三題噺(ホラー)

『静かな訪れ』

　雨　旗　タイヤ
　題　静かな訪れ

　――静かな雨が降っていた。
　やさしい、心落ち着くような霧雨が。
　やがては激しい音と共に豪雨へと変わる。
　そんな気がしてならない。
　ふと、何かが手に当たる感触がした。瞼を持ちあげ右手を視野に収める。
　……ああ、そうか。まだ終わっていないのだった。
　片膝を突きながら身体を起こす。手中に収まっているモノの感覚を忘れぬよう強く握りしめた。
　――あれ？　おかしいな。うまく足に力が入らないや……視界も少しぼやけているし。
　不思議に思いながらも立とうとする――やはりダメだ。右手で掴んでいる旗を杖代わりに地面へ差す。
　右手だけじゃバランスがとれないな……？　左手、どこだ？　やはりおかしい。足に力が入らないし、左手は行方不明だし、視界もぼやけている。一体何がどうなったのだろう。
　…………そういえば、ここってどこだ？　雨に当たってるから外にいるのだろうけど、地面は……アスファルトっぽい手触りだな。
　遠くから何か甲高いサイレンのような音が微かだが聞こえてきた。
　必死に耳をかたむける。これは……救急車か？　でもなん――――すべてのピースが揃った。
　そうか、店の旗を立てようと外に出たところに大型トラックのタイヤが転がってきて、それに…………下半身を持っていかれたのか。なら腕は……あぁ、旗を持ってたから絡まって取れたのか。
　そう考えると納得がいくな。
　――強烈な痛みが全身を迸った。