ヨルム

黒とん君

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第1章 3

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 「魔法使いの一家を殺せ。さっきヨルムが言ってた弟と妹、そして父親の三人だ」。

 またわけのわからん事を。

 何でそいつらを俺が殺さなきゃならんのだ。大体・・・・・・

 「ロキ、そんなの無理に決まってんじゃん」。
 「何故そう決め付ける」。
 「だって、連中魔法使いなんだろう?それも父親はどれぐらいの規模の国かは知らないけど、王様と名のつく人に仕えられるぐらい腕がいいんだろう?俺は魔法のまの字も使えない。秒で殺されるに決まってんじゃん!」。

 「その程度の奴を何で私が手間隙かけて異世界まで連れてきて、体をあてがったりするのだ?」。
 「ああ?・・・・・・とにかく無理なものは無理だし」。

 ロキは答えず、右の手の平をぐいっと俺に向けた。

 物凄い火炎が起こった!

 「ひぎゃあああああああああ!」。

 避ける事すらできない。悲鳴を上げながら両手を前に出した。もう本能だった。

 なんだ?どうなってんだ!?

 手が黒焦げにならない!

 火炎をがっちりガードしてるじゃねえか!

 「なんだあああああああああああ!?」。

 これ以上脳が破裂しそうな事が起こらないでくれ!裏声で悲鳴をあげる。
 
 炎が止んだ。

 いつものニヤニヤ笑いでロキがとんでもない事をほざいた。

 「ちなみに今のは2000度だった。さすがだな。何も教えていないのにこの温度を防御するとは」。
 「・・・・・・」。

 「リュウゾウ。思い出してみろ。親父に殴られていた時、お前は何を思っていた?」。
 「ただただあいつが死ねばいいと思った。内臓ぶち撒いて死ね!って思った」。
 「結果はどうだ」。

 「ああ!」。

 あの時。

 親父は腹が裂け、胃や腸がズルズルはみ出ていた。

 またまた震えが来た。

 親父は・・・・・・俺が殺したっていうのか!?

 「リュウゾウその通りだ!極限の怒りと憎しみがお前の魔法使いとしての力を呼び覚まさせたのだ。お前は王に仕える魔法使いどころの騒ぎじゃない、全ての魔法を自在に操る賢者になれる見込みがある!だからこそ私はお前にチャンスを与えたのだ!」。

 頭が痛くなってきた。

 だが考えねえと。うん確かにそうだ。何も持ってない奴のためにこれだけのお膳立てがなされるわけがない。信じられない話だが、俺は何か持ってる人らしい。

 その俺にロキは何をさせようというのか。

 現状こいつは全てを一度に教えるつもりはない。少しずつ明らかにしていくつもりだ。差し当たってはヨルムの家族の魔法使い一家を殺すって事らしいが、なんでだ?

 「わかったロキ。言う通りにやるよ。でもなんでその魔法使い一家を殺さなきゃないんだ?」。
 「あいつらは雑魚だが、その割にはいい魔導書を沢山持ってる。それらをお前に読んでもらおうと思ってな」。
 「ふっふざけんなあああ!そんな理由で人を殺せるわけねえだろおおおっ!?」。

 「連中がお前の親父以下の人でなし野郎どもだったらどうする?」。
 「・・・・・・何をやらかしてきたんだ?」。
 「父親は王に命じられた闘い以外にも罪のない人々を何十人も殺している」。
 「何故」。
 「魔法の開発と称しているが、そんなものは動物や捕らえた魔物で代用できる事だ。要するに人が泣き叫びながら死んでいくのを見るのが楽しくてたまらないサイコパス野郎なのさ。そしてヨルムの弟や妹もその父親の異常性を受け継ぎ、必要のない殺人を繰り返している。弟のダルムは雷撃の呪文を試すために幼い子供とその母親を殺した。それも母親の目の前で泣く子供を黒焦げにしやがった。妹のナイザは気圧変動によるかまいたちの魔法を試すために浮浪児三人を『お菓子を食べさせてあげる』と騙して連れだし、八つ裂きにした。ヨルムはまともだったんだけどなあ。どうだリュウゾウ、闘志が湧いてこないか?」。
 
 「制裁って意味合いもあるんだな・・・・・・ああ、確かにムカつくな。やるよ」。
 「そう来なくっちゃ!いいか。お前と奴らでは潜在能力がまるで違う。お前が念じた通りに奴らは死ぬ。さあ行ってこい!」。

 得体が知れない女の口車に乗せられてるだけ。という気がしないでもなかった。

 だが、俺はヨルムの体を拒んだ時に見せた、優しい笑顔を信じる事にした。

 連中の家はヨルムの体が知っていた。彼が持っていたらしい籠を持って、東に2キロさくさくと歩いていった。


 ○                      ○                   ○


 都合のいい事に、屋敷の前の野原にダルムとナイザがいた。

 ダルムは15歳ぐらい。ナイザは13歳ぐらいか。二人とも金髪で、可愛い顔立ちだ。だがその目つきは恐ろしい程に陰険さと驕りに満ちていた。そして何人もの人を殺してきた凄みがあった。

 ダルムが怒鳴った。
 「遅いぞヨルム!薬草採るのにいつまでかかってんだ!」。
 「ねえよそんなもん」。

 俺はダルムに籠を飛ばした。球速160キロで。

 「ぶべっ!」。

 もう舐めきって自分に刃向かうなんて完全に想定外だったんだろう。籠はダルムの顔面にどストライク。どでんと無様にこけた。

 すぐに立ち上がったダルムの顔にはもう殺意しかなかった。手を広げ呪文を唱えようとした。だがナイザが叫んだ。
 「兄さん気をつけて!こいつヨルムじゃない!」。
 「何だと!?」。

 へえ、妹の方が勘はいいようだ。まあ無駄だけど。

 「体はヨルムだけど、別の何かが乗っ取ってる!」。

 「ピンポーン!」。

 俺は笑いながら言った。ああ、こっちじゃ通じねえかw

 ダルムとナイザは身構え完全に臨戦体勢に入った。呪文を唱えはじめる。ダルムの全身からバチバチと火花のようなものが弾け始めた。明らかに雷撃だ。それに俺の後ろの気配が妙だ。ナイザが気圧をいじっているのか。

 おせえよ。こんなんじゃ俺でも楽勝だ。根拠はないがそう思った。

 「雷撃ヴォルド!」「気裂ティアー!」と奴らが叫ぶ前に俺は念じた。

 【首あぼーん】。

 ダルムとナイザの首が5メートル吹っ飛んだ。

 首の付け根から鮮血が噴水のように噴きでる。

 どさっという音を立てて、奴らの首が地面に落ちるのと、胴体が倒れるのはほぼ一緒だった。

 二人とも大きく目を見開き、信じられないと言いたげな表情で死んでいた。

 同時に二人片付けられたのは運が良かった。後は父親だ。

 「ほう。中々やるな小僧」。

 ギョッとして振り向く。

 痩せた背の高い、髪の毛をオールバックにした男が俺の後ろ約20メートルの所に立っていた。

 ピンと反り返った口髭。情の無さを感じさせる薄い唇。子供達の二乗をいく冷たい凄みを感じさせる目。

 間違いない。ダルムとナイザの父親ボレム・デッカードだ。

 俺の頭にやるせない怒りが沸き上がってきた。だが努めて冷静さを保って聞いた。

 「お前の子供だろうが。何故見殺しにした?」。
 「勘違いしていたようだが、俺の目にはダルムもナイザもヨルムと五十歩百歩のできそこないだったのだ。折りを見て三人とも殺して、新しい子供を作るつもりだったのだ。だがその必要もなくなった」。
 
 怒りは増し少し気が遠くなった。だが思考力を保たねば。更に聞いた。
 「必要がなくなった?どういうことだ。後継ぎは必要なんじゃねえの?」。
 「誰が乗っ取ったのかは知らんがとんでもなく素質のある奴だ!まだまだ粗削りだがな。俺から学べ!一人前の魔法使いにしてやる!」。
 「そいつはありがたい申し出だ。じゃあお前の家にある魔導書全部よこせ!」
 「何ぃ?」。

 ボレムの頬に冷たい怒りが張り付いた。だが俺は構わず言った。
 「そうするなら命だけは助けてやる」。

 「グハハハハハハ!」。

 ボレムが下品に笑った。だが狂気すら感じさせる目付きで叫んだ。 

 「中々面白い冗談を言う奴だ!これが最後の勧誘だ。俺の弟子になれ。それしかお前に生きる道はない!」。
 「面倒くせえなあ。四の五の言わずにかかってこい」。

 ボレムの細い目がかっと見開かれた。無詠唱で叫んだ。
 「炎弾(フレイムパレット)!」。

 燃え盛る炎の球が五発襲い掛かってきた。さすがは王に仕える魔法使いだ。息子達よりはるかに強力。だがな。

 さっきロキが放った炎に比べれば。

 線香花火なんだよ!

 俺は片手で受けた。炎の弾はすぐに消えた。「何だとおおお!?」ボレムの顔に恐怖が浮かぶ。後は首あぼーんすれば終わりだ。だがふと真似したくなった。同じものを造ってみたくなった。

 念じた【炎の弾、いでよ!】。

 「どああああああっ!」。

 俺の悲鳴だ。ボレムの倍以上の炎弾が無数に飛んでいくじゃねえか!?

 ボレムは断末魔をあげる時間すらなかった。跡形もなく消滅した。

 
 初戦闘はあっけなく終わった。

 この次はこう簡単にはいかない。あの女凄まじい強敵と戦わせるつもりだ。もう火を見るより明らかだった。

 そのためにも魔導書とやら。読んでおかないと。

 文字の方は心配ない。言葉と同じでロキが何とかするだろう。さっきからこの世界の奴らのわけわかんねえ言葉の意味がサクッとわかるし、日本語を話すつもりで喋る言葉が勝手に翻訳されてこの世界の言葉なってるし。

 急ごう。俺はヨルムの体が命じるままに歩いていった。


 
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