勇者と魔王、職業ハーレム ~神に選ばれし僕の種は、魔王軍の国家資源になりました~

まけない犬

文字の大きさ
3 / 22

ヴァルエンツァ魔王軍ハルト専属メイド隊

しおりを挟む
 リオネス王国の南西、およそ二十キロに位置する断崖“エローザ岬”。
 海神の怒りを鎮めるため、巫女みこエローザが身を投げたという伝承が今も語り継がれている。

 その先端に、まるで空から突き立てられたように浮遊城ザイゲンシュタットが浮かんでいた。
 三千メートルの高さを持つひし形の巨体は、中央で幅二キロを超え、上部には城と三本の物見やぐら――避雷針も兼ねた塔がそびえ、最高点で九百メートルに達している。

 下方は荒々しい岩盤がむき出しのまま垂れ下がり、その底部が海面にわずかに着水していた。
 外からは巨大な岩塊にしか見えないが、その内には幾層にも重なる構造体が隠されているという。

 岬の断崖と高さをそろえるように、その岩盤の途中、百三十メートル上に“最深部ゲート”が設けられ、一本の橋が岸との間を結んでいた。

 周囲には門番や見張りが配され、荷馬車が行き交う交易拠点として機能している。
 黒と赤を基調にしたよろいまとった女兵士たちが、リオネスから来た商人たちと短く言葉を交わしていた。

 橋を渡り、岩盤内部の通路を抜けた先には、広大な城下町が広がっている。
 高所ゆえに空気は澄み、見下ろせば遥か下に海面が揺れていた。
 地上から見上げれば、浮遊城ザイゲンシュタットは常に雲の層に包まれているはずだが、ここには日差しが届いている。

 本来なら、潮風が家々の屋根や壁を腐食させてもおかしくはない。
 だが、魔力によって制御された巨大なエアフィルターが空気中の塩分を分離しており、磯の匂いすら感じられなかった。

 石造りの街並みはどこか乾いており、空の上にあるとは思えないほど落ち着いた空気を保っている。

「良い天気だ。我が故郷がはっきりと見える。シャーロットも同じ空を見上げているのだろうか?」

 城壁の外縁部、風を遮るものもない細い足場に、ハルトは静かに立っていた。
 その先は空と海しかなく、一歩でも踏み外せば落下は免れない。
 それでも彼は、空を見上げるようにして、つぶやいていた。

 勇者ハルトは、若く美しい元婚約者の顔を青空に思い描くが、ハッと我に返る。

「いかん、これは浮気か? そうかもしれないが、我が伴侶は妬きもちの一つも妬いてはくれないだろうな」

 そう口にしながら、彼の脳裏に浮かんだのは、かつての婚約者ではなかった。
 黒鉄の角、冷たい眼差し、吐息の匂い――妻の面影が、まぶたの裏に鮮やかに焼き付いていた。
 元婚約者シャーロットの姿は、もはや記憶のもやの中だ。

「さて、城に戻るとするか」

 城下町を囲む城壁は、浮遊岩盤の縁に沿って建てられている。
 ハルトは、監視塔のついた裏門を通って中へ入った。

 石畳の路地を抜けて、中央にそびえるザイゲンシュタット城へと向かう。
 城門の脇に立つ兵が敬礼すると、彼は軽く会釈を返して中へ入った。

 愛する妻が待つ玉座の間の前に立つと、自らの手で扉を開ける。

「「「「おかえりなさいませ、勇者さま」」」」
 
 玉座の間の壁際に並ぶメイドたちが、一斉に頭を垂れる。
 彼女たちは左右に二列、等間隔に並んでいる。
 いずれも魔王フィデリアに仕える、魔の血を引く眷属けんぞくたち。
 見目麗しい少女ばかりで統一された、異様なまでの整然さが場を満たしていた。

「おかえり、我が夫よ」
「ああ、ただいま。フィデリア」

 銀灰の肌に銀の瞳孔、白銀の髪を垂らした浮遊城ザイゲンシュタットの主――魔王フィデリアもまた、ハルトの到着に応じて顔を上げた。

 巨大な玉座に腰かけ、頬杖ほおづえを突きながら、サイハイブーツに覆われた脚を優雅に組んでいる。
 その姿勢は明らかに尊大だが、高位魔族エピックデーモンの血を引く者にしては、声をかけるだけでも十分な誠意と言えた。
 ハルトに対してなにがしかの“気遣い”があることは、皆に伝わる。

 この広間に玉座は一つだけ。魔王のための、絶対権威の象徴。
 ハルトとてそこに座ったことはない。
 フィデリアは案外許すかもしれない――が、彼に試す気はないし、それを勧める者もまた、存在しなかった。

「勇者さま、こちらをどうぞ」
「ああ、ありがとうミナ」

 最近になって、ハルトのための椅子が用意されるようになった。
 装飾の一切ない簡素な造りだが、材や作りは確かなものである。

 かつてはフィデリアの傍らに立ったまま、他愛のない会話を交わすのが常だった。
 それが今では、椅子に座り、ゆるやかに時を過ごす関係へと変わってきている。

「まぁ、散歩に出かけていただけだよ。ただいま、という程でもないんだけどね」

 浮遊城ザイゲンシュタットの外縁は、直径およそ二キロほど。
 街として考えれば手狭だが、軍事拠点としては破格の広さを誇る。

 もっとも、ハルトの脚にかかれば、その端から端までの距離も、軽い散歩程度の話だった。

「それにさ……」
 
 ハルトは椅子に腰を下ろしつつ、壁際に整列するメイドたちへと目を向ける。

「毎回これ、ちょっと大げさじゃないか? 帰ってくるたびに、ずらっと並んで頭を下げられると落ち着かないよ」
「何を言っている。こやつらは貴様の為に用意された、専属のメイドたちだ。主である貴様を出迎えるのは当然であろ? 我が夫よ」
「ありがたいけどさ……百人は多くない? 一人か二人で十分な気がするんだけど……」

 言いよどむハルトに代わり、秘書であるミナが静かに口を挟む。

「正確には三百十六名です。二十四時間体制のため、三交代制でシフトを組んでおります。現在ここにいるのは、そのうちの百名です」
「はぁ~……」

 ハルトは重たいため息をひとつ。

「知っているよ、だからますますって話だろ? 一日中、稼働する必要あるかい? 僕だって日の三分の一は寝ているんだぞ?」
「いついかなる時でも、勇者さまが“催された”際に、即座に“受精”できるよう体制を整えております」
「受精てっ! だからそうだとしても百人は多いでしょ!」
「我が夫よ、何が不満なのだ? 浮遊城ザイゲンシュタットに在住する、選りすぐりの八千名の“受精体おんな”たち。その中からさらに精鋭を選んでいるのだぞ?」

 ミナが銀色の眼鏡を光らせ続ける。

「ヴァルエンツァ魔王軍の親衛隊。その多くが再編され、組み込まれております。我々の美と強さの結晶――それが“勇者専属メイド隊”なのです」
「いやいやいや、僕の話ちゃんと聞いてる!? 質の高さとか関係ないの! 多いって言ってるの!」
「……間引けと、言うのか?」

 フィディリアの声が静かに低く落ちる。
 ハルトはビクリと肩をすくめた。

「我が夫よ。こやつらは、貴様のために誇りを持って、この任に就いておるのだぞ?」
「う……間引くとか、そんな言い方されるとさ……それはそれで困るというか……」

 一瞬たじろいだハルトだったが、それでもなお、口を開いた。

「怒ってはいない、怒ってはいないんだが、トイレにまで着いてくる娘もいるんだぞ? 少々やりすぎではないか?」
「やりすぎ? 何がだ? 貴様のメイドだぞ?」
「ん? トイレだよ? 僕が用を足しに行ったら、すぐ後ろにピッタリだ」
「……何がおかしいのだ? 専属とは言うたが、当然ながらわらわの身の回りの世話も兼ねさせておる。が、あれらはあくまで貴様の専属だ。何ら不自然なことではあるまいに」

 ハルトは額を押さえてうめいた。

「魔王さま、勇者さまは平民のご出身ですから」

 ミナが横から静かに補足する。

「ふむ」
「おおう!? そうだよ、僕は平民出身さ。“貴族さま”は、用を足したあとにメイドに“拭かせる”とでも言うのかい?」
「そうだが?」
「えええぇぇええっ!?」
「我が夫よ、よもやだが……わらわが“下”の処理を自分でしていると思っていたのか?」
「と、いいますと!?」
「わらわは、そんなことせぬぞ。それは下賎げせんの者がすることだ。わらわは“王”だぞ?」

 フィデリアはふっと脚を組み替え、この場にいる存在すべてを見下ろすようにして言った。

「うそでしょ!?」

「嘘ではございません。“グルーム・オブ・ザ・ストゥール・メイド”――専用の役職名も存在する、由緒正しく、たいへん“名誉”な役目です。私、ミナ・クロイツナーですら、その栄誉を拝命するには至っておりません」
「平民出だろうが関係あるまい。いまや貴様は我が夫、我が半身なのだ。存分に――“拭かせる”がよい」

「拭かせるかっ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

処理中です...