく聞こえた声に驚きつつも二人はそろいもそろってため息を零した。

「いや、手を出すもなにも会話すら出来ませんでしたし……」

「いや、手を出すもなにも勝手にあいつ出て行ったんだが……」

 脱衣所にジト目を向けながら二人して呆れたようにそう言った。
 ──二人も程なくして風呂から出ると(いつの間にか)用意されていた服に着替えると脱衣所を出た。
 足首まである少しダボッとした長ズボンに白を基調とした半袖、その上から羽織るようにしてマント……コートのようなものを着ている。これが男子の格好だった。

「おまえ全然似合わねぇな!」

「蒼磨こそ、その白のシャツとか全く似合っていませんけどね!」

 影兎はまた隅っこにいるがどうやら二人には気付かれていないらしく、また喧嘩をおっぱじめようとしていた。
 と、タイミング良く美玲と咲夜の話し声が聞こえてくると、今にでも火花が飛び交いそうだったにもかかわらずその話し声だけでピタリと止まった。

「──あ、待った?」

「いえ、我々も先程上がったばかりですので」

 先程の喧嘩がまるでそんなことはなかったよと言わんばかりに蒼磨は明るく言った。

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