12 / 26
乱闘編
第八話 昇級試験と〇〇 4~6 魔族、少女、少女
しおりを挟む『水球』が何かに当たり、破裂した。すると暗闇に動く1つの影が咲夜達に近づいてきた。
「.......ッ!」
そこに居たのは人族ではなかった。黒い角、とがった牙、気圧されるような溢れ出る膨大な力.......魔族だ。
「どうして.......ここに魔族がいるの?」
咲夜は恐る恐るその魔族に聞いてみた。
『グハハハハ!お前らが知る必要なんざねぇんだよ!』
.......ごめん。なんて言ってるのか分かんない
影兎は内心そんなことを思いつつも、右足を一歩後ろに下げて身構えた。
『おっと、そういえばクロミネス語は人族には分からないんだったな。グハハハハ!』
そう言うとその魔族は言語を変えて話し出した。
「ん、ん゛。これで俺の言葉が分かるだろう」
魔族は拳を口に当てて喉を鳴らした。
あ、ほんとだ
「.......流石は異世界ね」
咲夜が呟くと、聞こえていたのか魔族が反応してきた。
「ほぉぅ。召喚者か.......なら、分が悪いな。悪いが今日の所は帰らせて貰う」
咲夜が召喚者だと知るや否や、自分には不利だと良い、瞬く間に暗闇の中に消えていった。
「なんだったんだ.......というか魔族?!」
影兎はいろいろと状況の理解が出来ていないので混乱している。
「あれは魔族。恐らく200年前の戦争の生き残り.......」
咲夜は推測だが影兎に分かりやすく簡潔に言った。すると空からポツポツと雨が降り出してきた。数分後、豪雨となった。今まで静かにだった辺りが雷雨によって悲しい雰囲気を作り出した。
ザァーー、ゴロゴロゴロ!
咲夜達は雨宿りもしようとせず、道の真ん中にたたずんでいる。そして咲夜は闇の空を見上げたのだった.......―――
◆ ◆ ◆
翌日、咲夜達は薄暗い路地裏で目を覚ました。
「ここ、は.......?」
あ、そういえば昨日、雨が降ってきて宿もないから人目のない路地裏で寝たんだった.......あーあ、服がビチョビチョ.......替えがね.......
ふと咲夜は影兎を見た。まだ寝ている。もちろん影兎の服も雨でビチョビチョだ、地面が濡れている。
砂や砂利がいつの間にか飛んでいたのだろう。手や靴、ズボンが泥だらけになっていた。おまけに、辺りが薄暗いせいか影兎の額が赤っぽくなっていた。
.......私より酷いよね、これ.......
突然咲夜の頭に直接響いてくるような音が鳴った。
「ピロン、ピロン、ピロン」
爆風空間C→爆風空間Bになりました。火炎D→火炎Cになりました。経験値上昇D→経験値上昇Cになりました。
Lv1→Lv5、Hp320→532、魔力155→192、知力96→98になりました。
「.......ィッ?!」
咲夜は突然のレベルアップに頭を押さえて、座り込んでしまった。それでも息を荒々しくしながらも立ち上がり、壁にもたれかかった。
「はぁはぁ.......やっば.......ステー、タス」
咲夜は苦しいながらもステータスを表示した。
職業 勇者 人影昨夜 Lv5 状態 酔い 体温低下 熱
Hp328/532 魔力142/192 素早さ97 筋力27 知力98
属性 火 嵐 水 光
スキル 経験値上昇C 武術D 初歩魔法耐性C 風耐性
鑑定A 身体能力上昇C 異世界オタクSS
魔法 潜伏C 爆風空間B 反射シールド
竜巻D 火炎C 水球D 光明D 疾風風紀
「.......この状況を打破出来るような魔法もスキルもなし、か.......それにしても状態が.......」
酔い、てことはレベルアップ酔いていうことか.......体温低下は、雨に濡れて服がビチョビチョのせいだろうし、熱は.......恐らく濡れたまんまでいたから風邪を引いたんだろうね。このままで居るのはマズいな.......
「ん、.......あれ、咲夜?」
すると影兎がむくりと体を起こした。汚い手では目を擦れないのか、瞼が閉じかけている。
「えっちゃん、大丈夫?『水球』」
咲夜は苦しいながらも『水球』を使い、影兎の手を洗ってあげた。
「.......ありがと.......ふわぁ」
影兎は礼を述べると大きくあくびをした。その後綺麗になった手で目を擦った。
「――ヘッくしゅ!」
突然影兎が体をブルブルさせながらくしゃみをした。
「わっ、大丈夫?」
咲夜は影兎に大丈夫か尋ねた後、路地奥から物音が聞こえたのを聞き逃さなかった。
「しっ!……」
咲夜は素早く反応して影兎に声を出さないようにと、ハンドサインをした。影兎は静かに立ち上がると、咲夜の後ろへ行った。そして
「ボソッ、スキル『隠密』」
『(はいはい、このスキルの解説をするよう。スキル『隠密』とは足音などの『音』を消すことが出来るスキル。あくまでも『音』を遮断するスキルのため、姿形を眩ますことは出来ないのだ。)』
咲夜は影兎が隠密スキルを使ったことに気付き、軽く会釈をした。その後、物音がした路地裏に目をやった。闇の中からヒタヒタと足音のような冷たい音が聞こえてくる。そしてシルエット、輪郭、はっきりとした姿が見えた。
これは……獣人?でもなんで、あっ、首輪が付いてる手にも枷がついてる……ということは『奴隷』
咲夜は猫耳の生えた頭、首回りに付いている首輪、手にも付いている枷を見て、この娘が奴隷だと言うことに結論付けた。
「……あ、う……たぁ、つけて、くあさい」
その娘は必死に咲夜達に何かを訴えるかのようにしてジリジリと近づいてくる。
「……敵意は、なさそうだけど……『助けて』って言ってるように私には聞こえるんだけど」
咲夜の言うとおり僕も『助けて』って言っているように聞こえる。どうしよう、僕になんかがこの娘を助けることが出来るのか?
「――ねえ、何に怯えているの?」
影兎が考えている間にすでに咲夜はその娘と話していた。
「――おおひな、こふぁいの……たつ、けて」
必死に教えてくれようとしているが、詳細がはっきりしない。
「んんー?大きい、怖い、助けて?」
咲夜は何とか分かった単語だけを復唱した。
すると影兎はこっそりとその娘を鑑定した。
職業 ? ??? Lv2 状態 奴隷
Hp60/60 魔力72/70 素早さ12 筋力5 知力10
属性 風
スキル 聴覚拡張A 解析眼B 予知眼B 風の加護
索敵B
魔法 風刃D 応用魔法【風見】
え?名前がない……それに状態が、奴隷?こんな小さな娘が?!咲夜に……いや、もう知ってそうだな
影兎は咲夜の顔色を窺い独断で判断した。すると空から目映い光が降り注いできた。上を見上げると屋根との隙間から太陽光が漏れ出ていた。
「ん?眩し……」
さっきまで薄暗かった路地裏は、餓えから助けられた生物のように明るくなった。
なんで?さっきまであんなに暗かったのに……あ、なるほど。いつの間にか昼になったのね
咲夜は安定の推理力で太陽が真上に行ったことを察した。
「とりあえずさ……へっくしゅ!……」
影兎は肝心なとこで寒さに負けてくしゃみをしてしまった。影兎は羞恥心で顔を赤らめた、だが熱を引いているため客観的な印象では風邪が悪化したようにも捉えることが出来た。
「大丈夫?えっちゃん。顔が赤いし、熱が出て来たようにも見えるけど……」
影兎は平気、平気と手を振りつつ、ズルズルと音を出しながら鼻を擦り――大丈夫だアピールをした。咲夜はそっと影兎のおでこに手を当てた。
「……熱っ?!え、いや全然平気じゃないでしょ!」
影兎のおでこはかなり火照っていた。咲夜はそっと、影兎に触ろうとして――失敗する。影兎の身体がゆっくりと咲夜に近づいて来たのだ。咲夜が混乱する間もなく、影兎は咲夜にもたれかかった。そして足から崩れていき、膝が地面に着いたところで咲夜は察した。
もしや、風邪が悪化した?!
このままじゃマズいと思った咲夜はなんとかしようと頭をフル回転させた――――
『(悪いがここから先は“今”の出来事なんでね。……)』
『(そ、そう言うわけだから、仕佐達の方に戻すね)』
◆ ◆ ◆
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。


神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。


転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜
MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった
お詫びということで沢山の
チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。
自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる