ゴーラーの不良たちがオセラーになったところで、ねえ?

氷室ゆうり

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頭脳労働者共

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カランカランと鈴が鳴る。ウエイトレスさんにあとで客が来ることを伝えて、禁煙席をもらう。ついでに二人分のドリンクバーとフライドポテトも注文した。あとは客の方を待つだけだ。
15分後あたりで向かいの席に座るものが現れた。東雲は嬉しそうに声をかける。
「よしよし、待ってたよ。うん、何から聞きたい?」
「何から、というか、何もかも、というか、とにかく今知ってること全部話してください。僕だっていろいろとやることがあるんですから。」
そういって、客人、加賀谷優斗はため息をついた。



「ええと、やっぱり本当なんですね。兄の言ってたことは。まさかとは思いましたが。」
「うん、あいつにしては珍しく正しく伝わってるね。曲解してもいないし、よかったよ。」
「それはそれで軽くパニックになりましたけどね。」
優斗は思う。不良が全員揃ってオセロって、冗談であった方がまだ理解ができただろう。
だが、東雲の表情は明るい。
「まあまあ、実際そんなことは分かり切ってるんだろう?実際森本君のこともちゃんと調べて報告してくれたんだから。なんというか、君って、本当に逸材だよね。ほんと、うちの高校に来てくれれば絶対引き込んだと思うよ。」
「そういうこと言うあたり、あなたも不良っぽいですよね。」
「ちがうちがう、遊び仲間としてさ。」
優斗はメロンソーダを飲み干す。
「ある意味こっちのセリフですよ。あんな不良高校に行かずに普通に優秀なところに行けばよかったのに。学年トップでしょう?成績。」
「残念ながら前回は2番でしたー。いるよ。賢い子も案外。」
「人生設計を間違えた人はほかにもいたんですね。」
辛らつだなあ、と、東雲は思う。まあ、事実だが。
「別に不良になりたいわけでもないし、いま不良かと聞かれると、どうだろう。桜井さん、ああ、学年トップの子ね。その子には不良とは違うかわいい子って言われたし。」
東雲は少し困ったような顔を見せる。すかさず優斗は攻めに転じる。
「ほらほら、やっぱり不良じゃないですよ!それにそれならいざって時に僕に頼ることないじゃないですか!」
「いや、だってほら、忙しいし、だってこの間ハニーマスタードの連中が来た時も大ピンチだったし。タバスコの瓶がなければ死んでたよ!」
「話をそらさないでくださいよ!」
そう優斗が言うが、東雲はここぞとばかりに優斗を責める。
「いや、あれ、どう考えても君だろう!なんか坊主のやつが俺に恨みがあって、よく考えたら前に君がひっぱたいた奴じゃないか!」
「あれだってもとはといえばあんたのせいでしょうが!」
そういって、割と頭のいいはずの二人は、みっともなく口喧嘩を始めてしまった。

30分後、
「はあ、もういいです。許します。今日はまだ聞きたいことがあるんです。」
優斗がそういった。
「それはこっちのセリフだと思うけど、まあいいや。郷田の予定表とかはさっぱりだよ。来週みんなを集めて話すってさ。実際あれは俺もどうこうできるとは思わないし。大人しくした方がいい。君も、いざとなったらうちの愛理にまた練習手伝ってもらえばいいんじゃないかな。君なら郷田に襲われることはないだろうが、まあ念のためだ。」
「しませんよ。前回のは特例です。それよりも、兄の言葉で気になったところがあったんです。」
「あいつの言葉を全部信じてたらそりゃどっかで矛盾するよ?どっか間違えて覚えてんだろ。あいつ。」
そう東雲がはぐらかすが、
「そんなことは分かってますよ!兄弟なんだから」
そう問答無用で反論を抑え込む。
「僕が森本さんから聞き出した情報は、なかなか出回っているものでもありません、森本さんが自分から言わなかったのは、まあ、うまいとはいえそこまでだったこともありますが。それでも、今の不良たちには大事な情報でした。もちろん僕が他人もらすようなことはありません。兄が誰かに話さないように、出発直前に伝えました。でも兄の話では森本を誘った段階ではすでにほかの不良たちにばれていた。なんでですかねえ。東雲さん。」
そういって、東雲をにらみつける。
「そんなことを言われても、困るなあ、別にそんなことを俺がやっても得はないし、やってないよ。」
そんなセリフを信用する優斗ではない。だが、確かにその行為は得どころか損の方が多いはずだ。
「別にあんたがやったとは言いませんが。まあいいです。なんか隠してることがあるなら早めに行ってください。」
「だから、俺は無関係だってば!それに何かあったらまず君に依頼するって、何もないって時はどうでもよかったからほっといたんだよ。」
確かに、自分に依頼をするのが一番手っ取り早いのも事実だ。
(てことは東雲さんは白なのかな)
ふと、スマホを見る。兄が帰りが遅いと心配しているようだ。
「仕方ない。今回はそれで引き下がります。でも、隠してるなら本当に早い方がいいですよ。うちの兄を出し抜けるとは思わないことです。」
「いや、出し抜くだけなら、君の兄ほどたやすい人間もいない気が・・・」
そう突っ込みを入れる東雲を無視し、優斗はファミレスを後にした。









「なんだ、優斗、夕食食べてきたのか。」
今日は両親ともいないので、食事は自分たちで何とかすることになっている。俺はインスタントラーメンで済ませたが、このあたりは兄弟の格差が出たということだ。インスタントの類を好む俺とインスタントを極力避ける優斗、相変わらず見た目も中身も全然違う兄弟である。だが、違うからこそいいのである。弟は頭がよく、俺は運動が得意だ。上下でバランスをとっているのだから文句もないだろう。
「うん、ちょっと友達と、」
そういえば、最近彼女ができたとか聞いた気がするな。ひょっとしたらその彼女とのデートだったのかもしれない。だが、ここではあえて聞かないのが、男の美学というものだろう。
「そうか、風呂沸かしておいたぞ、先に入るといい。」
「うん、ありがとう。」
本当によくできた弟である。暗算もできるし、漢字も書ける。アルファベットも全部かけるというのだから驚きだ。俺の周りでそれほどのことができるのは、一般人を除けば東雲ぐらいだろう。そういう意味ではあいつもすごいやつだ、今度優斗に紹介してみれば、案外話も弾むのかもしれない。今度東雲に話してみよう。
なんか風呂場からくしゃみが聞こえた気がするが、ひょっとして風呂がぬるかったのだろうか。まあ、寒ければ勝手に熱くするだろう。
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