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【第一章】門司城攻防戦2
しおりを挟む「己謀られたか! 退け退け」
大友義鎮が撤退の合図を出したが、時すでに遅かった。
「敵が退却してゆきます。追撃しますか」
「むろんじゃ、馬引けい! わし自ら討ってでる。皆我に続け」
小早川隆景は自ら敵陣の中へ斬りこんでいった。この日の戦いで、大友方は竹田津則康、吉弘統清、一万田源介、宗像重正、大庭作介ら歴戦の勇将が次から次へと討ち死に。門司城総攻撃は無残な失敗に終わったのだった。
一方門司沿岸にも毛利軍が上陸、大友軍と激戦を繰り広げることとなった。
「我こそは毛利家家臣浦宗勝。武勇ある者は前へ出でよ、一騎打ちを所望いたす」
気合いの入ったその一声に、大友方の陣営はしばし静まりかえった。
「どうした! 大友の御家来衆は皆腰抜けばかりか」
浦宗勝が、からからと笑ったその時だった。
「拙者がお相手致す」
「ほう名乗られよ」
「大友家家臣伊美弾正!」
「面白いその首もらった!」
浦宗勝が振り下ろした槍を、伊美弾正が頭上すれすれで同じく槍で受け止める。両者は海を背にし、砂浜を馬で疾駆しながら渡り合うこと数合、やがて浦宗勝が伊美弾正に体重をかけるようにして覆いかぶさり、両者ともに落馬。砂浜を転がりながら、互いに相手より有利になろうと必死にもがくうち、大波が押し寄せ二人の姿は見えなくなってしまった。
両軍の兵士がしばし沈黙し、かたずを飲んで見守る中、不意に波の上に顔をあげたのは伊美弾正だった。大友方から歓声があがったのも束の間だった。その首を槍の上に高々と突き上げ姿を現したのは、毛利方の浦宗勝だったのである。
「敵将討ち取ったり!」
この一声で大友方の歓声はたちまち悲鳴に変わった。これに勢いづいた毛利軍は大友勢を圧倒、大友勢はここでも毛利勢に完敗したのだった。
以後、戦線はこう着状態に入った。十月二十六日、意を決した大友義鎮は和布刈神社の裏手から門司山麓へと大軍を動かした。大友軍は臼杵鑑速、田原親賢、吉弘鑑理等歴戦の勇将及び知将総動員しての大陣容で大将は戸次鑑連だった。一方迎え撃つ毛利方の大将は小早川隆景である。
「敵の大将は何者か」
隆景はやや驚いた様子でかたわらの家臣に尋ねた。
「はっ戸次鑑連とか申す者でござる」
「うむ、数千の軍勢が一糸乱れぬ統制で動いておる。相当な将と見た。それはいかなる者か?」
「それが若い頃不慮の事故にあい歩行に支障をきたし、輿に乗って采配をふるっておるとか」
「なんと、かほどの将が歩くことできぬとな」
隆景はいっそう驚きを強めた。
「なんでも戸次鑑連と申す者、若い時分突如雷にあい、とっさに愛刀をもって稲妻を斬り捨てたとのことでございます。以来歩くことできませぬが、それでも数多の合戦で武功をたて、大友家の重臣の中で筆頭の地位にいるとか」
「うぬぬ、今日は我等にとり大変な戦になるやもしれぬのう」
隆景の予想通りこの日の戦は毛利軍にとって不利な戦となった。大友軍は千丁の鉄砲隊を横一列に並べ毛利軍めがけて発射し、毛利軍は砂浜に足をとられて動きが不自由なところを、大友軍の狙い撃ちをくらった。たちまち戦場に悲鳴と肉の弾ける音が交差した。
「ひるむな! 火縄銃は一度発射すれば次の発射まで時間がかかる。その間に突撃するのだ」
隆景は兵士に必死に下地したが、鑑連はこの弱点をすでに補う術を知っていた。
「鉄砲隊引けぃ! 弓隊前へ!」
八百人の弓隊が最前列に並び一斉に弓を発射した。弓の先に全て文が結ばれていた。
『参らせ候大友家家臣戸次鑑連』
「己我等をたばかる気か! 進め進め大友軍を一人として生かして帰すな」
普段冷静な隆景もやや興奮しながら命令を下した。その時だった。
「鉄砲隊前へ!」
再び鑑連の命令が飛んだ。鉄砲隊の弾込めにかかる時間を弓で補うという作戦だった。毛利勢は再び戦場に無残な屍をさらすことになった。
結局この日の合戦は、毛利勢が総退却することによって幕をおろした。勇将戸次鑑連の存在を毛利軍は心胆に刻むこととなったのである。
だが道雪の奮闘をもってしても、大友軍は毛利軍に致命的な傷を加えるには至らなかった。十一月五日、ついに大友宗麟は門司城攻めを断念。夜陰に乗じて撤退を全軍に命令した。だがこの動きはすでに毛利方の知るところであった。小早川隆景は浦宗勝、野嶋氏、来島氏ら水軍衆を引き連れ、黒田原(京都郡勝山町)から国分寺原(京都郡豊津町)あたり一帯で大友勢を待ち伏せていた。再び大友軍に危機が迫ろうとしていた。
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