魔王はまだ討伐しないようなので異世界ライフを楽しみます

転香 李夢琉

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帝国編

第十三話 軍隊? と帝国 1~2

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「……えっと、帰れないかも?」

「「「え?」」」

 咲夜達は声を揃えて驚いた。影兎はその反応が返ってくると分かっていたのか、見た状況をそのまま説明しだした。

「なんか……指揮官みたいな人が『こちらに気付かれてない今のうちに包囲するのだ!』とか言って……どうする?」

「……多分だけど勘違いされてるよね、私たち」

「だろうな……あと百メートルっていったところか。あんま考えてる時間ねぇぞ」

 咲夜が推測し蒼磨が返した。

「――なら話し合いをしてみる。というのはどうでしょう?」

 いつの間にか起きていた猟魔が鼻血を垂らしながらそう言った。その案に影兎と蒼磨は反対するが咲夜と美玲は少し逡巡したあと「それでいこう」と肯定した。

「危なくない? 大丈夫かな……」

 影兎は咲夜の耳元で問いかけ不安の声を漏らした。咲夜は曇りのない普通の抑揚で応えた。

「う~ん……多分大丈夫だと思うよ」

 影兎は不安に思いながらも幼なじみの言葉を信じた。
 ――と、いつの間にか眼前まで迫ってきていた。やがて目の前で馬と馬車が停止すると先頭の立派な鎧に包まれた指揮官のような人が馬を降りた。
 辺りに目を配るとすでに包囲されていた。

「……」

「……」

 両者沈黙し睨み合いが続いた。先に静寂を裂いたのは意外にも咲夜だった。

「デス・サーペントなら倒したけど、何しに来たの?」

 咲夜の言いに影兎は疑問を覚えるが指揮官がため息をついたので疑問から困惑に変わった。

「はぁ……まさか本当に倒してしまうとはな」

 ──聞けばトードさんが事前に伝書鳩を飛ばしていたらしい。そのためもしものことがあってからでは遅いと思い、腕利きの冒険者を集めて討伐隊を組んできたのだとか。ちなみに包囲をしたのは念のためらしい。

「──それでそこにいる三、いや四人は誰だ?」

 と、指揮官は咲夜と影兎の後ろにいる猟魔達とたつやを見た。

「……話せばちょっと長くなるけど、簡単に言えば……同郷? こっちの女の子は迷子かな」

「迷子? こんななにもない荒野でか?」

 指揮官は訝しむような目で咲夜を見据えた。咲夜も半信半疑といった様子で首を横に振った。指揮官は困惑のため息を零すと「まあ、いいか」と言って話を進めた。

「ああ、そうだ。今更だが俺の名前はテウォルド・ウォーディ、冒険者ランクはAだ。よろしくな」

 ──お互いに自己紹介を終わらせるとテウォルドさん達の馬車で街まで送って貰えることになった。
 咲夜と影兎、それにテウォルドさんとたつやが同じ馬車に乗った(テウォルドさんの馬は別の人が乗馬)猟魔達は咲夜達のすぐ後ろを走る馬車に乗り込んだ。ちなみに咲夜達が行きしに乗ってきた馬車はテウォルドさんの仲間の冒険者が街まで動かしてくれるみたいだ。

 ――数時間馬車に揺られ東地区にある大きな街、ドラグナイト東帝国に到着した。
 街に着くとテウォルドさんの仲間の冒険者達は挨拶だけして各自解散していった。個人で参加していた人が意外と多かったのか馬車を降りると誰とも話さずそそくさ帰って行くような人が見受けられた。

「……すごい、王都までとはいかないけど人が多い」

 街には活気があり至るところで催し物や出店が開かれていた。たつやは疲れたのか咲夜の膝を枕にして寝ている。門を抜け馬車のまま街道を進んで行くと様々な建物が並んでいた。

「冒険者ギルド、商業ギルド、あれは……広場かな? 噴水デカ」

 広場には子どもをはじめとしカップルが多数を占めている。それに噴水だけで五メートル以上あり目印としては一番分かりやすいポイントだろう。噴水の水はかなり澄んでおりキラキラと光っているように見えた。
 冒険者ギルドは王都のと比べると外見はほとんど同じだが一回りほど小さく入り口までに十段ほどの階段があり入り口の扉が二重になっていた。
 商業ギルドは大きさこそ冒険者ギルドと同じくらいだが商業ギルドの方は多少派手さがあった。冒険者ギルドは完全に木造で看板も階段も木で造られているのに対し、商業ギルドは柱は木造壁はコンクリのようなセメントのようなもので出来ていた。そしてこちらも冒険者ギルドと同じく入り口までに十段ほどの階段があり扉が二重になっていた。
 影兎が不思議そうに眺め、思いついたかのようにテウォルドさんに訊いた。

「なんかこっちはアスタリア王国と違って不思議な感じですね」

「そうだな、ここいらは砂嵐が酷いんでな。アスタリア王国のほうがよっぽど暮らしやすいだろうな」

「なら、テウォルドさんはなぜここに?」

 咲夜が訊いた。
 テウォルドさんは一瞬考えるような素振りを見せながら腕を組むが意を決したのか口を開いた。

「……俺の場合は、まあしょうもない理由だが……兄貴に追いつきたいから、ここで修行を、な」

 テウォルドさんは頭を搔きながらそう答えた。二人は一瞬ポカンとするが咲夜が前のめりになりながら大声で言った。

「全然しょうもなくないよ! 私も姉がいるんだけどね、一時期はすごく私が負けず嫌いで絶対に勝ちたいっって思っちゃって、いろんなところに行って、それでもダメでやっぱりすごいな~って……諦めちゃった」

 まだ心残りがあるのか最後だけ言葉が弱くなった。

(さくちゃん……)

「……はは、そうか」

 テウォルドさんは呆れたかのような笑いを零すと、今度は一際大きくガハハと笑った。

「そうかそうか、咲夜とは仲良くなれそうだな! っと見えてきだしたな、あれが宮廷だ」

 街道の先に大きな建物が見えてきた。まさしく城と呼ぶに相応しい大きさと形だった。馬車は宮廷の前まで走ると咲夜達だけ降ろされた。

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