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第3話 鳴き声の正体

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「リーンハルト様、今回のシルバーウルフの中に上位種が1匹います。戦闘は長くなりますので気をぬかずにいてください」とマイヤーが小声で話してくる。
「わかった。二人のそばを離れないようにする」
ジョルジュも剣を手に持ち周りを警戒しはじめる。

よく見ると1匹だけ一回り大きいサイズのシルバーウルフがいる。あれが上位種なのだろう。
1匹、1匹と倒して最後に上位種のシルバーウルフのみになり睨みあう。

「なんか、このウルフ時間稼ぎしているような・・・」と思っているとシルバーウルフの体が徐々に魔法を纏っていく。
「風魔法の上位だ。より早く移動攻撃してくるぞ、これは厄介だ」マイヤーがつぶやく。

するとカイル隊長の魔法で周りの木々の枝が伸びてシルバーウルフを絡めていく。
シルバーウルフも風魔法で枝を切り刻んでいくが、それよりも早く枝がどんどんシルバーフルフに絡まり動けなくしていった。

「ハリス、シルバーウルフの頭を魔法でぶっ放せ」とカイル隊長から指示が出る。
騎士の一人が氷の塊をシルバーウルフの頭めがけて拳銃のように連射する。いくつか氷の塊がシルバーウルフの頭に命中し動かなくなった。

「油断するな。まだ生きているかもしれない。リック、風魔法で首を落とせ」カイル隊長から指示が飛ぶ。
シルバーウルフの首が落ちたところで皆がほっとした。

「クリスフォード様、今日は樹海の様子がおかしいです。昨日中腹に行った者たちも気になります。至急、砦に戻り報告して中腹に行った者たちに応援部隊を出したいと思います」
「わかりました。砦に戻りましょう」とクリス兄様が同意する。

「シルバーウルフを回収して砦に戻るぞ。リーンハルト様、少し早歩きで戻ります」
「僕は見ていただけで戦闘したわけではないから大丈夫です」
「わかりました。周りの警戒は怠るな。砦に戻るぞ」と皆、急ぎ足で来た道を戻り始めたとき、遠くからキャンキャンと鳴き声が聞こえてきた。


キョロキョロと見まわすが周りの人たちの反応がない。どうして聞こえないの。
こんなにキャンキャン鳴き声がするのに・・・

僕がキョロキョロしていることに気づいたマイヤーが
「リーンハルト様、どうされましたか」
「さっきから、キャンキャン鳴き声が聞こえてくるのだけれど、みんな無視しているの」
「鳴き声ですか。私にはまったく聞こえないのですが・・・」
「キャンキャンと、こんなにはっきり聞こえるのに」

「リーンハルト様、どうされました」とカイル隊長も聞いてくるので、マイヤーに言ったことを話す。
「どちらの方角からですか」
「たぶん、この道の奥から」と答えるとみんなも立ち止まっていた。

カイル隊長は少し考えてから
「砦に引き返すのをやめて、少し先に進んでみましょう。何もなければ砦に引き返すことでよろしいですか」
「いいの。みんなは聞こえないのでしょ」
「ええ、ですが、私の感が行った方がいいと。変更で悪いがもう少し先にある広場まで行って何もなければ砦に戻ろう」

もう少しで広場につくというところで先頭の騎士が立ち止まり、無言で隊長に合図を送る。隊長が先頭の騎士に近づき広場の方向を見ると驚きの顔が見えた。
隊長が皆に来るように手招きする。

音をたてずに広場が見える位置にマイヤーが誘導してくれて行くと広場に熊よりもさらに一回りは大きい真っ白い魔獣が血を流して横になっていた。
その横に子供と思われる子犬サイズの魔獣がいる。

「あの魔獣の名前は」僕は隣にいるマイヤーに小声で聞くと
「フェンリルです」
思わず叫びそうになって、慌てて口を手で塞ぐ。

「フェンリルがなんでこんな浅瀬にいるんだ。樹海で何が起こっているのか。もしフェンリルが生きていると私達でも危ない。子供もいるからより狂暴になるぞ。フェデリック、フェンリルは生きていると思うか」と小声でカイル隊長が隣にいた人物に問いかけている。

「いえ、生体反応はないので死んでいるかと。他の魔獣の気配も近くに感じません」
「子供のフェンリルは生きている。気を抜かずに広場に行くぞ」

先程、シルバーウルフと魔法で戦闘したハリスさんやリックさんが先頭になり広場に進む。子供のフェンリルが気づきこちらを威嚇する。
ハリスさんたちが対応しようと呪文を唱え始めた。


「待って、この子怪我しているよ」
僕はとっさにマジックバックに手を伸ばしたらリンゴが出てきた。
・・・いやポーションが欲しかったんだけど、恰好がつかないからリンゴを子フェンリルの方へ投げてみた。

すると威嚇していた子フェンリルはリンゴをクンクンした後で食べ始めた。リンゴで正解だったのかと僕は驚きながら、もう一度マジックバックに手を伸ばしたら今度はポーションが出てきた。

リンゴを食べ終わった子フェンリルの警戒がすこし緩んだところで
「君(子フェンリル)の怪我を治したい。この瓶の液を傷口にかけたら治るから横になってくれないか。怪我が治ったらまた果物をあげるよ」
子フェンリルは僕をじっと見つめ、諦めたようにゴロンと横になった。


話が通じた。高位種の魔獣は知能が高いみたい。
このあたりは前世の異世界小説あるあると同じようだ。僕は子フェンリルに近づきポーションを傷口にかける。
子フェンリルは傷が染みたのかキャンキャンと鳴くがすぐに傷口が塞ぎ立ち上がった。

「よく我慢できたね、えらいぞ。約束通り、果物あげるから待ってね」
マジックバックから果物を取り出し子フェンリルに与える。

「ハルト、なんで子フォンリルと会話しているんだ」とジェラ兄様が興奮しながら聞いてくる。
「会話してないよ。ただ僕が一方的に話しかけているだけ。でも子フェンリルは理解しているみたい」マイヤーとウィルソンは僕の後ろで複雑そうに見守ってくれているが、カイル隊長たちは死んでいる親フェンリルの状態を見ている。

「これは大きな爪痕だ。いったいどんな魔獣と戦ったのだろう。子供がいたから思い切り戦えなかったかもしれないな」
「リーンハルト様、子フェンリルにこのまま置いておけないので我々が回収すること、そのうえで子フェンリルには樹海の奥の自分たちの場所に戻るように説得してください」

「えー、無理でしょ。まぁ、話してみるけれど」子フェンリルはすでに果物を食べ終わっていたため話かけてみた。
「フェンリル君、君の親のフェンリルをこのままここに置いておくことはできないから我々が回収していくことを許してほしい。君は助かった命を大事にこれからも生きていかないといけない。親とお別れして元居た場所にお戻り」

すると子フェンリルは親のフェンリルの死体をじっーと見ていたが、急にキャンキャンと鳴きながら死体の周りを一周して僕を見上げてきた。
「お別れできたみたいだね。じゃあ、僕たちも戻るから君も元居た場所に、仲間たちのもとへ帰るんだよ」
僕たちの会話を聞いていたカイル隊長がうなずき、親フェンリルをマジックバックにしまった。

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