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うん、どういうこと?
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そして、放課後。
不良たちが集まっている。人数は、どれどれ、多分250人くらいだ、どうやら何人かは真面目な高校生になってしまったようだが、ここにいる面々は不良というかっこいい響きを捨てることができなかったらしい。もちろん俺もそうだ。俺だってかき氷連合会の副総長だ。この程度でビビるわけにもいかない。学年ごとに前ならえをして待っているとその男は現れた。
その男は2センチ、いや、二メートルほどあるかもしれない大男だった。間違いない。郷田である。
郷田豪気、名前からして強そうだ。いや、間違いなく強い。教室から持ってきたのだろう。両手に机を二つずつ、計4つをもってきている。何のためかはさっぱり分からないが、力があることは確かだ。
「よし、全員集まったな。ふんっ!」
机を投げ飛ばす。20センチ、いや、20メートルは飛んだだろうか、不良たちの一部に当たりそうになり、せっかくの前にならえが無駄になってしまった。心なしか不良たちの表情も悲しそうに見える。
「くそっ!俺たちの努力がたった一人に…!」
「あいつ、本物だ…!本物の郷田だ!」
不良たちもざわざわし始める。だが、郷田の威圧感によってそれは強制的に大人しくなる。
郷田はその体にふさわしい威厳のある声で言った。
「おう、お前ら、さっきこの学校の最強になった郷田だ。よろしくな。」
その郷田の手からは赤い液体が流れていた。確かに何人かの有名な3年が来ていないと思ったが、どうやらすでにやられていたらしい。郷田はなおも続ける。
「それでだ。俺が楽しい学園生活を送るために、ルールを作ることにした。」
不良たちに緊張が走る。当然俺も体の震えがさっきから止まらなかった。スマホの通知が来ていたからだ。
そして、郷田はその恐ろしいルールを発表した。
「お前ら全員、当面の間、オセロを覚えろ。特に2年だ。一番強いやつを次の氷室高校のてっぺんとして、俺が認めてやるからよ。」
…全員の空気が固まった。
だが、固まったことで本来バラバラなはずの不良たちの考えもひとつになったらしい。
おそらく全員が同じことを思った。
(((・・・・・なんでオセロなんだろう)))
すると、おびえていた一年がポツリと声に出してしまった。
「なんで、オセロなんだろう。」
その言葉を聞き逃さなかった郷田は大声でその一年に
「おい!そこのお前!」
「ひ、ひいっ!」
ああ、死んだな、とみんなは思った。当然俺も思った。だが、
「いい質問だ!ああ、いい質問だ!全員拍手。」
どうやら褒められたらしい。ここで郷田に逆らうわけにもいかないのでみんなでその一年に向かって拍手をする。学校の校庭に250人の拍手が鳴り響いた。シュールである。
郷田はやめの合図をすると(なぜか指揮者の手をぐってやる奴だった)、話し出した。
「みんなも知る通り、俺には従妹がいる。いま大体小学生くらいだよな。」
そんなこと誰も知るわけがなかったが、みんな適当にうんうんと相槌を打つ。意外に思うかもしれないが、うちの不良は案外空気が読めるのだ。
満足そうに郷田は続ける。
「でな、さすがに子供の、しかも女に手をあげるなんてのは不良の道に反するってんだ。だから一緒に絵をかいたり、ブランコで遊んだりしたんだが、つまらなくなってきてな」
子供と遊んで大人の方が飽きた、と断言した。さすがは天下にあまねく不良である。飽きっぽさでもほかの不良とは比べ物にならない。
「だからせめてゲームがしたいといったんだ。そしたらあいつは将棋を持ってきてな。」
不良たちに激震が走る。一部の面々は頭を抱えてうずくまり、神に祈りを捧げ始めるものまでいた。無理だ、あんな漢字だらけのゲームできるわけがない。真面目な俺だってかろうじて玉ってのと金ってのが最近読めるようになったんだぞ!
「俺、漢字でよろしくって書こうとしてあきらめたことあるぞ。」
「てか小学生で将棋ができるとか、どんな天才だよ!郷田さんのいとこ!」
だが、そんな不良たちの反応は郷田としても想定内であったらしい。
「ああ、俺のいとこは異常なレベルで天才なのかもしれん。まあ、俺が力が強い分、従妹は頭がいいからな。俺はできないからもっと簡単なものをと頼んだ。チェス、囲碁、どれも俺にはまったく訳の分からんものだった。すると、従妹は呆れた顔で、オセロを持ってきてくれたんだ。」
おお、と歓声が上がる。確かに俺でもなんとかできるのがオセロだ。あとはすごろくもできる。ちなみに一番得意なのはじゃんけんだ。あっちむいてほいもできる。
「ああ、俺もオセロはできた。斜めの理屈を覚えるのに手間がかかって心が折れそうになったことも多いがそれでも俺は子供のころにオセロを克服したんだ。だが!」
郷田は声のトーンをさらに上げ、叫ぶ。
「だがな!俺は4回あいつと戦って一度も勝てなかった!5回勝負で五回目の最中にオセロ版をひっくり返して何とか引き分けにしたが、よくよく考えて気づいたんだ。これは、俺が求める勝利じゃねえってな。従妹にも悪いことをしたと謝ったさ。そして、再戦を約束してもらった。次の夏休み!そこで俺は従妹にリベンジを果たす!」
周りを見ると、何人かの不良たちは、感激して涙をこぼしていた。なんという男の生きざまだろう。俺も、なぜか泣きそうになった。
郷田はなおも続ける。
「だから!おれはもっと強くならなくてはならない!だが強くなるにはそれに見合うライバルが必要だ!お前ら!競い合って一番強いやつ俺と勝負だ!お前らだってそれぞれ派閥とかあるんだろう!一匹狼でも構わねえが。とにかく!当面は喧嘩禁止だ!勝負はオセロでつけろ!最後まで残ったやつは俺と勝負だ!三年でも、二年でも!勝てば次のてっぺんにしてやる。俺の話は以上だ!ちなみに破ったやつはぶっ飛ばす!」
郷田は朝礼台の前で一礼してそのまま去っていった。
不良たちが集まっている。人数は、どれどれ、多分250人くらいだ、どうやら何人かは真面目な高校生になってしまったようだが、ここにいる面々は不良というかっこいい響きを捨てることができなかったらしい。もちろん俺もそうだ。俺だってかき氷連合会の副総長だ。この程度でビビるわけにもいかない。学年ごとに前ならえをして待っているとその男は現れた。
その男は2センチ、いや、二メートルほどあるかもしれない大男だった。間違いない。郷田である。
郷田豪気、名前からして強そうだ。いや、間違いなく強い。教室から持ってきたのだろう。両手に机を二つずつ、計4つをもってきている。何のためかはさっぱり分からないが、力があることは確かだ。
「よし、全員集まったな。ふんっ!」
机を投げ飛ばす。20センチ、いや、20メートルは飛んだだろうか、不良たちの一部に当たりそうになり、せっかくの前にならえが無駄になってしまった。心なしか不良たちの表情も悲しそうに見える。
「くそっ!俺たちの努力がたった一人に…!」
「あいつ、本物だ…!本物の郷田だ!」
不良たちもざわざわし始める。だが、郷田の威圧感によってそれは強制的に大人しくなる。
郷田はその体にふさわしい威厳のある声で言った。
「おう、お前ら、さっきこの学校の最強になった郷田だ。よろしくな。」
その郷田の手からは赤い液体が流れていた。確かに何人かの有名な3年が来ていないと思ったが、どうやらすでにやられていたらしい。郷田はなおも続ける。
「それでだ。俺が楽しい学園生活を送るために、ルールを作ることにした。」
不良たちに緊張が走る。当然俺も体の震えがさっきから止まらなかった。スマホの通知が来ていたからだ。
そして、郷田はその恐ろしいルールを発表した。
「お前ら全員、当面の間、オセロを覚えろ。特に2年だ。一番強いやつを次の氷室高校のてっぺんとして、俺が認めてやるからよ。」
…全員の空気が固まった。
だが、固まったことで本来バラバラなはずの不良たちの考えもひとつになったらしい。
おそらく全員が同じことを思った。
(((・・・・・なんでオセロなんだろう)))
すると、おびえていた一年がポツリと声に出してしまった。
「なんで、オセロなんだろう。」
その言葉を聞き逃さなかった郷田は大声でその一年に
「おい!そこのお前!」
「ひ、ひいっ!」
ああ、死んだな、とみんなは思った。当然俺も思った。だが、
「いい質問だ!ああ、いい質問だ!全員拍手。」
どうやら褒められたらしい。ここで郷田に逆らうわけにもいかないのでみんなでその一年に向かって拍手をする。学校の校庭に250人の拍手が鳴り響いた。シュールである。
郷田はやめの合図をすると(なぜか指揮者の手をぐってやる奴だった)、話し出した。
「みんなも知る通り、俺には従妹がいる。いま大体小学生くらいだよな。」
そんなこと誰も知るわけがなかったが、みんな適当にうんうんと相槌を打つ。意外に思うかもしれないが、うちの不良は案外空気が読めるのだ。
満足そうに郷田は続ける。
「でな、さすがに子供の、しかも女に手をあげるなんてのは不良の道に反するってんだ。だから一緒に絵をかいたり、ブランコで遊んだりしたんだが、つまらなくなってきてな」
子供と遊んで大人の方が飽きた、と断言した。さすがは天下にあまねく不良である。飽きっぽさでもほかの不良とは比べ物にならない。
「だからせめてゲームがしたいといったんだ。そしたらあいつは将棋を持ってきてな。」
不良たちに激震が走る。一部の面々は頭を抱えてうずくまり、神に祈りを捧げ始めるものまでいた。無理だ、あんな漢字だらけのゲームできるわけがない。真面目な俺だってかろうじて玉ってのと金ってのが最近読めるようになったんだぞ!
「俺、漢字でよろしくって書こうとしてあきらめたことあるぞ。」
「てか小学生で将棋ができるとか、どんな天才だよ!郷田さんのいとこ!」
だが、そんな不良たちの反応は郷田としても想定内であったらしい。
「ああ、俺のいとこは異常なレベルで天才なのかもしれん。まあ、俺が力が強い分、従妹は頭がいいからな。俺はできないからもっと簡単なものをと頼んだ。チェス、囲碁、どれも俺にはまったく訳の分からんものだった。すると、従妹は呆れた顔で、オセロを持ってきてくれたんだ。」
おお、と歓声が上がる。確かに俺でもなんとかできるのがオセロだ。あとはすごろくもできる。ちなみに一番得意なのはじゃんけんだ。あっちむいてほいもできる。
「ああ、俺もオセロはできた。斜めの理屈を覚えるのに手間がかかって心が折れそうになったことも多いがそれでも俺は子供のころにオセロを克服したんだ。だが!」
郷田は声のトーンをさらに上げ、叫ぶ。
「だがな!俺は4回あいつと戦って一度も勝てなかった!5回勝負で五回目の最中にオセロ版をひっくり返して何とか引き分けにしたが、よくよく考えて気づいたんだ。これは、俺が求める勝利じゃねえってな。従妹にも悪いことをしたと謝ったさ。そして、再戦を約束してもらった。次の夏休み!そこで俺は従妹にリベンジを果たす!」
周りを見ると、何人かの不良たちは、感激して涙をこぼしていた。なんという男の生きざまだろう。俺も、なぜか泣きそうになった。
郷田はなおも続ける。
「だから!おれはもっと強くならなくてはならない!だが強くなるにはそれに見合うライバルが必要だ!お前ら!競い合って一番強いやつ俺と勝負だ!お前らだってそれぞれ派閥とかあるんだろう!一匹狼でも構わねえが。とにかく!当面は喧嘩禁止だ!勝負はオセロでつけろ!最後まで残ったやつは俺と勝負だ!三年でも、二年でも!勝てば次のてっぺんにしてやる。俺の話は以上だ!ちなみに破ったやつはぶっ飛ばす!」
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