ヨルム

黒とん君

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第2章 1

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 ヘルは、15歳。

 艶やかな黒髪に大きな黒い瞳、真珠のような白い肌がまぶしいとても可愛い女の子。

 でも、ヘルは館から一歩も出られない。

 そこは金持ちのおやじが集う高級娼館。

 パパはヘルよりも、極上の赤ワインとギラギラに装飾した剣が好き。

 ママはヘルよりも、ダイヤモンドの指輪やエメラルドのネックレスや真珠が散りばめられたカチューシャが好き。

 仕事もないのに買っちゃったから、借金が山のようになった。

 だから美しく育った12歳のヘルを、娼館に売ってしまった。

 娼館の男ども十数人が、泣き叫ぶヘルを犯した。

 それからは、夜な夜な醜いおやじどもに嬲られる。

 犯されるだけならいいほうだ。

 時にはおやじに犯されるのをみんなに見られる。

 時には鞭で思い切り打たれる。

 時にはみんなに恥ずかしいものを垂れ流すとこまで見られる。

 でも、ちょっとでも嫌がる素振りを見せて、おやじを怒らせるなら、もっとひどい目に遭わされる。

 殴られ蹴られ、のこぎりで全身を切られる。

 翌朝は魔法で治ってはいるけれど。痛みは心に一生残る。

 夜が来た。またおやじどもがやってくる。


 助けて・・・・・・

 
 ○                   ○                       ○


 魔法使いの一家を皆殺しにしてから、三ヶ月が過ぎた。

 さすがに王様に仕える魔法使いを殺しておいて、そいつの屋敷に居座るのは色々面倒なので、ごまんとあった魔導書と一緒にロキが見つけた没落貴族の廃城に移り住んだ。そして魔導書は全て読み尽くした。もちろん読むだけじゃない。ロキを相手に実践に励んだ。ロキは最高のスパーリングパートナーだった。時には鋭い反撃をしながらも俺の力を100%引きだしてくれた。的確なアドバイスも付け加えてくれる。

 今日は「地属性」の魔法のかなり上級のものを体得した。東京都の約半分の面積の森林に、震度5強の地震を起こしてやった。

 ロキは一流の教師でもあった。この国の言語(ポーナグドっていうんだが)を上手に教えてくれた。今は流暢に話せるし、翻訳魔法無しで読み書きもできる。

 そんなこんなで順調かつ平和な毎日が続いている。だがまさかこのままってわけにはいかないだろう。そろそろを押し付けて来る頃だと睨んでるんだが・・・・・・・ 

 ○                  ○                    ○  

 飯は三度三度自分で作る。ロキから金をもらって南に5キロの市場で材料を買う事もあれば、森に入って木の実やキノコを採る事もある。時には動物も狩る。さばき方も習ったが全然だめだ。結局魔法で切り分ける。酒も覚えた。最初はげーげー吐いたが今はバーベンってとうもろこしで作る酒が大好きで、毎晩飲んでる。
 
 さて、晩飯を食い終えて一杯飲んで、ぼおっとしていたある夜のこと。不意にロキが訪れた。そして命じた。
 「リュウゾウ、此処から北50キロにある娼館を潰してこい」。

 そうら来た。

 だけど思ったよりちゃちいな。

 「ロキ、やれって言われればやるけど、何で売春宿なんか潰さなきゃないんだ?」。
 「侮るな。ただの娼館ではない。この国の公爵や伯爵、大臣クラスのおやじどもが通う超高級娼館だ。当然護衛も腕利きの魔法使いが務めている。ボレム・デッカード以上の奴らが二十人以上はいると思え」。
 「・・・・・・わかった。だけどもうちょっと説明してくれよ。そこを襲撃するのには何か意味があるんだろう?」。
 「そう焦るな!言うよ。そこでおやじどもの相手をさせられているヘル・ブロンズバードという娘を助け出すのだ」。
 「どんな子だ」。
 「今年で15歳になる。母親の名はルイス。この国の貴族階級では最低の準子爵のご令嬢だった奴だ。かなりの美人だがお股はゆるゆるで、更にたちの悪いことに相当悪知恵の働く奴でな。公爵家の三男坊ジョエル・ブロンズバードを蕩らしこんで玉の輿に乗ったまでは良かった。だがな」。
 
 「宮廷内の勢力争いに敗れて、ブロンズバード家自体が取り潰しになってしまった」。

 「ジョエルとルイスはわずかな土地だけもらって平民に落とされた。だが二人とも贅沢な暮らしが忘れられなかった。借金を重ねてどうにもならないとこまで来てしまった。実にまずいことに、二人の間に産まれたヘルがそれはそれは美しい娘だった!ルイスは父親と懇意だった娼館の主人に取り入り」。

 「当時12歳だったヘルを、娼館に売った」。

 「・・・・・・」。

 目も眩むような怒りが頭を殴る。吐き気すらしてきた。俺は運良く売られずに済んだが、その子は・・・・・・その子は・・・・・・

 「可愛いヘルは店でダントツのNo.1だ!だが到底人間の扱いは受けていない。少しでも客に粗相をすればのこぎりで体を切り裂かれる」。
 「嘘だああああああ!売れてる子にそんな仕打ちするわけねえだろおおお!?」。
 「魔法使いが何人もいると言っただろう。その中には治癒魔法が得意な奴もいるさ」。

 ふざけんな。

 体は治っても痛みの記憶は残る。それは一生の心の傷になる。病まないわけがないほどの。

 とにかく俺に断るという発想はなかった。一日でも早く助ける!

 「わかったロキ。この仕事引き受けよう。だけどなロキ。その子だけでいいのか?」。
 「と言うと?」。
 「超高級娼館か知らんがそこで働かされてる子達は皆ヘルと同じような境遇の子たちだろう?何故助けるのはヘルだけなんだ?」。
 「心配するな!他の子達は全て私がより良い再起ができるようにしてやるから。お前はヘルを救う事だけ考えていれば良い」。
 
 へえ。

 わかってきたぞ。ただ可愛くて俺を遥かに越える苦痛を味わってきた子ってだけじゃなさそうだ。ロキにストレートに聞いてみた。
「ヘルは俺にとって特別な子なのか?」。

 ロキは直接には答えず、代わりにニヤッと笑った。その笑顔は肯定を意味していた。そういうことなら尚更だ。

 「OK!やるよ。だが二つほどお願いがあるんだが」。
 「二つだと!?ごちゃごちゃ注文の多い奴だな。まあいい言ってみろ!」。
 「ヘルの両親がどうにもむかつく。殺させろ」。
 「好きにするがいい。後一つは何だ?」。
 「これはこの件とは直接関係がないんだが・・・・・・悪いけどこれから俺のことは『ヨルム』って呼んでくれないか?」。
 「別に構わんが・・・・・・何故だ?」。
  「自分でもよくわかんねえんだけど・・・・・・やっぱり体くれてさ、俺に第二の人生を歩ませてくれてる人に対して、『ありがとう』って気持ちは持っていたいんだよ。だから、せめて『ヨルム』って呼ばれることで、彼のことは絶対忘れないようにしたいんだよ・・・・・・おかしいか?」。
 
 ロキは頭をこりこり掻きながら呆れたような苦笑いをしながら言った。
 「わかった。そうしてやろう。お前らしくていいと言えなくもないからな。だがな。これだけは言っとくぞ。お前は少々優し過ぎる。戦いで絶対に情けはかけるな!それをやったらお前を待つのは確実な死だ。わかったな?」。
 「・・・・・・わかった」。
 「よかろう。座れ。色々教えてやる」。

 その後、様々な情報をロキから仕入れてから俺は軽装で武器は何も持たずに出て行った。

 何処もかしこもめちゃくちゃだ。

 自分しか愛せない、親になる資格なんざこれっぽちもねえ奴がさくっと親になって。

 子供達が無残に殺されるか、生き地獄を味わう。俺の産まれた世界はもちろん此処でもそういうことがあるらしい。ふざけんな。こんな胸糞悪い話いい加減にしてくんねえかな。

 まあいいや。毒親に当たっちまった幸薄い子供を助け出し、親どもを血祭りにあげる機会に恵まれた。

 覚悟しやがれ。ただの殺し方じゃねえぞ。

 50キロはきつい。野生の馬を一頭呼び寄せた。すぐに来たけど、俺の顔がよっぽど怖かったらしい。手なずけるのに少し苦労した。
 
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