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オセロ講義 中割りと連打編

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「えっとね、こうやって、オセロの盤面の全体を見ると、へこんでるところあるでしょ?そこに打つんだよ。簡単に言うとそれだけ。へこんでないなら基本うっちゃダメ。」
桜井の説明はそれだけだった。どうやら実際にやって見せた方が早いらしい。
桜井が凹みにうつ。3枚も返してしまったが、確かに真ん中の方が白くなって、外側に黒い石が残る形になった。なるほど、中に打ち込んで割るから中割りか。
「いっぺんに話すと混乱しそうだから黙ってたが、本当は、自分の石が真ん中の方に、相手の石が外の方にあった方が戦いやすいんだよ。その方が打てるところも多いからな。中割りはそのための技術といってもいいな。まあ、例外もあるが。」
「ん?なんで打てるところが多い方がいいんだ?」
俺としては普通に不思議に思ったところだ。怒られてでもわかんないところは聞けって小学校の時に先生に教わったからな。
だが、桜井はもちろん、森本も、驚いたような顔をしている。
森本は感心したように言った。
「なんか、意外といい質問が来たからな。ここ最近のお前のした質問の中で一番いい質問だ。」

森本が俺を誉めてくれた。褒められていないような気もしたが、どうやら俺は相当いい質問をしたらしい。
「よし、じゃあ桜井さん、悪いけど本気で打ってくれ。終盤まで進めた方が分かりやすいだろう」
「うん、わかりました。」
何やら桜井と森本が話し合っている。俺としては今まで手加減をされていたことに軽く悔しい思いをするが、これも俺のためにしてくれていることだ。文句があるなら勝ってから言うのが勝負の世界である。これは普通の喧嘩でも変わらない。



そして、終盤。
結論から言うと、俺の打てるところが全くなくなった。
俺も少なくとろう、少なくとろうと頑張っていたのだが、それでもそもそも少なくとること自体が難しくなり、たくさん取らざるを得なくなった。まあ、それは仕方のないことだが、そもそも、まだ勝負が終わっていないにもかかわらず、取れるところがなくなった。これは俺にとっても初めての状況だった。周りを見渡すと、ほかの不良たちも見物しに来ている。相当珍しいことなのだろう。
「こういう時、お、俺はどうすればいいんだ?」
森本に尋ねる。だが、森本の話をさえぎってほかの不良が答える。
「いいか、こういう時は相手に謝って何枚か好きなところをひっくり返せばいいんだよ。」
おお、と答える不良たち。さすがにそれはないだろう。
「んなわけあるか。」
やっぱり森本が否定する。だが、不良を一人しゃべらせてしまった代償は大きかった。不良というものは一人がしゃべると残りもしゃべりだすのだ。みんな好き勝手なことを言い出す。
「わかった、相手のすきを見て駒を奪えばいいんだ!」
「なんでお前たちは相手に謝ったり隙をみたりと、感情的なオセロをやろうとするんだ。」
「そうか!相手のすきを見て白い服を脱げばいいんだ!」
「それと勝敗に何の関係があるんだ。お前は試合の度に服を脱いでいくところがあるが、脱衣がうまくなってもオセロが強くなることはないぞ。お前はまず、最後まで全裸にならずにオセロをさすところから始めような。」
「相手の唇を奪うのは?」
「お前、実戦で相手の不良の唇奪うのか?」
さすがかき氷連合会。俺以上の馬鹿が当たり前のようにいる。森本が苦労するのもよくわかる。
「やっぱり、土下座だ!それしかない!」
「だから感情とかノリで何とかしようとするなよ!あとお前たちは土下座に頼りすぎだ!」
「ならもう引き分けでいいんじゃねえの?」
「おっと珍しくまともな意見だな。だがチェスならともかく、オセロでそれはない。」
「じゃあ、つまんねえ答えになるけど、パスとか?」
「…正解だ。つまんねえ答えで悪かったな。」





だが、いくら馬鹿でもこれだけの人数があれば、答えにたどり着くことも可能らしい。
森本が冷静になり、俺たちに説明する。
「ああ、打てなければ、パスだ。だから桜井さんが続けて打つことになる。桜井さん、お願いします。」
「はーい」
桜井が右端に駒を打つ。だが、それでも俺の打つべき場所がない。森本が俺に、残酷な真実を告げる。
「打てないときは、パスだ。打てるようになるまでずっとパスだ。いまあと4つ打てる場所があるが、打てるようになるまでパスは続くぞ、どこまでも。」
桜井がまた駒を置き、たくさんひっくり返す。だがそれでも、俺にうてる場所はない。パスだ。
またしても桜井が駒を置く。まるで決して止まることのない悪魔の行進だ。だが俺にはどうすることもできない。パスだ。
そして、桜井が駒を置き少し返す。だが、わずかな黒いコマの生き残りにでさえ桜井は情けをかけることはない。やはりパスだ。
そして最後に、桜井が何一つ表情を変えることなく。駒を置いた。残りの俺のコマも大量にひっくり返され、すべての盤面が埋まった。

森本が、背伸びをしながら説明する。
「まあ、分かったと思うが、打つところがないということは、変な場所にうたなくてはならなくなるし、最悪の場合が、今のようなパスだ。終盤でパスをたくさんすると、まず勝てん。だから、さっきの桜井さんがやってたような中割りってのを覚えていく必要があるんだ。まあ、簡単に極端に言うと、だが。」
そう森本が締めくくる。だが、桜井も笑顔で話してくる。
「でも、加賀谷君は結構うまい方だと思うよ。なんというか、勘は割と悪くないし、意外なことに、覚えも悪くないと思います。」
そのセリフ、に、森本も同意する。
「ああ。他の不良がひどすぎるだけな気もするが。少なくともかき氷連合の中で一番覚えが早いのはお前だ。だから調子には乗らないでほしいが、自信を持ってくれ。」
どうやら、本気で俺を評価してくれているらしい。俺としてもうれしい限りだ。

「ありがとう。俺もかき氷連合会の副総長、参謀役としての面目が経ったよ。」
そう俺がお礼を言う。だが、桜井と森本が固まっている。いや、二人だけではない。周りを見ると、不良たち以外、山崎たちまでもが動かない。時でも止まったのだろうか、いや、違う。外ではいまだに郷田の汚い文字が飛び交っている。どうやら、相当驚くべきことがあったらしい。みんな信じられないことを聞いたというような表情をしている。
代表したのか、この中で一番付き合いの長い、桜井が聞いてくる。
「え、ええと、加賀谷君?参謀って意味は知ってるかな?」
周りが何か望みを託したような顔で俺たちをみる。だが、参謀という言葉の意味か、使うことは多い言葉だが、
「すまん、自分で使っておいてなんだが、分からん!」
そういって頭を下げる。だが、周りもなんとなく納得したような表情をする。
同じく安心した顔で、桜井が質問を続ける。
「うん、そうだよね。じゃあ、この、かき氷連合会で、作戦とか、そういうの立ててるのは誰かな?」
「作戦か?まあ、大体は俺がたててるな。」
その瞬間、安心していたはずの桜井の表情が、ひどく何か恐ろしいものを見たような顔に変わった。森本も、信じられないものを見たような顔をしている。幽霊でも見たのだろうか。
「私は何も聞かなかった。私は何も聞かなかった。私は何も聞かなかった。」
そうぶつぶつつぶやきながら片膝をつく桜井を山崎が後ろから抱きしめている。どうやら俺が参謀をしているのが全く納得できないらしい。失礼な。少なくとも、連合会の中では徳川とどっちが上か争う程度の頭は持っているつもりだ。
結局、みんなが放心状態になってしまい、また下校時間も近かったこともあり、この日はお開きになった。

そして、その日の晩
「優斗、俺がかき氷連合会の参謀だって言ったらみんなに驚かれたんだが。そんなに驚くことか?」
「え!兄さん、副総長だけでなくて参謀やってるの!?嘘でしょ!?大丈夫?ちゃんとできてる?わかんないところない?読めない漢字があったら持ってきていいからね!」
優斗の驚きと心配する様子を見ると、どうやら俺が異常のようだった。誠に遺憾である。
…遺憾って何だ。
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