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愛歌から見たお話
母親
しおりを挟む「ほら!女の子ですよ!」
「頑張りましたね!」
元気な産ぶ声に、やっと生まれてきてくれたのかと安堵し、力が抜けて息を整えるのもしんどい。
出産でもうヘトヘトの私の元へ看護師さんは赤ちゃんを抱かせてくれた。
お世辞にも生まれたばかりの赤ん坊は可愛いとは言えないのに、愛おしさが込み上げてきた。
あぁ…やっと会えた。
「愛歌…ありがとうっ!」
泣きながら喜んでくれる夫に陣痛や出産は想像を絶する程大変だったが、頑張って良かったと思った。
「名前は決めたの?」
この大きな病院に勤める湊音は自分の休憩時間にわざわざ立ち寄ってくれたらしい。
「もちろん!」
「へぇ。どんな名前?」
勢いよく返事する私に、湊音は珍しく興味を示した。
ペンを滑らせ、紙に書き出す。
「和歌ちゃんか。いい名前ね。」
微笑む湊音に私も笑顔を返す。
「でもまさか愛歌が香月と結婚して、子どもまで設けるなんてね…。」
世の中狭いわ。
呟く湊音に私も過去を思い出す。
1つ下の夫は、香月卓矢。
湊音と同じ医学部出身で、勤め先も同じ後輩だ。
結構仲の良いふたりは、まさかお互いの友人・恋人が自分の知人だと知った時にはかなり驚いていた事を思い出す。
夫となった卓矢に出会ったのは、通勤中の電車内だ。
初めはちょっとカッコいいかも、とたまに出会う通勤の目の保養にしていただけだ。
そんな日常が変わったのは、台風直撃の影響により電車の動かなくなった8月下旬。
SNSを通じ会社から悪天候の為、お休みにします、との連絡が入った。
せっかく休日になったは良いが、何処かに出掛けようにも電車は動かない上に、バスやタクシーには長蛇の列。
おまけにこの天候じゃ出掛けようにも出掛けられない。
幸いというべきか私が停車した駅は新宿だ。
朝ご飯を食べ損ねたので、まずは腹ごしらえだと思い入ったカフェ。
あ。
案内されたカウンターの隣。
そこに座っていたのが卓矢だった。
こんにちは、貴女もですか?
まさか、向こうから声を掛けられるとは思っていなかったので最初は面食らったが、私も答えた。
私の好みはきらきらした王子様系だが、この人は男らしい色気のある人だと思った。
好みの顔では無いにしろ、やっぱりカッコいい。
聞けば湊音と同じ病院に働いている医師だと知り、会話は広がった。
この時私は湊音から。
「同じ病院内でも知ってる人は知ってるけど、知らない人は最後まで知らないのよ。」
過去にそう言っていた事を覚えていたので、敢えて湊音の名前は出さず、知人が働いているとだけ伝えた。
会話の楽しい人だと思い、この時はそれっきりで別れた。
しかし会う度に声をお互いに掛け続けた事から連絡先を交換し、休日にも出掛ける様になった。
付き合う様になり、結婚する事に。
湊音と卓矢の対面時にはお互い、かなり驚愕していたのを今でも思い出せる程に面白かったなぁ。
「なに笑ってんの?」
「ううん。別にぃ~。」
思い出し笑いをする私を湊音は怪訝な表情で見てくる。
「歩だけじゃなくて愛歌まで母親にねぇ。」
私も年を取る訳だ。
湊音のその言葉で、互いに顔を見合わせて笑った。
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